溺れたって
慌ててマンホールの様なモノを開けようとする。でも…
「開かない!」
「一旦戻ることもできないのか…」
「いや、めりか!やばいでしょ!だって罠かもしれないんだよっ。ここだけすんなり侵入できたのも怪しいっ」
「焦りすぎだって。さすがに密閉空間なのはないよ。息できてるし。それに罠って確定してるわけじゃ…な…」
めりかも感じたのだろう。足元に広がった冷たい感触を。靴の中に水が入ってくる感触を。
「水が流れ出てきてるよっ」
「やばいやばい!どんどん増えてるっやっぱり罠だって言ったじゃんっ」
「溺れる前に出なくちゃ!」
二人でマンホールの様なモノを引っ張るが、びくともしなかった。その間にも、水は勢いよく増えていき、もうしゃがんではいられなくなった。
「ダメだ。もうふとももあたりまで水が…」
「メカは防水加工ありそうだけど…溺れたら元も子もない」
「うわっ腰まで水が来た!」
「空気の、ところっないのっ?」
「探そう!」
下を見る。泡が出ているところはない。ということは、空気が出ているのは床ではなく上。壁の細い隙間でもいいから穴を見つけて、そこからこじ開けて壊そう。
それから私たちは死に物狂いで空気の穴を探した。その間、空気はなくならなかったので、やはり穴はあるのだと思う。でも、だんだん水面の高さは上がる。ついには立ち泳ぎ。足がつかない。
「めりか、あった?」
「ない。もっと上かな?」
「でも天井まで行ったらあとがないよ」
「もしなかったら…」
「…とにかく探さないとっ」
見落としているところがないか隅々まで探す。水面が上がるにつれて天井が迫る。水はどんどん増えていって、ついには天井ギリギリになった。
「すーっ…はーっ…」
「すーっはーっ…」
「フウーっ…ふーっ…」
もう探す余裕もない。呼吸をするのに必死だ。それでも、罠は容赦しない。…水が部屋全体に満ちた。
焦りが募る。でも無駄に動いては酸素を消費してしまう。めりかも私も、それをわかっているから喋らず、もし穴を見つけたら目で合図することになるだろう。今は水が満ちている。泡。泡が出ていないか。壁をゆっくり、でも急いで探す。すると、水流が発生しているところが見つかった。…ここから水が出ている!
私はめりかを呼んだ。泳いでこちらにくる。だいぶ息が苦しくなってきたけど、もう少しの辛抱なはず。そう信じて、青いボタンを押した。足の光が強くなるのを確認した瞬間、私は思い切り壁を蹴った。
わずかな隙間。水が出ているガードが甘いところから一気にヒビが入って壊れた。大量の水が流れて、私たちも流す。
空気が吸えた時、安心したのか、それとも今まで無理をしていた酸欠か、私の意識は薄れていった。