研究所とシイ
「ねぇ、それで、その、シイが知ってる情報って…」
シイはヤバい科学者の娘だという噂があるのは知っている。もしかしたら関係があるかもしれない。
「あぁ、私のパパ、裏野研究所の職員なの。そんな偉い人じゃないけどー…って、聞いてるの?」
「わわわ…えっと…」
この計画をシイに言ってしまったのはまずかった。なぜならシイのお父さんの仕事を無くすことになるかもしれないからだ。
「シイのお父さんの仕事無くならないの?」
「大丈夫、ママの方が稼いでるんだもの」
「いや、でも…」
「お母さんのお願いどうするのよ」
「あぁあ…」
どうすればいいのか。本人が大丈夫って言ってるし、大丈夫なのか。いやいやいや、さすがに友達の親の就職先を壊すなんて。
「ていうか、貴方はお母さんから何も聞いていないの?」
「エ?」
「ほら、のぞみの武器機能のこと」
「本当だ。聞いてみるっ」
三人で私の家まで走る。しかし、家で見たのは想像を絶する事だった。私のお母さんも、追っ手になっていたのだ。やはり無表情で追いかけてくる。信じられない。信じたくない。
「お母さん、なんでそんな、やだ、やだ、やだ」
「のぞみっ逃げなきゃっ」
「貴方、捕まっても良いの⁉︎」
「でも、お母さん、治さないと」
「そんな方法ないよっ捕まるよっ」
「おかあさんが、」
「早くっ連れてくわよっ」
私はシイとめりかに引っ張られて家を出た。お母さんが。そんなまさか。なんで、病院にいた人だけじゃ…。いろんな思いがぐるぐる駆け巡る。でも止まっている暇はなくて。いつのまにか、一番長く一緒にいた人がいなくなっていた。それに、お母さんが私の使い方を教えてくれるかもしれない希望だったのに。こんな事なら最初に全部説明してくれれば良かったのに。目の前がぼやけて涙がボロボロこぼれ落ちる。
そのまま走り続けて十数分。目の前には裏野研究所があった。シイが建物のタイルの一部を踏んだ。そしたら、なんとセキュリティを避けた地下の道が開けたのだ。びっくりして一瞬涙が止まる。
「貴方、お母さんのことは、その…とにかく入って」
ぐいっと手を引っ張られて中に入る。それにしても私のお母さんを見てからシイの様子がおかしい。ずっとこっちを振り向かない。めりかも少し違和感を覚えているようで、私の手を離す。でも、シイに引っ張られて二人とも連れて行かれた。
建物の先には一人の男性がいた。白衣を見にまとっている。
「パパ、連れて来たわ」
「シイか。その子達だね」
シイに、パパと呼ばれたその人は、私たちをじろりと見た。思わず身構える。
「あの…シイのお父さんですか」
先に口を開いたのはめりかだ。
「あぁ、私がシイの父親、ヴェーだよ」
「ヴェー…さん?」
「そうだ。管理室の機械を破壊したいんだってね」
「はい、その…」
「大丈夫だよ。理想を邪魔する奴には消えてもらうから」
「え?」
その瞬間、嫌な感覚がして、私はめりかと後ろに跳んだ。
さっきまで私達がいた場所には、溶けたような穴があいていた。