ありときりぎりす?
あるところに、陽気なミュージシャンがいました。彼は天気が良いと、広場でギターを爪弾き、雨が降ると、軒下なんかでゴロゴロしていました。歌もギターもとても人気があって、聴きに来た人達は、何かちょっとした食べ物や小銭を置いて行くので、彼は困る事はありませんでした。
秋になると、時々聴きに来ていた女の子達が来なくなりました。とても美しい6人姉妹なので、彼は来てくれるのを待ち焦がれていました。
ある秋の雨の午後、森で雨宿りをしていると、気になっていた6人姉妹も雨宿り。大きな樹の下で雨が上がるのを待ちました。
「素敵な雨ですね?」
「雨が素敵なんて思いもしませんでした。働き辛いだけですわ。」
「雨の日はお休みにしては如何です?」
「もうすぐ冬ですから、しっかり支度をするんですよ。」
「春も、夏も似たような事を言って、ずっと働いてましたよ。そんなに働いてどうするのですか?」
「あっ雨が上がりました。私達はこれで。」
軽く会釈をして姉妹達は大きな荷物を背負って街に向かった。
彼は雨の歌を口ずさみ、雨で活き活きした草を刈って食べた。
「刈りたてが美味いんだ、家に運び込んだら不味くなるだろう。」
姉妹達はそれからも毎日働き、彼は歌い続けた。
季節は冬になり、彼のお気に入りの寝床は雪に埋もれてしまった。お気に入りの草も雪の下。
街に出て、歌を歌えば、誰かが食べ物を分けてくれるだろう。彼はそう思ってギターを持って街に向かった。
街はしんと静まり返って、外を歩く人は全く居なかった。彼が住んでいた南の街では、冬でも普通に人が歩き、歌えばたくさんの観客に囲まれていたものだった。灯りの点いた家も殆ど無く、たまにあっても、中に入れてくれたり、食べ物を分けてくれる事は無かった。
夜中まで彷徨い、町外れの小さな家の、小さなドアをノックした。
「あら?歌い手さんね?こんな寒い夜中に出歩くなんて!凍え死んじゃうわよ!」
小さいと思った家は、広い地下室があり、子沢山の母と、沢山の姉妹で暮らしているそうだ。
暖かい地下室で温かい食事をすると、元気になった彼は、
「お礼に何か歌いましょう。」
「ありがとうございます、曲がよく解りませんので、お任せでお願いします。
1曲歌い上げると、
「こちらのお部屋をお使い下さい。」
「いいんですか?」
「ええ、ごゆっくりどうぞ、私達の身体に合わせた小さな作りでご不便でしょうが、そこは我慢なさって下さいね。」
食べては歌い、歌っては寝る。上げ膳据え膳の暮らしがしばらく続いた。
さて今夜はクリスマスイブ。
「皆さんなイブは、どのように祝うのですか?」
「あっ、えっと、毎年ではありませんが、少し贅沢なご馳走を頂きます。貴方は?」
「大勢で歌って過ごす事が多いですね、赤い葉っぱを食べたりして。何か歌いましょう!」
「では、レクイエムをお願いします。」
鎮魂歌?もう少し陽気な歌が良さそうだが、素直にリクエストに答えた。
「当家にある中で、一番赤い葉っぱです。」
少し赤っぽい干し草を食べると、
「ディナーの支度、手伝って頂けますか?」
「ええ、もちろん!」
キッチンに着いた頃には頭がボーっとして、手足が痺れてきた。
「そこに横になって下さい。」
言われるがままに硬いベッドに横になった。
寝ているのは、ベッドでは無く、調理台のようだった。徐々に遠くなる意識の中、嬉しいそうな姉妹達の声が聞こえてきた。
「狩りたてが美味しいのよね!」