メカ少女は寂しくない【故障したまま人になるまで】
倒れためりかを起こすために走り寄ると、焦げ臭い匂いが私を囲んだ。シイとヴェーの方からだった。シイに関しては、ヒビからも黒い煙が上がっていた。少し触ってみたが、やはり動く気配はない。死んだのか?…いや、メカだから壊れたと言った方がいいのか。
ぼんやりと、動かない二人を眺めていると、スカビオサの叫ぶような泣き声が聞こえてきた。
「ああああああああああああああああああああああああっ」
驚いてスカビオサの方を向くと、機械の前でシイの名前を呼んで、涙を流している姿があった。ヴェーの名前は呼ばず、代わりに、わたる、という名前を叫んでいた。
スカビオサはもう泣くことしかせず、こちらには見向きもしない。私は、スカビオサのいない機械の方に向かい、また、叩き壊した。この機械を壊すと、何かが爆発するような音がして、はっきりわかるほどに地面が揺れた。天井からパラパラと硬いものが落ちてくる。倒壊する。研究所を去らなければならない。最後の機械の方に向かう。こちらは丸い光が浮かんでいた。張り上げた手が機械に当たる直前、スカビオサが、私を見て呟いた。
「ぁ……も……かぇ……や…な」
聞き取る前に手は機械にあたり、スカビオサは煙を吐き出して動かなくなった。
そうしている間に、研究所は倒壊しかけていた。私はめりかを背負って、壊れかけの壁を壊して脱出した。
「ここまで来れば…大丈夫だよね。うわ、町中がぼろぼろ」
町は酷い状態だった。爆発音の正体は多分これだ。瓦礫まみれで歩きにくい。その時、人工音声がめりかの方から聞こえてきた。
「データ処理機能ニ、異常ガ起キマシタ。離鳥めりかノ、データ処理ガ不可能トナリマス。データヲ移行シマスカ?」
「え、どういうこと?めりかのデータ処理機能…?」
「裏野研究所、管理室ノ、一部機械ガ破壊サレタタメ、データ処理ガ不可能トナリマス。三百メートル先の公民館、非常用データ処理機械ニ、データを移行シマスカ?」
脳裏にシイとヴェーの姿が浮かぶ。データ処理が不可能になったら、もしかしたらめりかも…。
「データを移行しますっ」
「了解シマシタ。首元ノ、バーコードヲ保存シテ、公民館ノ機械デ読ミ込ミ、シテクダサイ」
めりかを下ろして壁に寄りかからせた。首元を探るとバーコードがあった。バーコードをスマホで撮ってから、走って公民館に向かう。三百メートル先、近い公民館は一つしかない。
公民館の中のそこら中をひっくり返して目的の機械を探す。バーコードを読み取れるもの。管理室にあった機械に見た目が似ているもの。一分がすごく短く感じる。探して探して、やっと見つけた。
読み込まないと。ピッと音がして、読み込み中の表示が機械に出た。それなのに…
「読み込みニ失敗シマシタ。別の機械ヲ探シテクダサイ」
めりかのもとに戻る。曲がり角を曲がると、細い煙が!
「待って待って待ってっ」
遅かった。めりかの左目から煙は出ていた。ゆすっても呼びかけても、叩いても、全く動かない。
「…なんで、めりか…親友なのに…いなくなったら…」
静まり返っている時のまま、数秒たった。
「恒久のぞみノ声ヲ認識シマシタ。十五分前ノ音声データヲ再生シマス」
えっと思うまもなく、めりかの声が再生された。途切れ途切れだが、聞こえる。
『い……で…りがとう…のぞみ………えて………なら』
『私は…っと…寂しくない』
私が最期に感じたのは、自分から香る焦げた匂いと、めりかの軋んだ声だった。
終わり
ここまで読んでくださりありがとうございました。
ヴェーとスカビオサの過去も書こうと思っているので、読んでいただけたら嬉しいです。
題名は、
『メカ少女は寂しくない【くり返す時が進むまで】』
です