思い違い
ヴェーが旦那。スカビオサは最初から向こう側だったということか…。それにしてもヴェーは偉い人そうだったけど、スカビオサは普通の職員なのか?
「あの…」
「ああ、大丈夫やで。質問なんていらんから」
でも…とスカビオサが続ける。
「大事な管理室壊そうとしてるんはあかんな。私、あんたらみたいなの、本当は好きちゃうんや」
笑顔を消して、こちらをじっと睨みつけた。そして静かに近づいてくる。それが怖くて、後退りした。
「何で近づいてくるんですか…?」
「気持ち悪い敬語はやめてくれへん?近づいて欲しないってことやろ?なんでなん」
「そんなこと」
「私のことが怖いん?こんなに普通な見た目しとるのに。シイがここに連れてきた時もそうやった。ヴェーと会った途端逃げ出すんやから。…まあ、そんなんやったら私なんかが怖くてもしゃあないな」
責めるように話しかけてくるのに、歩くペースは遅いまま。何か余裕がありそうで、逃げることもためらってしまう。しかし、ためらうべきでは無かった。向こうからヴェー、シイ、数えきれない職員が廊下を埋め尽くしている。スカビオサが率いているみたいだ。ゆっくり、ゆっくり、近づいてくる。私とめりかは、やはり後退り。
そのうち、スカビオサがこちらを蔑むような目をしたまま、こう呟いた。
「ヴェー、後は任せとくわ」
スカビオサが近くの部屋に入るとほとんど同時だっただろうか。ヴェーが腕を上げた。それを合図に職員達が迫ってくる。
逃げる。前ならそうしたかもしれない。今もそのつもりだった。しかし、それより早く、私の左腕は緑のボタンを押していた。確かここは、左全体。
「のぞみ!何して…⁉︎」
めりかが叫んだのがやけに遠く聞こえた。遅かった。もう左半身全部が光っていた。心臓がやけにドクドクしている。この力でもちろん戦うこともできるはず。わたしは人混みの中に突っ込んだ。
ぶつかるだけで職員たちが飛んでいく。ヴェーとシイのところまでたどり着くのは容易いと思う。起き上がって、しがみついて止めようとしてくる奴らをなぎはらって走った。ぶつかっても飛ばないやつに当たった。見上げると、シイ。
「ねぇ、シイ。なぜ私たちをヴェーがいる部屋に連れていったの?」
「貴方とめりかはダメだった。何故のぞみの母がこんなことを考えたか知らないけど、もう居てはいけなくなったの」
「裏切り者、信じたのに」
「酷いわ。私は信じろなんて、友達だなんて、言っていないもの。困るわね」
シイは初めて会った時のように目を細めて言った。でも、意地悪そうに見えないから嫌だ。私の方がおかしいのだろうか。
隙を見せたのがいけなかった。シイが私を投げた。体が地面に叩きつけられて軋んだ。そうか、シイもメカなんだった。
「シイ、ごめん」
今度は私がシイを床に叩きつけた。