第70話 インタビューの女
ふと、住民の群れの中に、仕込みなしで操作できそうな気配の一人を見つけた。こういった確信を与える直感は確実だ。
演説直後でもある。私はこの町の住民たちが抱くタクロに対する率直な意見に興味がわいた。演説を終えたタクロが部下を連れ立って外出している間、見つからぬ族長会議の使者をこれ以上探し続けるより、その方が有意義ではないか。
という訳で、該当住民の肩にカラスを降ろし、
「ん?おんやあ、鳥ぃ、ウエっ……あひょっ!?」
衝力を流し込み、走査実施。
「男性、二十三歳、名前はアーバイツロスマン、職業無職、趣味飲酒……適任か」
意識の底に触れて、操縦の許可を出させる。酩酊状態であることも好都合、先日のガイルドゥム操縦よりも容易だ。今回は自我は一部残し、ある程度のことはこの男に任せよう。その方が私の負担は少ないし、より深く観察しやすい。
「では始めますよ?」
「ははははははははははははははは、はい」
「インタビュー形式で、道行く人に、タクロについて尋ねてください。あと……必ずこの町は都市、と表現しましょう」
「はい」
「笑顔で元気よく、礼儀正しく」
にこっ
「はい!」
―国境の町 大通り
「というわけで、前線都市の人々から渦中のタクロ氏についての意見を聞いてみます。こんにちは、お話し頂けますか?」
「な、なんだよ」
「この度、庁舎隊長から軍司令官に昇格したタクロ氏について、ご意見をお聞かせください」
「いきなりなんのつもりだよう」
「これはインタビューでして。都市の方々の率直な意見を知りたいのです。激動の昨今、きっとみなさん実際の所の評判を知りたがっているでしょうから」
「酒臭い、あんた酔っ払ってんのか?」
「いいえ全く。ほら」
ステップしてみせる。
「まあ……いいけどよ。タクロについて?」
「はい」
「あれ、昇格じゃなくて自称だろ?」
「それも含めてのインタビューですね。あなたは氏のお知り合い?」
「俺?違うけど」
「では、この前線都市の住民として、氏にどんな印象をお持ちで?」
「そうだなあ。かなりキビシイ、感じ……かなあ」
「将来がですか?それとも人格がですか?」
「いや仕事が。容赦ない戦士、というか軍人で、キビシイ指導をするって聞いたことがある」
「なるほど、任務にキビシイという印象ですね」
「そうそう」
流れが出てきた。この調子で多くの人に声をかけよう。
「それ以外にどんな特徴が?」
「わしが聞いてるのは、男女を問わず、容赦ない野郎で、一度でもルールを破ったり、仕事においてミスったら、喜んで厳罰を与えるサディストって有名な話だけだ」
私の知る限りこれらは誤解だろうが、それが事実認定されて広まっているなら、現実を直視せねばならない。あるいはまだ、私の知らない一面や事情があるのかもしれぬ。
「女性からも聞いたのですか?」
「ああ、近所の庁舎で働いていた娘からな。騒動を嫌って、昨日引っ越していったがね」
これはエリシアだ。であれば、まあ完全な誤報と断定はしない方がいいかもしれない。
「実地での部下シゴキは相当なモンらしいが、結果、部下たちはそんなに死んでないはず」
「いや、アイツが庁舎隊長になってからは確か、ほぼ死んで無いぜ。何人か追放してはいるはずだけど」
「だっけな。なら、仕事人としちゃ及第点ってヤツじゃないか」
「職業軍人だからねえ。厳しくて当然だよ。でも庁舎隊も前は腐ってて、タクロが厳しいお陰でみんな真剣に取り組むようになったって話だ」
これは良い印象。実に微笑ましい。
「なるほど、氏の厳しい指導が部下たちの成長につながっているんですね。では、タクロ氏のどんなエピソードをご存知ですか?」
「野郎が部下を戒める際のセリフ、知ってるか?『次は無いぞ』『次は殺すぞ』『もう殺した』だってさ。タクロの厳しさは有名だよ」
確かに言いそうではある。しかし、厳しさがウリだったとは、私は普段彼の甘い一面にのみ接しているのかもしれない。
「私の知る限りじゃ、部下の組長達を通して下とは上手くやってるよ。あちこち飲み歩いてるしね。ウチの店にもたまに来るよ」
「なけなしのカネを握りしめて、下にご馳走して散財してるって有名だよ。隊員も少しは感謝してるんじゃないのかい?」
「なるほど、アメとムチによって、恐れと感謝の念が同居しているかもですね」
私がこの町に来てからは、飲みの回数も減っているらしいが。
「タクロ?ヤツに言いたいことがある!」
「おお。では、彼に対する一言をお願いします」
「タクロ!軍司令官になったって?なら早くカネ返せよ!」
あちこちで借金を溜めているとは。困った男だ。
「誰だって厳しくするには理由があるもんだ。奴の指導で部下どもは成長してる」
「その根拠は?」
「光曜境を奪った。他にいるか?それに、戦場の現実が求めるレベルに戦士が達することができたのなら、戦死することも減るんだろ。つまりだ。部下にとっての刺激になれ!軍隊の質向上にもっと貢献しろ!あと、作った借金はちゃんと整理しろ!」
「ありがとうございました……タクロ氏には厳しさと共に、部下への感謝や成長を促す力があるかもなのですね。あと借金も」
ここまで、予想外に面白い意見である。また、誰も意見を言い淀まない。親しみはあるのだろう。
「おい、なにやってんだ?」
「タクロに関するインタビューだってさ」
「オレにも意見を言わせろよ」
人が集まって来た。
「ありがとうございます。タクロ氏の存在は今の軍隊に欠かせない様子ですが、氏の指導が組織にどのような影響を与えているか、ご存知の方は?」
「確かに軍隊は大変だよ。生きるか死ぬかだし、何がキツイって、カネも条件も性格もとにかくキツイからなあ。でも庁舎隊でなら報われるんじゃないか」
「それはなぜ?」
「タクロの野郎は、部下どもに厳しい要求はしてるが、結果に対しては公正だからな。実はウチの倅、庁舎隊員なんだ。組内でちょっとはエラくなったらしい」
「じゃあ今回の昇給も?」
「倅は喜んでたよ。所帯が持てるかもってさ」
蛮斧男の素朴な笑顔が温かい。国は違えど、子の出世が嬉しいのは共通だ。
「では、配下の兵卒たちは自身の成果を感じながら軍隊稼業に取り組むことができるということですね」
「そんな感じかな」
「一つの好例を聞くことができましたがさて、氏が求めるレベルに到達するためにはどのような努力が必要なのでしょうか?インタビューを続けます」
「タクロは……完璧主義者だ。口で言わなくても、目線や振る舞いで、常に最高のパフォーマンスを求めてくる。そしてそれを見ている。だからヤツのもとで満足に動くために、修行は欠かせない」
「修行とは広い言葉です。武芸や肉体鍛錬だけでなく、自己啓発や専門知識の向上にも努めるということですか?」
「ああ。庁舎隊の組長三人は、おちゃらけてる印象だし、実際そうなんだろうが、優秀な戦士だぜ」
確かに、あの一件さえなければ三人ともそうなのだろう。しかし、タクロはナチュアリヒの不始末を公にもしていないようだ。
「あと、戦闘には良い連携のための関係維持も欠かせない」
「チームワーク形成やコミュニケーション能力も求められるということですね?」
「ん?ああ?よくワカらん用語だが、多分な」
「氏は、部下に対して厳しいだけでなく、成長をサポートするための指導も行っているようですね」
「組長らにも、部下とたくさん酒を飲めって言ってるらしいぜ。隊長のお粗末給料じゃたかが知れてるが、今や御大名。カネを落としてくれることに期待だ」
「タクロ氏の指導によって組織全体が向上することが期待されますね。最後に、彼の指導によって何か変化があったエピソードを教えていただけますか?」
「庁舎隊に勤めるおれの無口な友人の言葉だ。最初は野郎の厳しさや、クソな態度に戸惑ったらしいが、公平だからグレずにすんだと。おかげでそこそこの地位にいるってさ」
三人の組長の誰かだろうか。それとも秘書のような役割の無口な戦士かもしれない。
「成長したと?」
「ああ。きっと厳しいだけじゃなく、部下の個々の強みを見抜き、それを活かすようなことをしてるんだろうよ」
「実際に個々のメンバーが成長すれば、組織全体が向上する可能性を持ちますね……なるほど、これまでのお話から、タクロ氏は厳しさと共に成長を促す存在であるということが伝わってきました。氏の指導について、もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
似たような話が続くが、要点は同じだ。
「高い要求に、高い支援!」
「強みや可能性の見極め!個別指導!」
「公平さへの信頼!」
「氏の指導において、どの価値観が最も重視されていると思いますか?」
「公正さ!」
「いや正直さとも言える!高い要求の一方で、不正や不公平を許さない!」
「下にもそれを求め、信頼関係を大切にしている!」
「最後に、彼が部下たちに与える影響についてエピソードは?」
「たくさんあるとも!聞いてくれ!」
タクロを称える声で満ち、やや偽善的な空気すら漂い始めた時、
「ふざくんな!ふざくんじゃねえ!」
何かが吠えた。
「綺麗事ばかりヌカしやがって!そんなに独裁者が怖いか!」
一人の男の怒れる声が、インタビュアーに近づいてくる。道が開かれた。これはこれで、公平な観点からの意見が得られそうだ。
「ではタクロ氏について、もう少し別の視点からお聞かせいただけますか?」
「なんだって言ってやるよ!」
口角泡が溢れている。かくも強い批判精神の迸りはいざ。
「まず彼の指導に関し、改善の余地や懸念点はありますか?」
「そりゃ、ヤツのやり方は確かに成果を上げてるよ。一見な」
「つまり?」
「それが非道の域に達してないと誰が言える?アイツの求めるレベルに到達できない場合、下の人間は疲弊するんだ」
「ストレスやプレッシャーを感じることが多いと?」
「ああそうとも!ヤツのやり方に不満を持ってるヤツも多いんだ。それに耐えられず、辞めたヤツだってな」
蛮斧の軍制は国民皆兵ではなく職業軍人に近いものだが、きっと目に見えぬ強制も存在し、その中で恨みを買うこともあるのだろう。タクロに恨みを持つ者がどれだけいるか、これはワカらない。
「いい話ばかりではなく、一部の隊士にとっては挫折感やモチベーションの低下を招くこともあるかもしれません。さらに聞いてみましょう。タクロ氏の非道なる所業について、他には何か改善の必要があると感じる点はありますか?」
「タクロの野郎は頑固モンだ。改善なんかしねえよ」
「なるほど、融通が利かない人物である、という意見ですね?」
「てめえの考えのみ追求する癖の野郎だ。他人の意見やアイデアなんて聞く耳持たねえ。部下たちはさぞ意見しにくいだろうよ。城壁隊長とは違うよな」
おっと、これは城壁隊長のファンだったか。
「タクロの野郎に指導力なんぞねえ。ああやって権力握ったのは悪運だ」
どうかな?例え私の誘導が無くても、タクロなら何かはやった、あるいはやらかしただろう。
「言い返してやるぜ。でもよ、時には部下たち個々の事情や能力に対して、もっと理解を示してもいいだろ。あそこの組長の一人はオレの友人なんだが左遷されるって話だ!」
これはナチュアリヒの話だろうか。
「これまでアイツがどれだけ庁舎隊に青春を捧げて来たか!」
「おいおい本当の話かよ」
「決まってんだろ!」
この話題は、早々に打ち切ろう。
「なるほど。指導や対応が一律であることが部分的に問題となることはままあります。もっと個別に部下と向き合い、彼らの成長と幸福に焦点を当てることが重要かもしれませんね。では次に」
「オレも!オレも言いたい!」
「タクロ・スタイルはゴミだ!部下たちにあんな圧加えりゃ隊士は自信喪失だ!」
コントロールを行わねば。やむを得ない。
「さらに、氏の厳しい態度に起因する問題点が指摘されましたが、それ以外にどのような点が気になりますか?」
「野郎は意固地だからそれが部下に伝わる。するとどうなる?隊全体の性格がそのまま野郎の性格になっちまう」
「創造性や革新性が制約されてしまうということですか?」
「よくワカらんがそうかな!」
「氏の意思決定に対する柔軟性や他の意見を尊重する姿勢に関して、改善が必要という意見です」
過度な厳しさや他の意見の受け入れにくさなどは、個人というより組織の永遠の課題でもある。タクロにはやや気の毒な批判のようだ。次は、蛮斧人にしては蛮斧然としてない男が手を挙げた。
「俺はタクロに対して、より対話的な指導力を期待するがね。いまや城壁隊長や補給隊長だって部下ってことだろ?タクロが幹部たちの声に耳を傾けて、柔軟な態度を取ることで、この都市の意見が尊重されれば、きっと成果を上げることができる。隊士だけじゃない。都市住民個別の幸福にも配慮して欲しいもんだ」
「ご意見をいただきありがとうございます。タクロの指導において、過度なプレッシャーや意思決定の柔軟性に関して改善が望まれていることがわかりました」
「他にも言いたいことはあるぞ!」
同じような意見が続き、得るものも少なくなってきた。そろそろ終了させるか。
「あのゴールデン手斧とかいう命名、気持ち悪い。叶わぬ成金趣味だよな」
「パワハラ野郎め!」
「今回容易したカネだってどこから引っ張ってきたかワカらんぞ」
くだらぬ悪口が多くなってきた。
「蛮斧人と言ったって、すぐに手と足が出すぎる。あと女に対しても平気で手をあげる」
「有名だよな!」
この話題は……興味深い。追求してみよう。
「今、タクロ氏は女性に対しても躊躇なく手を上げることで有名、という指摘がありましたが」
誰かが声を張り上げる。
「さっきも、女を殴ってた!」
なんと、まあ。
「女を殴るのが好きなヤツなんだ」
「被害者なら、ここにいるよ!」
「顔を打たれたんだ!」
女の集団に招かれて一人の可愛らしい女性が登場する。顔は……腫れてはいない。タクロのことだ、手加減は忘れないのだろうが、
「アリアーナ、タクロに殴られたんだろ?」
女性が力無く頷くと、周りの女達が非難の声を上げる。それにしても、名前までタクロと相性が悪そうで、実におかしい。
「そう!私たちは前の出撃隊長のお見舞いをしていただけなのに、タクロはこの娘の顔を叩いた!」
「どうして!?」
「ガイルドゥムの功績を妬んだのよ!」
恐らく、娘がタクロの邪魔をしたからだろうが、それにしてもやり方があるだろう。まったく困った男だ。
被害者とは別の、見るからに気が強そうな一人の女が、周囲の男達へ強い言葉を飛ばす。
「あなたもタクロを非難してましたね?」
「お、俺はその……」
「どっち!?」
目を伏せていた男だが、顔を上げざるを得ない。私の知る限り、蛮斧男は光曜男に比べて良く女性に手をあげる気風を持つ。故に、男達は口を開きたくない局面だろう。
「お、俺がタクロの厳しさや他の指摘点に関して、批判的な意見を言ったのは、じ、事実だけど」
「ほら!ですよね!」
「だけどよう……しょぼしょぼ」
割られた男の声は消え入った。
「戦場ではない場所で、女性に対して暴力を振るうという行為を、私たちは絶対に容認できません!あなたは!?」
「わ、わしは……氏の指導に関して肯定的な側面やリーダーシップの資質を認める一方で、こ、こ、このような暴力行為には……その、反対します」
「ですよね!」
妙なことになった。女たちの声が圧倒しはじめている。何とか鎮めよう。
「えー、ご意見をお伺いしました。タクロ氏の振る舞いに対する評価において、氏が女性に対して暴力を振るう行為は断じて容認できないという立場ですね。それに加えて、氏の指導の厳しさや他の懸念点についても指摘されています。皆さんの意見を総合すると、タクロ氏に対して公平な評価を行うに際し、彼のリーダーシップの資質を認める一方で、女性への暴力行為には厳しく反対する姿勢が求められることがわかります。さて……」
「あなた!」
「え」
「あなたの意見は!」
「ええと」
そこまで複雑な対応までは行えない現在、この男を操る私が直接回答をせねばなるまい。頭に血が上った女とは御し難いもの。ならばゆっくりと、努めておだやかに。
「確かに、タクロ氏の指導には賛否が分かれる要素があるとは言え、暴力行為は許されないことです。彼のリーダーシップに対して肯定的な点や改善の余地を探求することは重要ですが、女性に対する暴力行為には反省を促す必要はあるでしょう」
「甘い!」
負けじと声を張り上げる女達。
「そうだ絶対に許容できない!」
「女性への暴力行為には断固反対!」
蛮斧世界は女性の地位が低い。故に、このような憤懣の噴出は常に起こりえる。彼女らが、前軍司令官が女性を大切に扱っていたことを強く思い出したならば、タクロを倒せ、と叫び始めるかもしれない。
ガン!ガン!ガン!
女たちの声を打ち消したのは、武具を鳴らす音だった。インタビューの場に、蛮斧戦士たちが強引に割って入ってきた。七人。彼らは斧を携えており、女達も口を噤むしかない。
「俺たちは補給隊所属だ。つまり、あの野郎の敵だよ」
「意見が聞きたいんだろ?話してやるからまあ聞いて行けよ」
これもまた貴重な意見が得られるだろうし、なにより好都合だ。補給隊の、公とタクロに対する考え方というものを知ることができるかもしれない。
「では、どうぞ」
「タクロは俺たちの敵だ!」
「敵、とのことですが、補給隊は先日の演習に参加していました」
「……ウチの隊長の命令さ」
「なるほど。ではやむなく従ったということですね?」
「ヤツの幸運は、認めてやる。認めてやってもいい。決断して、ウチの隊長を説得して、俺たちの昇給を実現させたんだからな。でもよ、俺たちが野郎となんで対立しているか、ワカるか?」
「氏の能力と成果について一定の評価をされている一方で、対立があるとのこと。庁舎隊、というよりタクロ氏と他の隊との不仲は有名です。改めてご説明願えますか?」
呆れ顔の補給隊士。
「つまりてめえは知らねえと?」
「はい」
「ワワワワ」
「ワワワワ」
残る戦士達が威圧的にウォークライを発す。人混みの端がさらに遠ざかるが、インタビュアーに心理的影響は無い。
「てめえはどっち側だよ!」
「私はどちら側でもありません。ただ、質問をするのみです」
戦士達の嘲笑は続く。
「笑わせやがる。どうせてめえタクロの回し者だろ」
「どちら側でもないなんてヤツ、真の意味でいねえよ!そうだろ!」
「よくそれでこの町に住めるなあ!」
うん。これは、実に興味深い指摘だ。
「それでは、どうぞ」
「ちっ……野郎のスタイルが気に入らねえんだ。庁舎隊は庁舎を守ってりゃいいのに、あの野郎は前線に出しゃばって出撃隊や巡回隊の領分を侵した……ウチの領域にだって口を出して来ている」
これも興味深い内容だが、口調がやや固い。インタビュアー体内に蓄積された衝力を移して、この男の心の堰を崩してやろう。
「おっと」
「痛え、なんだよ」
「失礼。続けてください」
「今やあいつの独裁じゃねえか。野郎が厳しく言えばみんな従わざるを得ない。協調性や連携以前の問題だろ。どうせ俺たちが何かを言っても意見は通らねえ……元々、後方勤務が多い庁舎隊は一番下に見られていた。俺たちよりも格下だ!同じ後方組の俺たちは補給の要よ!なのにあの野郎、それをひっくり返しやがった」
「それはいつからでしょうか?」
「あいつが庁舎隊長になってからその傾向はあったが、決定的だと確信したのは光曜の女を捕虜にしたときからだよ!」
確かにタクロはいわゆる近衛的な庁舎の専属隊を率いる身なのに、よく前線に出張っている。ふと、私と彼の出会いを思い出す。あの時に私が彼と遭遇したことも、ただの偶然のみならず、彼の性質によるところ大なのだろう。
「以後、改善する見込みは?」
「ねえよ!だって先がねえから!」
「といいますと?」
戦士は声を見事に張り上げて、告げた。
「おい皆の衆カネで騙されるな!族長会議はタクロを認めなかった!これは反逆だぞ!」
「え!?」
「貴様ら告示も読んでねえのか!城壁隊長と族長会議の連名で張り出されてる!確定情報だ!見ろよ!読めよ!」
住民の幾人かは明らかに動揺している。インタビュアーは続ける。
「では、内乱になるとお考えですか?」
「決まってんだろ!俺が聞いた話では、族長会議は正式な軍司令官にデバッゲンを任命した!」
「ええっ!」
「タクロの野郎もう終わりだぜ!そしてタクロに従う連中も同様だ!城壁隊長は族長会議に従う姿勢を見せている!」
「では補給隊長殿も?」
「デバッゲンが来たら従うに決まってんだろ!」
「補給隊長殿がそう言っているのですか?」
「う……も、もちろんだ」
自信なさげなこの反応。補給隊長は何も言ってはいないと見た。インエクの支配下にあるのなら当然だ。
「命が惜しければタクロに従うな!」
「タクロの時代は短い!」
「真の軍司令官デバッゲンに従え!」
七人の戦士は斧を掲げて口々に言い立て、住民達は複雑な表情で立ち尽くすしかない。この町が戦場になるかもしれないのだから当然だろう。
「俺達はこれからタクロ退治で庁舎へ突撃する!デバッゲンが来た時に大いなる褒美が貰えるぞ!シケた昇給なんか目じゃねえ!光曜に攻め込むよりよっぽど危険もない!タクロ一人捕まえるだけでいいんだぜ!なんなら始末すりゃあいい!」
!この動きは反乱か!
「褒美が欲しい野郎は俺達に続け!蛮斧戦士だろうがなかろうが褒美は確実だ!」
「待って!」
鈍い民衆の反応を割る黄色い声。
「私たち女でも褒美はもらえる!?」
「当たり前よ!タクロの野郎を仕留めればな!」
「じゃあ私は行く!貴女たちはどうするの!?」
「い、行きます!」
「蛮斧の女を舐めるとどうなるか、思い知らせてやる!」
「包丁、鉈、小刀を持って!タクロを殺すのよ!」
「ワワワワワ!女どもに嫌われていたんだなああの野郎」
「これは思わぬ援軍ですか?」
「そうとも!ワワワ」
「喜色満面の補給隊戦士の方からは以上です」
「馬鹿野郎!お前も来やがれ!」
インタビュアーが首を掴まれて連れて行かれていく。これは私もインタビューを終え対処に回らねばならない。それにしても、騒動の芽を事前に発見することができた。やはり、不測の事態に備えるには、行動あるのみということなのだろう。