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境界防衛  作者: 蓑火子
懲戒処分過程にて
79/131

第79話 部署そぞろ巡回の男

「……いずれにせよ、次の戦いに勝利した暁に、あなたは蛮斧世界有数の権力者になります。女たちだけでなく、族長たちもあなたを放ってはおかないでしょう」

「つまり、モテ期到来ってか」

「その時季を最大限活用するには、冷徹さが欠かせません。例えば、その新しい方があなたに敵対した場合、直ちに切り捨てる、というような」

「まあワカってます」


 ワカってはいるのだろうが、それを実行に移せるかはまた別の問題なのだ。


「前にもお伝えしたことがありますけれども、人が好いだけでは生きていけませんよ、特に今後は」

「へいへい」

「……」


 タクロが何に気兼ねしているか、私は全てワカっている。ある一面ではとてもくだらないことなのだが。




―庁舎管理棟


「……その女、の、後にいる族長を味方にするため、とっとと、その、女を、自分のモノにしちまえって?うん、やっぱやばい女だ」


 女宰相殿が居なかったら、なんの躊躇も無しにさっさとピチピチ女をご馳走になっていただろうに。しかし、手控えた今、なんて馬鹿なおれ、とはならないような気もする。


「おっ」


 因縁女がピチピチ女に業務伝達をしている。早速仕事しているようだ。


「レリナちゃん、これから庁舎での仕事を説明しますよ。まず最初に……」


 因縁女は努めて真面目ぶっているが、相手は実に無関心。


「ああ、わかってるよ。まあ、何でもかんでも教えなくてもいいよ」


 口調も蓮っ葉である。おれとの面談の時は猫被り状態だった模様。因縁女は、驚きを隠さない作った表情で、


「でも、ちゃんと業務の流れやルールを理解してもらわないと」


 ピチピチ女は生意気にも肩をすくめて宣うには、


「大丈夫だよ、私、下女の経験もあるし」

「でも、庁舎の業務には独特のやり方や知識が必要だから。新人のうちはちゃんと教えるべきだと思っていたんだけど」

「ワカった、ワカった。でも、大体のことは自分で考えられるから、もう大丈夫」


 適当な口調に、もっと呆れ顔を作ってみせる因縁女。


「あーあ、ベテランの私に対してなんてご立派な態度。閣下こりゃ、人選ミスったなあ」


 ニヤリと挑戦的なピチピチ女。


「あなた、ベテランって言ってたよね?それならもっと自信持ったらいいんじゃない?いつか私も心開くかもね」


 そして挑戦に応じる因縁女、


「なら、あなたの未来を占ってあげる」

「突然なに?それに、なら、って何?意味不明……」

「……ム、ム、ム、あなた、路頭に迷うかもね」

「え?」

「このまま行けば路頭に迷うこと間違いなし」

「そんな嫌がらせ……」

「そうならないよう、私たちと仲良くしておくことをお勧めします。まあレリナちゃん、自信は大切だけど、経験と知識も同じくらい大切かもだよ。お互い協力して、しっかりと業務をこなしていこうね」

「そうだね。じゃあ私も予言してあげる。私はすぐにでもあんたをアゴで使ってやるわ。どう?」

「目標を持つことは良いことよー、ま、頑張ってね」

「フン」


 うむ、麗しき女の友情は薔薇の茂みの如し。早速仲良くなれて何よりだ。そして対決が近い今、軍勢の様子をしっかり確認しなければならないおれは超忙しい。




―出撃隊兵舎


「五代目出撃隊長、部隊の様子を見に来たぜ」

「きゅ、急ですね」

「お前の言うこと聞かないヤツは?」

「そりゃいますけど……」

「どいつだ?」

「えーと、あれとかあれとか、あとあれとか」

「ああ、態度悪いもんなあ。どれ」


すたすたすた


 バキ!


「うっ」【青】


 バキバキ!


「うっうっ」【青】


 バキバキバキ!


「うっうっうっ」

「聞け!デバッゲンに勝てばさらに昇給するぞ!だが上の指示に従わないヤツは除外すっぞ!お前らのヘッドは誰だ!」

「……」

「おいトサカ頭、お前に聞いてんだよ。ヘッドは誰だよ」


ぎうぎう


「ぐ、ぐるしい……」

「早く言えコラ」

「じ、じーだぷんくと……」

「そいつの役職は」

「しゅ、出撃隊長……」


ドサッ


「ワカってんなら、お前は昇給できるかもだ。というわけで五代目出撃隊長殿。勝つには下の統率が肝要だ。困ったことがあったら何でも言ってこい」

「しょ、承知!」



―巡回隊兵舎


「おい非デブ」

「こここここ殺すぞ」

「付けてやった連中、ちゃんと躾けてっか?」

「い、今はな」

「どれ」

「……」

「た、助けて!」

「き、きつい……死ぬ……」

「もうイヤだ!ここの隊長は、頭がイカれてる!」

「……」

「うん。ステキな職場訓練やってるな」

「でも、その内、殺しちゃうかも……」

「ちゃんとやらねえとお前をたたっ殺すぞ」

「や、やれるもんなら。お前だって立場弱いくせに」

「下は育ってんだ。非デブの代打はいくらでもいるぜ」

「な……に……!」

「上を目指したいんなら、次は必勝だ。まあ、よく考えろ」

「ぐぎぎぎぎ」



―補給隊兵舎


ドガッ!


「た、タクロ!……さん」

「隊長だせ」

「い、今は物資倉庫にいます」

「そんなとこで何してんだ?」

「なんか軍需物資の保管状況をチェックするとか……」

「なるほど。案内しろ」

「へっ。案内って、いやいや、ここの裏の建物だろ」


バキ!


「うっ」【青】

「案内しろ」

「へ、へい!」



―補給隊倉庫


「よお、仕事か」

「……戦闘や内乱で兵隊が減っている分、過剰な物質がある」

「ほーん、どれだ」

「……あの区画の麦、乾物、酒……あとあそこの中古の武具だ」

「そんな余ってんのか」

「……今、補給隊は密輸出をしていないことも大きい」

「横流しは誰がメインでやってた?」

「……俺だ」

「なんでやってない?」

「……命令だからだ」

「誰からの?」

「……軍司令官タクロ、つまりお前からの命令だ」

「うーむ、良い響きだ。しかし、買い手から苦情はでないのか?」

「……買い手の多くは先般翼人に売り飛ばされた」

「誰に?」

「……お前に」

「あ、なるほどね。で、この物資どうする?」

「……俺の提案は、民間に安価で放出して換金することだ」

「おおっぴらにか」

「……そうだ。売値は低いが密輸出するより恩恵を受ける範囲は拡がる……軍勢の評判も良くなるだろう」

「……」

「……許可か?不許可か?」

「もちろん許可だ。しかしお前、良い仕事できんだなあ。前はそれで私腹を肥やしてたんだろ?」

「……そうだ」

「溜め込んでるだろ」

「……その通りだ」

「いくらぐらいだ?いや、貨幣の枚数で」

「……金貨でざっとこのくらいだ」

「げっ!こ、この野郎……」

「……」

「それ。この都市の為に提供する気はあるか?」

「……無い」

「なら、提供しろ。これは命令だ」

「……承知」


チャラ


「なんだこのカギ」

「……金庫のカギだ」

「ど、どこにある金庫だ?」

「……光曜の大都会にある貸金庫だ」

「はっ!?」


カキカキ


「……これが地図だ」

「な、なんで光曜なんかに隠してたんだよ」

「……最も安全だからだ」

「そりゃそうだろうけど……仲介人は誰だ?」

「……天声人語語りのプファイファー。お前が翼人に売り払ったと聞いている」

「いや、あいつには逃げられたんだ」

「……そうか」

「……」

「こ、これはお前が悪さして貯めたカネのありか、だよな?」

「……そうだ」

「まっとうなカネは含まれて?」

「……いない」

「結構だ。これは近いうちに都市運営のため、活用させてもらうぜ」

「……承知」

「……」

「……」

「よお、あんた、こんなおれをどう思う?」

「……愛国者のようだと感じる」

「……」

「……違うのか?」

「ああ、違うとも」

「……承知」



―城壁隊兵舎


「二代目城壁隊長はいるか」

「はい。今、城壁の点検中です」

「どの辺りだ」

「時間的にはちょうど南の辺りじゃないすか。反時計回りに行けば、どっかで会えますよ」

「そうか」


ぐぅぅ


「腹減ったな……そうだ」


キラーんキラーん

……

バサバサ

すたっ


「旦那、お呼びで」

「ヒマか」

「ヒマが一番ですよ」

「じゃあ悪いが、この先で二代目城壁隊長が仕事してるはずだ。様子を観察して、おれに知らせてほしい。これが報酬だ」

「二代目城壁隊長って旦那に口利かないあいつだ」

「そうそう。どうせおれが会っても、貝みたいにしてるだろうからなあ」

「旦那が殴って吐かせれば?」

「それじゃ意味がないし、そんな悪いヤツじゃ無いはずなんだ」

「へえ」

「多分な。スタッドマウアーの野郎に義理立てしてんだよ」

「なるほど。じゃあ本心が探れればいいですね」

「頼んだぜ」



―庁舎


「閣下。お戻り早々ですが……あの、お話が」

「新人ピチピチ女のことか?」

「困った娘ですが、人手は貴重ですから」

「あれ、違うんか」

「……アリアの件です。ここではちょっと」

「なら、飯食いに行くか」

「え」

「そこで聞く」



―前線都市大通り 酒場


「あ」【黄】

「メシと酒とツマミ。腹が減って死にそうなんだ」

「し、失礼します」

「……」【青】

「な、なんだよ。やる気か?」

「はいはい」

「か、閣下。ここでもちょっと……」

「なるほど、他の客どもだな。そんなら」


 ジィ……


「……」


 ジィィィ


「……」【青】


 バン!

 ビクッ


「い、行こう」

「おか、お会計」

「お、俺も!」

「え、ちょ、ちょっと!」

「ありあたしたああ」

「え、営業妨害。タクロ、なんてことすんのよ!」【青】

「これから、この都市の将来が掛かっている大切な話をするんだ。だから他の奴には聞かせることができないんだ」

「え、そ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね……」

「お前は聞きながら聴かないプロの女将テクがあるから、出てかないでいい」

「そ、そっか」【黄】



「で、突撃クソ女がどうした、ずるずるずる」

「彼女から接触がありました」

「ほう。おれを裏切れって?ずるずるずる」

「……はい」

「あの女も追い詰められてんな、ふう食った食った」

「……そうなのですか?」

「前任者殿についた選択を正しい感じにしないとっつー自覚があるんだろ。親父も親父だしな」

「……」

「で、突撃女が他、誰に声がけしてるか、ワカるか?」

「……私の指の動きを」


 すすす……

  すすす……

   すすす……


「ワカった。コイツとはこれから話そう。お前はこの女を説得する段取りをつけてくれ」

「よろしいのですか?」

「何が」

「いえ、その。私にそんな役割を与えて」

「メイド長、こっち側のお前に遠慮はしないぞ」

「……はい、承知しました」【黄】



「閣下、閣下」

「……」

「反応なし。うーむ、行かなきゃダメか」



―庁舎エントランス


「おや」


 頭の悪そうな会話が聞こえてくる。女ひとり、男二人。


「ほんとにさあ、この都市の酒屋、セレクションが豊富で楽しいよねえ。あたしめちゃめちゃおしゃれなどぶろく見つけたの」

「レリナちゃん、また新しいスポット見つけたの?知ってるの?行ってみたいなあ。美味い酒探してるんだよね」

「どぶろくってさあ、前にレリナちゃんが教えてくれたあの黒どぶろく、マジでうまかったなあ」

「あの日は楽しかったね。でも、あんたが選んだ蒸留酒も最高だったよ!」

「あ、それ飲んでみたい!でも、次回は俺のおすすめの光曜の酒を持ってくるから、楽しみにしててよ!」

「どこで手に入れたの?」

「略奪だよ。でもでもレリナちゃんのセンス、酒選びもピカイチだからさあ、毎回ワクワクするんだよね」

「ありがとう。でも、次回は二人のお酒楽しみにしてるから」

「ワワワ、本当に?本当かなあ」

「ワワワ!どこの酒かな?」

「ええっと、どこかな?ここかな?」

「ワワワワワ!」「わわわわわ!」


ガチャ、ガチャ!


 これは靴の金具を鳴らしたのであって、興奮冷めやらずベルトを外した音ではない。誰がって?おれがだよ。おしゃべりトサカ頭一人の首に手斧を突きつけてやる。


「げ……」

「任務精励ごくろうさん」

「た、隊長……あ、いや、閣下」

「これでお前死んでいたかも」

「す、すんません」

「気合い入れろよ」


 弾かれたように配置に付く二人。まあ若いんだから、しかたねえか。


「閣下」

「随分と性格が変わったようだが」

「いえ、そんなことは」

「頭色ボケ真っ盛りな男の頭の中に棲んでる理想のドスケベ女って感じだった」

「お気に召しましたか?」

「見てて愉快ではあった」

「閣下の御用命があれば、いつでもどうぞ。今すぐでも私は構いません」

「あいにく、まだ仕事があるんだ」

「……」【青】

「ホントホント」




―庁舎の塔 応接室


ガチャ

ガチャ


「閣下」

「あら、どうかしましたか?」

「単純な質問なんですが、閣下よく私の頭に話しかけてくるじゃないすか」

「そうですね」

「で、頭の中で会話出来てるじゃないですか」

「ええ」

「あれを私から閣下に話し始めることはできないんすか?」

「あなたが魔術を使えるようになれば、可能です」

「すぐできるようになります?」

「すぐは、無理ですね」

「ちぇっ、仕方ない。で、相談があるので話しかけて下さい」


ガチャ

ガチャ


「何か心配事ですか、タクロ君」

「うーむ、やっぱり離れていても会話が出来るのはスゴイすね」

「私の力を消耗していることはお忘れなく」

「……」


ガチャ

ガチャ


「あら」

「直接話しましょう。ちょっとご協力頂きたいことが……」

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