メカ少女は知らなかった
放課後。私は約束通り図書室に来ていた。嫌いなら、ほったらかせば良いのに、と思われるかもしれないが、あんな風に言われたら、私も黙っちゃいない。余裕そうなあいつにも、くやしい思いをさせてやりたい。図書室のドアを開けると、すでにシイは来ていた。差し込む夕日で逆光になり、顔は見えない。
「ねぇ、私思うんだけど、足の速さとかで絡んでくるのやめてくれない?あと、違いを教えるとか言っても、そんな自慢できることないでしょ」
最初に話しかけたのは私。シイも反応する。
「事実を言って何が悪いのかしら?それに、私と貴方は天地ほどの差があるのよ」
「何が天地ほどの差なんだよ。私の身体能力差し引いても、そっちは普段の行いで減点でしょ」
お互いに反論し合ってだんだんヒートアップしてきた。でも負けたくない。
「あら、言ってくれるじゃないの。それに私は普段の行いも悪くないわよ。成績も上だし、見た目も綺麗。ま、貧乏で成績も悪い貴方じゃ理解できないわよね」
「貧乏で成績悪くても良い人はいるよ?逆に成績良くてお金持ちでも悪い人は悪いよね?本人に言っても駄目かな?」
「貴方も大概口が悪いわよ?それに誰が本人なのよっ。この、壊れたオモチャが!」
「壊れたオモチャって…!」
もう怒った。そっちがそんな風に言って、大人しくしてる私じゃないんだよっ。でも、言いたいことがありすぎて上手く言葉が出てこない。その隙をついて相手も怒りパワーを利用して、どんどん酷い事を言ってくる。私も負けじと悪口を言い返す。もう、品もルールも関係ない。お互いに相手の事を罵り合って、叫ぶような感じになっている。目がギラギラしている。両方、夕日も怒りも合わさって、赤鬼の様に真っ赤な顔になっていた。
そうしている内、目の前がだんだんぼやけてきた。シイも何を言っているのかわからない声になってきた。
「もうっ、うそ泣きっな゛ん゛て、するんじゃないわよ゛っ」
「うっさい゛っ、言うな゛ぁっ」
声の張りも落ちてきて、ぐちゃぐちゃに頭の熱が一瞬冷めてきた時、やっぱり言いすぎだったかもなぁ、と罪悪感も湧いて余計に泣きたくなる。シイも何か思うところがあるらしく、最初程、酷い事は言ってこない。
お互いだんだん静かになってきた時、先生が騒ぎを聞きつけたらしく、図書室に入ってきたようだ。私たちを見るなり、どうしたんだと、叫んでいた。
「こいつっ!のぞみが私に酷い事言ったんですっ」
「シイもっ!私にとんでもない事言いましたっ」
同時に喋った内容は対象が違うだけでほぼ同じ。先生は、上手く聞き分けた様でどうしてこうなったのか経緯も求めてきた。お互いに順番に話す。何がなんだかわからないが、シイは私の半メカ化の事も言ってしまったらしく、もうごまかしが効かない左腕のことが確定してしまった。先生は難しい顔をしていた。長い間、沈黙があった。悪口の内容もお互い全て告げ口した。先生が、ついに口を開いた。
「まずはお互い謝りなさい。そして仲直りするんだ。特に、シイさんは、根も葉もない事を言われてくやしいと思うが、君も、のぞみさんに同じくらい酷い事を言った」
私たちはお互いにポカンとした表情になった。何故自分がと言う様な。私はそりゃお互い謝らなきゃ行けないとは思うけど、「特にシイさんは」なんて強調する必要は無いと感じる。私の方こそ根も葉もない事を言われたのだ。とりあえず、二人とも謝ったので、先生は出て行った。
シイは帰ろうとしたが、私は何故か引き留めた。
「待って」
シイはこちらを振り向く。涙のあとはあるのに目は赤くなっていないし、腫れていない顔だった。私はきっと、目は赤いし、まぶたも腫れているだろう。両方、疲れて沈んだ顔をしている。引き留めたのに続く言葉は無くて、気まずい。でも、このままじゃ駄目な気がする。何か私が知らなかった事をシイは知っている。それに、とりあえず謝ったことなんかじゃ私たちは永遠に遠くなったままであろう。
「ねえ」
「仲直りしたい」
同じことを言っていた。でも、腹の底では私もシイも、ただの好奇心があるだけで、なんと無く悲しいだけで、本当に思ってるわけじゃ無い事も、二人とも、分かった上で話している。
「ごめんね」
また謝った。でもここで聞くのは場違いだよなぁ、という思いがあって、また静かになった。
でも、冷たい手足が勝手に動いて、私はシイの方に近づいて行った。相手は何を言うか待っている。できればメカ化の話ししたいな、という空気がする気がした。
「ごめん、聞かせて。シイもメカ化してるの?」