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姫り眠  作者: 宮野やしろ
4/7

〜対立〜

10月2日水曜日


津堂が教室に入ると、加東が腕組みをして黒板とにらめっこをしていた。どうしたのかと黒板を見てみると、日付が9月32日になっている。日付は消せないはずだから、きっと荻原を消した奴が変えたんだろうと推測しながら津堂が加東に話し掛ける。


「加東、おはよう」

「おはよう津堂」

「また日にちが増えてるな」

「あぁ。朝来たら変わってたんだ」


今日一番最初に教室に入ったのは加東で、その時日付が変わっているのに気付いたのだという。それを聞いた津堂は、荻原の件を思い出して不安げな表情を浮かべた。


「加東、なるべく1人にならない方がいいぞ」

「でも最初に気付いたから消えたって決まった訳じゃないし。まぁ用心するよ」

「うん・・・」


加東が言う事ももっともだが、でももしそうだとしたら?

どうか今日1日加東が無事であるようにと、津堂は心の中で強く願った。


「おはよう蒔苗」

「おはよ」


先に来ていた蒔苗と挨拶を交わし、津堂も自分の席に着く。鞄から机の中に教科書を移していると、右斜め前からガタンッと椅子を引く音がして津堂の肩が反射的にビクッと跳ねる。そろりと顔を上げると篠山が蒔苗に「おはよう」を言っていて、その流れに乗って津堂も声を掛けた。


「おはよう篠山」

「おはよう」


よかった、普通に挨拶出来たと津堂は安心した。

昨夜から篠山の事を疑ってしまっているが、それで態度を変えるような事はしたくない。まだ篠山が消したという証拠もないのだから、いつも通り振る舞おうと背後から篠山を見ていると、篠山がチラリと津堂の方を振り向いた。


「ねぇ、視線がウザいわ」

「うぇっ!?・・・あっ!蒔苗笑うな!」


昨日とそっくりなやり取りを聞いて、蒔苗がスマホで顔を隠して笑いを堪えている。蒔苗と同じ事を言われてショックを受ける津堂に、篠山がため息混じりにこぼした。


「どうせ私が消したと思ってるんでしょ」

「!!篠山、ちょっと廊下出れる?」


コクリと篠山が頷くと、津堂は席を立って篠山と教室を出た。


「昨日私が消すって言ったから疑ってるんでしょ?」


図星を突かれて、返す言葉が出てこない。嘘をついても仕方ないと観念して、津堂は正直に「うん」と答えた。


「疑ってごめん」

「それは別にいいけど、私が言ったのは殺してバラバラにして山に埋めるか海に沈めるって意味よ」

「お前、そんな恐ろしい事よく平気で言えるな・・・」


そういう事を言うから誤解を招くんだと津堂が呆れていたら、廊下の向こうから歩いてきた男子が津堂達の方へ近寄ってきた。


「なぁ、今バラバラ殺人とか言ってなかった?篠山さんってミステリー好きなの?」

「えっと、ごめんなさい。誰だったかしら」

「同じクラスの木原だよ」


津堂から紹介を受けて、木原が「よろしくー」と篠山にピースする。茶髪にピアスで一見アホそうに見えるが、そこそこ勉強が出来て将来の夢は探偵という、本気なのかふざけているのかよく分からない人物である。


「俺ミステリー好きでさ、昨日も8時からの話し合いですげー盛り上がったんだ」

「そうなの」


そういえば、荻原黒幕説をめちゃくちゃ推してたなと津堂が思い出している横で、木原がそれについて篠山に熱く語っている。


「荻原君が黒幕だったらたしかに面白いわね」

「でしょ?でも俺は、氷上も怪しいと思うんだよね」


そう木原が言った瞬間、空気が重くなったように津堂は感じた。とは言っても篠山の表情に変化はなく、木原と話を続ける。


「動機は?」

「動機?うーん・・・わかんない!」

「・・・・・」

「木原!そろそろ先生来るから教室入ろう!」


篠山の木原に対する視線が冷たくなった気がして、津堂は慌てて木原を教室に押し込んだ。どっと疲れた様子で津堂が自分の席に戻ると、珍しくまだ夢宮が来ていない。一瞬嫌な予感が過るが、チャイムが鳴るのと同時に夢宮が教室に駆け込んできた。


「はぁーよかった!ギリギリセーフ!」

「おはよう夢宮さん。寝坊でもしたの?」

「おはよう篠山さん!そうなの!起きたらもう8時過ぎてて・・・あっ、津堂君もおはよう!」

「おはよう」


2人に挨拶した夢宮は、席に座り鞄から教科書を取り出す。完全に蒔苗をスルーした夢宮に、津堂は驚きを隠せない。


「あの、夢宮?」

「ん?なに?」

「いや、何でもない・・・」


別に絶対にしないといけない訳ではない。挨拶するかしないかは夢宮次第だ。

だけれど、たとえ返事が素っ気なくても蒔苗に「おはよう」と言う夢宮を津堂は密かに応援していた。いつか2人が仲良くなったら良いと思っていたから、今の夢宮を見て少し寂しい気持ちになった。


「みんなおはよう」

「おはようございます」


チャイムが鳴って生徒達が席に着き、朝のホームルームが始まる。そこで津堂は、空席が3つある事に気付いた。

1つは荻原、もう1つは氷上。残る1つはーーー。


「では出席を取ります。石井君」

「はい」

「江南さん」

「はい」

「加東君」

「はい」


いや、もしかしたら遅刻かもしれないしと津堂が考えている間に、どんどん名前が呼ばれていく。


「野々田さん」

「はい」

「氷上君は今日も休みか。えー、本多君」


いなくなったのは、原道という男子生徒だった。

クラスメイト達の視線が原道の席に集中する。担任に何を言っても無駄だという事はよく分かっているから、みんな担任が名前を呼び終わるまで無言でうつ向いていた。

1限目が始まっても、正直みんな授業どころではなかった。また1人クラスメイトが消えたのだから当然だ。

だが、これで分かった事が2つある。日付に気付いたから消える訳ではない事と、消えるのは1日に1人ずつという事だ。ただそれが分かった所で安心も、何か手を打つ事も出来ないのが現状で、次は自分が消えるんじゃないかという恐怖と不安に誰もが怯えていた。

授業が終わり休み時間になると、生徒達はそれぞれ仲の良い友達の所へ行ってヒソヒソと話をし始める。津堂も加東の所に行ってみようかと席を立とうとすると、田井中と木原の会話が津堂の耳に入って来た。


「今度は原道かぁ。マジで誰なんだろーな?犯人」

「だぁから、荻原か氷上だって!」

「お前まだそれ言ってんの?つーか声デケーよ!」


田井中達の会話を聞いて、津堂はハラハラしながら篠山の様子を伺う。朝の廊下での雰囲気からして、理由は分からないが篠山の前で氷上の話をするのはタブーだと津堂は感じた。それに津堂も友達が黒幕だなどと言われるのは良い気がしない。当の本人は地雷を踏んでいる事に気付いていないので、直接伝えようと津堂は木原達の元に向かった。


「木原、ちょっといい?」

「ん?なに津堂」

「お前が推してる犯人説なんだけど・・・」


氷上の件と自分の気持ちを津堂が伝えると、木原は申し訳なさそうに謝ってくれた。


「ごめん。俺ミステリーの事になると見境なくなって・・・」

「いや、分かってくれればいいから」

「俺もごめん。これからはちゃんと木原の事注意するわ」

「うん、よろしく」


しょんぼりと反省する木原と田井中の様子に、津堂は耳を垂れた子犬を連想してフッと口元を緩めた。加東とはまた次の休み時間に話すことにして、津堂が自分の席に戻ろうとした時、閉まっていた教室のドアが開いた。

教室に入って来たのは、ここ何日か休んでいた氷上だった。

クラスメイトの注目を一斉に浴びながら自分の席に向かう氷上に、加東が今起きている事態を説明しようと近寄る。


「おはよう氷上。来て早々悪いが、手短に話させてくれ」

「うん、わかった」


何を?とは聞かずに、氷上は加東からの説明を黙って聞いている。普通ならまず信じない、耳を疑うような話を表情1つ変えず、長い前髪の間から覗かせた目で加東の目をじっと見ながら。


「夢みたいな話だけど、実際にもう2人消えてるんだ」

「だったら荻原君と原道君を消した犯人を見つけるのが最優先だね」


また誰かが消える前に、一刻も早く2人を消した犯人を見つけるべきだと氷上は言い、その意見に加東が深く頷いた。


「何言ってるの?犯人は神様だよ」


唐突な発言に、加東と氷上を始めクラス全員が声の方へ目を向ける。発言の主は夢宮で、思いがけない彼女の主張にみんなが驚く中、蒔苗はスマホ越しに夢宮をジッと睨み、篠山も夢宮を流し目で見ている。夢宮が発言を続ける。


「これは神隠しで、神様が思いつきで荻原君と原道君を消したの」

「いや、そう見せかけて何か法則があると僕は思う」

「証拠は?」

「ない。君だってそうだろ?」


対立する夢宮と氷上の一触即発な雰囲気に、教室をピリついた空気が包み込む。そこへタイミングよく始業のチャイムが鳴り、次の教科担当の教師がきた為、夢宮は不機嫌な顔で自分の席に戻った。


「あんなさち初めて見た・・・」


夢宮と仲の良い野々田が、唖然とした表情で呟いた。

普段の夢宮からは想像出来ない言動を目の当たりにして、クラスメイト達の彼女に対する印象は一瞬の内に悪い方へと変わっていった。

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