表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『ミラージュ・ワールド・オンライン』シリーズ

ゲーマーたちのクリスマス

作者: 紺海碧

 毎年恒例......にしたいクリスマス短編です。

 ......去年描こうとしたのとは違いますが、改めて、彼らと向き合えたので、よしと......したい、です。

 それではどうぞ!

 ゆっくりと意識が浮上する。

 “おれ”は、ゆっくりと目を開けた。

 見慣れた天井が、視界に入る。

 おれはそっと身体を起こし、今まで“寝ていた”ベッドから降り、閉じられていたカーテンを開けた。

 そして、ベッドに戻って腰かけ、ウィンドウを開く。

 ......ここは、現実ではなく、ゲーム・VRMMOの世界。タイトルは、『ミラージュ・ワールド・オンライン』で、通称MWOという。

 そして、剣と魔法の世界でもあるここでは、プレイヤー同士で“パーティー”という組織をつくることができ、“パーティーハウス”という家を持つことができる。

 おれがいるこの部屋は、おれが所属するパーティー“ストレイヤーズ”のパーティーハウスのうち、2階の一角に当たる。

 ちなみに、クエストなどで一時的に組むものは“チーム”、同じ職業(ジョブ)――例えば、おれの場合は剣士――同士で集うのが“ギルド”と呼ばれている。念のため。


 「......よし、これでチェックは終わり、と」


 おれがログアウトしている間に、運営やフレンドから連絡が来ていないか確認し終えてウィンドウを閉じ、おれはぐっと座ったまま背伸びした。


 「クエストの誘いもなかったし......。

  予定通り、買い出しに行くとしますか」


 今日は、現実では、12月24日。

 ――そう、クリスマスイブだ。

 現実時間で今夜、パーティー内でクリスマスパーティーをする予定なのだ。

ちなみに、パーティー参加者は全員。

 ......まぁ、誰も聖なる夜を共に過ごす相手がここにしかいない(リアルにはいない)、ということでもあるが。

 そして、せっかく全員集まるのならプレゼント交換もやろうとなり、おれはレアドロップを出すつもりだったのだが、今日に至るまでゲットすることが出来ず、街の店で、なにかアイテムを探すことにしていた。

 


 「リアルで試験勉強があったし、仕方ないよな......」


 幸いながら、今は、(ゲーム内では)金には困っていない。

 誰に渡ってもいいようなバフ付きのアイテムを買う余裕ならある。

 どう街を周るか頭の中でルートを組み立てつつ、おれは1階に下りた。

 外出する前にだれかいないか、とメインルームに顔を出すと、思いがけない人物がいた。


 「あ、シリウス。

  おはようございます、早いですね」


 「シャドウ!

  おはよう」


 ソファに座っていたのは、我らがパーティーのサブリーダー・シャドウだった。


 「シャドウがこの時間にいるとは思ってなかったよ」


 シャドウは、以前自分で、リアルでは大学生をしていると言っていた。

 そして、今日は講義があるため、パーティーの準備開始直前に来ると聞いていたのだ。


 「ええ、私もです。

  実は、先生の都合で休講になりまして。

  暇だから、こうしてログインしたんです。

  シリウスは......、交換会のプレゼントの調達ですか?」


 「ああ」


 おれは頷いた。


 「なるほど、そうですか......。

  そういや、先ほど、リックも同じようなことを言って出ていきましたね」


 「えっ、リックも?」


 リックとは、同じパーティーのメンバーであり、おれの相棒的存在ともいえる魔術師である。

 あいつはおれと同年代で、この時間ならインしていてもおかしくないだろう。


 「じゃ、気を付けて行っておいで。

  もめ事は起こさないように、ね」


 「起こしません!」


 相手から売ってきたなら別かな。

 そう内心返事しつつ、おれはメインルームを出て、パーティーハウスの玄関へと向かった。


     *   *   *


 クリスマスイブだからか、いつもより多く感じる人並みを縫いつつ、おれは職人プレイヤーたちが作ったアクセサリーが並ぶ露店を見て回っていた。

 攻撃力アップは、戦闘型しか使わないな。

 MP系は、魔術師やヒーラー向け。

 素早さは、特定の人物向けになってしまうな......。


 「これは困ったな......」


 予算内で品質がいいものがあっても、誰の手に渡っても問題ないものが見つからない。

 そう悩みつつ、一つの店に立ち寄った時だった。


 「「あ」」


 隣の先客を見て、おれは思わず声を上げた。

 同じタイミングで声を漏らしたのは、パーティーハウスを出る前に話題に上がった彼、リックだった。


 「おはよ、シリウス」


 「あ、ああ、おはよう、リック」


 そう挨拶を交わす。

 まさか、こうして出会えるとは、思ってもいなかった。


 「もしかして、シリウスも、プレゼント探しに?」


 「おう。

  リックは......、見つけたみたい、だな」


 ちょうど、店の人がリックに包みを渡しているのを見て、おれはそういった。


 「うん。

  ちょうどね、〈幸運〉のバフがついたものがあったから」


 「あっ、〈幸運〉か!」



 確かに、〈幸運〉なら、どの職業でも役に立ちそうだ。

 なら、被らないように、おれは〈幸運〉以外のバフを選ばなければ......。


 「どうしよ......、ん?」


 そう思いつつ、並べられた商品を見ていたおれの目は、一つのペンダントに吸い寄せられた。

 葉っぱをかたどったトップがついたペンダント。


 「これは......」


 値段も予算以内。

 バフも(リックとは)被らないし、誰の手に渡っても問題ないだろう。

 なら、これしかない、よな。


 「はい、毎度あり~!」


 店の人が、そう言ってにっと笑う。

 おれは、何故か店の人に対してわずかな敗北感を味わいつつ、代金を差し出した。


     *   *   *


 「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


 ちょっと時を進めて夜。

 シャドウ曰く“お仕事”(リアルの用事)で遅刻するというリーダーを置き去りにして、クリスマスパーティーは開幕した。

 みんなで作った料理を食べたり、普段しないような話をしたり、いわゆる“クリぼっち”の恨み話をしたり。

 そうこうしている内に、疲れ切った顔をしたリーダーが合流し、アルコールを口にして――リアルのように酔った感覚になれるらしく、もちろん未成年は呑めないので聞いた話にはなるが――愚痴をぶちまけ、シャドウに制裁を加えられるという一幕もあったりした。

 そうして、最後にプレゼント交換しよう、という流れになり、めいめいソファや床に座り、自分が用意したプレゼントを出す。


 「そんじゃ行くぞ~!

  ♪~~」


 厄介な酔っ払いと化したリーダーがそう仕切り、お馴染みのクリスマスソングを(ちょっと音程を外しつつ)歌いだす。

 おれたちは、歌に合わせて、イス取りゲームの要領で隣へとプレゼントを渡していく。


 「♪~~~!

  ストップ!!

  各自、自分のじゃないプレゼントを持ってるな?」


 おれたちは異口同音に肯定し、自分の手元に渡ったプレゼントを見る。

 おれの......、これ、見覚えあると思ったら、リックのだ。

 ということは、〈幸運〉バフのアクセサリーのはず。

 これは、おれにとっても結構うれしいかもしれない。けど、デザインはどうなっているのだろうか。

 そう思いつつ開封し、おれは思わず声をあげた。


 「わぁ......!」


 中にきちんと包装されて入っていたのは、羽モチーフがついた、シルバーに輝く指輪だった。


 「すごい、きれい......!

  いいなぁシリウス、それ、すごく似合うと思うよ!」


 「ねぇ、シリウスのプレゼント、誰のからなの?!」


 隣にいた、モモとソルトがそう歓声を上げ、シュガーが目を輝かせている。

 ......君たちは自分に渡った開封しなくてもいいのか?


 「リックからのだよ」


 「「「あっ」」」


 おれの返事に、三人は思わずというように声を上げ、顔を見合わせた。


 「へぇ~、なるほどねぇ......」


 「納得......。

  シリウスに行ってくれてよかった......」


 そう言いあう二人を見て、おれは首をかしげた。

 一体どういう意味だろうか。


 「これに関しては、ぼくも同意見かな~」


 「ソルトまで......?」


 二人の傍らにいたソルト(ブレーキ役)にもそう言われ、おれは納得がいかない気持ちを抱えつつ、おれのプレゼントの行方を探す。

 プレゼント自体は、すぐに見つかった。

 おれは、左の中指に指輪をはめた後、何故かプレゼントを抱えて固まっている人物のもとへ気配を殺しつつ近づき、そっと隣に座った。


 「おれのプレゼント、気に入らなかったのか?

  リック」


 そう声を掛けられ、彼――リックは、びくっと体を揺らし、おれの方を見た。

 そう、おれのプレゼントを引き当てたのは、リックだ。


 「いや、違うんだ......。

  僕は、買うとこと見てたからさ、自分のところに来るとは思ってなくて、びっくりしただけ」


 そう言ってリックは、丁寧に開封し、おれが買ったペンダントを取り出した。

 そして装着し、おれに見せてくる。


 「な? いやなわけじゃないから。

  むしろうれし......、あれ、シリウス、その指輪......」


 「ん?

  あっ、そうそう、おれも、お前のプレゼントを受け取ったんだ。ほら」


 そう言っておれは、リックに手を差し出した。

 リックは、少し口を開けて大きく目を見開き、再び固まった。


 「......リック?」


 おれは、リックの目の前で手を振る。


 「......っ。

  まじで......?」


 「そうだけど......」


 リックはなんとか絞り出したような声で、おれに確認してきた。

 おれは、驚きすぎだろ、思いつつ、肯定する。

 リックは、一度ぎゅっと目をつむった後、目を開いて、おれに笑顔を向けてきた。


 「ううん、クリスマスの奇跡ってあるんだなぁって、思っただけ」


 「......?

  そっか」


 何故か今度は顔を赤くし、テンションハイになった相棒を見つつ、おれは、この一日、さんざん顔を突き合わせていたのに、交わすのをすっかり忘れていた挨拶を思い出した。

 もう今しかタイミングなさそうだし、言っておくか。


 「メリークリスマス」


 どうか、来年も、この言葉を交わせますように。


 「いや~、上手くいってよかったよ、ミッションコンプリート!」


 「コンプリート」


 「だね、シャドウが協力してくれて、ほんとよかっ、うわっ、これ、このプレゼントなに、モモ?!」


 という会話も、裏であったとかなかったとか。

 というわけで、のちのち手直しするかもですが、筆者からのクリスマスプレゼントです。

 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


 さて、筆者の近況と今後の予定なのですが、筆者、予測できない事態が綺麗に続いたせいで今まで顔を出せていませんでしたが、一応元気です! ......もうしばらく、顔を出せない期間があると思いますが、それが過ぎたら、連載中の作品やずっと言い続けてきた連載を始めたいと思っています。

 なので、優しい読者さんたちへ、ずっと音沙汰なしになってしまってごめんなさい。そして、どうかこれからもよろしくお願いします......! み、見捨てないで......。

 それでは、紺海碧でした。

 皆様、ハッピーホリデー、そして、良いお年を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ