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ライカ  作者: こま
1章 くされ縁
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1章 くされ縁3

 ライカと別れ、広い町で情報収集をしたヒスイとトラメは、次の行き先を話し合っていた。南のレイフラウは、翼を持つ鳥の亜人だけの国で、他種族を受け入れない。東のサイトレットは、魔物騒ぎで通行証が規制されているのだ。彼らが探す薬草は、この大陸近辺に生息するという話だから、何とかサイトレットに行くしかないと結論が出た。

 ふたりも強引に通行証を手に入れ、翌日の早朝に王都を出たのだが、引止め係は橋の傍に常駐していた。

「だめですって! 危ないですってぇ! 昨日も女の子がひとり、行っちゃったんです……たぶん、戻ってきませんよお! 冒険者の人、だ〜れも戻ってきませんもん!」

朝もやを重く感じながら、ふたりは橋を渡り始めた。必死の形相で引き止める係に、トラメは努めて反応しないようにし、ヒスイは申し訳なさそうに会釈した。

 町に着くと、ふたりも宿屋に引っ張り込まれる。トラメの長剣が目に付いたらしい。冒険者ではないと説明したのだが、森に入る以上は魔物の情報が要る。とりあえず話は聞くことにした。

 ただの獣様の魔物であれば、ある程度は町人でも太刀打ちできた。だが森の奥の沼地には、それより厄介なものが住み着いている。最近は増殖して、町の近くにまで出てきているのだそうだ。

「厄介、って」

「やつら、普段は目を閉じているが……見たものを石にするんだ」

たまに目を開くと、そういう怪異を引き起こす。これまでの冒険者達も、話を聞いた上で森に足を踏み入れたのに戻らない。

「それでも行くと言うなら、止めないさ。ただ、出くわしたら退治してはもらえまいか。今朝、冒険者がひとりで森に入ったが心許なくてね……」

橋にいた引止め係の言と重なる、ひとりというのがヒスイは引っかかった。

「その、冒険者ってどんな人でした? 金髪の女の子……?」

「ああ、あんたより少し背の低い子だ。短剣一本で大丈夫なのかな」

 ヒスイとトラメは顔を見合わせた。思いがけず、早々にライカと再会することになりそうだ。

 サイトレットの森は、トロムメトラと比べると暗い。茂みは少ないが、高い木が密集していて見通しはいまひとつだった。大きく枝を広げた木の、豊かな葉が日光をさえぎっている。わずかな木漏れ日の下を歩くと、土煙が立たない地面の感触にヒスイが頷いた。

(今度は当たり、みたいだな。でも……)

 ちょっとした仕草で、トラメにはヒスイの考えが見えた。頷きながらも、表情は納得がいっていない風なのだ。町では薬草のことも聞いたが、それから時々こんな顔をする。

「町で聞いたアピラって、珍しい薬草じゃないよな」

トラメが気付いていたことに驚いて目を丸くし、ヒスイは説明を補足した。この土地に合った植物のため、特別に良質なものが採れるので、町の人が連想して答えたものだろうという。歩いているのは自分達だけなのに、ヒスイは周囲をうかがってから再び口を開く。

「探しているのは、万能薬の材料。でも良質だからって、アピラで役に立つとは思えないわ。……それにしても、よく薬草の名前なんて知ってたわね」

「医者一家とは五年十年の付き合いじゃねえんだから、聞いたことくらいあるよ。俺が聞き覚えある薬草なんて、珍しいわけがあるか?」

確かに、と笑ってから、ヒスイはもう一度辺りを見回した。携帯している折りたたみの棍を組み立てる。トラメも背負った長剣に手をかけた。まだ森の浅いところとはいえ、不穏な気配がある。ここからは考え事に気をとられていられない。

 幾らか進むと、甲殻類と昆虫を足したような姿の魔物が襲い掛かってきた。頭と思しき部分には、小さな口と縦の割れ目があるだけだ。これが、普段閉じている目なのだろう。開く前にトラメの剣で串刺しになり、犬ほどの大きさの体は地面のしみと化した。一匹一匹は弱いが、奥に行くほど数が増えていく。すべて相手にしていたのでは埒が明かない。

「走るぞ!」

 石化は、魔物の目から出る光線によるものらしかった。早く移動すれば、当たらずに行けそうだ。何より、数でかかってくるのは奴らの親玉に近付いているせいだと思う。トラメの合図でふたりは走り出した。

 いったん深くなった森は、進むと少し樹木がまばらになり、地面が湿気を増してきた。足場が悪いので、魔物は剣や棍でそれぞれ払いのけている。と、急に魔物の群れが引き、追ってこなくなる。代わりに、鋭く空を切る音がした。

「……っと、」

「どわっ!?」

 トラメの傍にあった木の陰から、突き出されたものがある。とっさに盾にした長剣の寸前で、短剣が動きを止めた。

「ライカ! やっぱり来てたのね」

「あれれ、ふたりも町の人に頼まれちゃったんだ」

別れたときと同じ微笑を見せるが、トラメは内心でぞくりとした。魔物を仕留めるつもりで突き出した短剣を寸止めした折、ライカと目が合った。今とかけ離れた、敵を射抜く矢のような視線はまるで別人だったのだ。冒険者として戦いの中に身をおくと、ああいう迫力が自然と出てくるのかもしれない。紅色の瞳が血を思わせるとは、褒め言葉ではないので黙っていた。脅かすなよ、と笑ってみる。

「お互い様!……少ないけど、まだいるみたいだね」

 振り向きざま、一匹刺して話を続けるのを見て、トラメの無邪気な笑い顔は引きつった。

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