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境界防衛  作者: 蓑火子
昇格ステージにて
65/131

第65話 分水嶺の男

―前線都市 都市城壁 前線門


 夜。松明を手に進む軍勢は、離れた所からは明るく見えているはず。同じく、松明で照らされた前線都市の北側の城門に到達、と、そこに待つは城壁の君。男の出迎えとは残念至極。


「やあやあミスター城壁」

「戻ったな」


 だが贅沢も言えない。いつもと同じ、安定の真面目くさった面が妙に落ち着く、と思うことにしておこう。


「取引も、調査も無事に終わったよ。これでカネも払えるし安心だぜ。良い事尽くめだ」

「結構だ。こちらではトラブル頻発だ」

「げ、トラブル」


 おれはすでに女宰相からその話を聞いている。悟られないように振舞わないといけないが、ああ面倒だ。なんて事はないのだ。


「付き合え、他の連中には聞かせたくない」

「ワカったよ。エルリヒ、ヘルツリヒ、おれは城壁殿と打ち合わせがあるから、後は任せたぜ」

「承知!」

「隊長また明日」


 戦争に勝利したワケでもないから、軍事パレードは無し。庁舎隊、補給隊、出撃隊とそれぞれの宿舎へ向かう。洗脳中の補給隊長は挨拶もせずに去っていく。


「お前の組長頭は?」

「ああっとちょっとね。大したことじゃない。で、どこで話す?」

「庁舎への道すがらでいい」

「それこそ誰かに聞かれるんじゃ」

「もう夜だ。声を低くな」


 なにやららしくなく、焦っている感じ。テロ事件以外の話もあるのか?馬首を並べてゆっくりと進む。


「まず一つ。お前が居ない間に事件が起きた。鎮圧済みだがな」

「事件」


 知ってる。


「住民を襲ったヤツらを捕らえた。それなりに負傷者もでている。二十名くらいだが」

「死人は」

「今のところは」

「そりゃよかった」

「ああ」【黄】


 なんだろう。今、この時間が、おれにとって非常に重要な気がして来た。


「大半は、ガイルドゥムが鎮圧して回っていたんだが」

「あのブタ野郎が?」

「意外か?」

「意外だ。それにブタはまだ療養中だったろ」

「そうだ。無理を押して動いたらしい。住民からヤツを讃える声が上がっている」


 この話は知らなかった。驚きだが、野郎を操れる女宰相による鎮圧だな。彼女、やっぱりやり手だなあ。


「イヤな野郎だが、表彰してやるか」

「本気か」

「おれからの褒美なんか受け取らないかもだけどなあのブタ」

「もうブタじゃない。療養したせいか、だいぶ痩せていたよ」【黄】


 お堅い野郎には珍しく、愉快そうに笑ってる。


「そいつは知らんかった。後で見舞い、いや見物に行こう」

「その時間があればな……」

「?それくらいあるだろ」

「……まあ好きにすればいい。でだ、下手人どもはただの盗賊集団じゃない。通行人を襲ったがカネも奪わず、家屋を襲って回るわけでもなく、ただ通りかかった連中を攻撃している。目的がワカらん」


 女宰相曰く、コイツらもテロ要員ということ。適当に話を合わせるのがベストだ。


「そいつらは何人くらいだ?」

「二十人もいない程度。全員、蛮斧人だ」

「じゃあ、おれが売り払った犯罪者集団の残党かなあ」


 こんなんで納得するかな?城壁の顔は渋い。もう一押しか。


「とすると動機は復讐か」

「調査中だが……そういう噂を流しておくのはいいかもしれん。ワケのワカらない相手というよりは、住民も安心する」

「後でおれも取り調べをするよ」

「……時間があればな」


 妙におれの時間を気にしているこの感じ。どうやらおれには持ち時間が足りてない、と思ってるようだ。


「あと、関連しているかどうかは知らんが、通りで馬が大暴れをして人を襲った」

「ウマ?そんなヤツいたかな」

「……」

「ああ、ウマってこの馬の馬ね」


 さすりさすり。


「持ち主不明の馬だが、数十人が襲われて負傷した。こちらも死人は出ていないがな」

「そっちは偶然の事故じゃないのか……馬野郎は?」

「その牝馬だが」

「牝馬!」

「今は落ち着いて、小屋に押し込めてある」

「取り調べは?」

「……」【青】

「へいへい、相手が人間じゃないとなあ。面白い。おれもその馬を見ることにするよ。処分すんのはその後だな」

「また暴れるかもしれん。夜が明けたらとっとと確認をすることだ」

「時間があれば?」

「……」


 城壁が一息ついた。となると、こっからが本題だろう。


「で、本題は?」

「よくワカったな、本題があると」

「それなりに長い付き合いだからなあ」

「……」【黄】


 どうやら相当にヤバい内容のようだ。女宰相からは何も聞いていない。つまり彼女も把握をしていない……うーむ。


「いいぞ、スパっと言ってくれ」

「ワカった」


 馬上の男が視線を合わせてくる。受けて立ったる!


「族長会議の使者が来ている。それによると、族長衆はお前の軍司令官就任を拒否した」

「げっ!」


 政治工作がイマイチだったか?


「それだけじゃない。シー・テオダム殿への反逆の罪を問う、と言ってきている」

「つ、罪」

「そうだ」

「い、いつ」

「ついさっきな。まだある。族長会議は、新たに軍司令官を任命した。あのデバッゲンだ」

「げげっ!」


 その名は確か……


「前軍司令官殿のそのまた前に名前が挙がってた……」

「シー・テオダム殿がねじ込まれただけで、名前が消えたワケじゃなかったんだな。つまりこのまま行くとお前は、あのデバッゲンを相手に戦争をすることになる」

「戦争っていうか内戦……だな」

「ああ」


 仲間内での殺し合いが一番やってられない。おれはつい懐に触れていた。このインエクがあれば防げるだろうか?


「内戦を避けるには交渉をしなければならん」

「た、例えば?」

「さあな」

「この都市と地位をデバッゲンに委ねて下野するとか、自分から謝罪しに行くとか」

「……さあな」


 それは女宰相が許さないだろう。


「しかしなあ。前任者殿の目を抉ったのはおれじゃないんだぜ?」

「……さてな」

「お前、さては疑ってるな」

「ワカらん」

「まあいい。で、その使者殿はどこにいる」

「何?」

「お前に族長会議の決定を伝えに来た連中だよ。まずは会う。会って話す」

「もう帰ったよ」


 女宰相殿に確認すればすぐにワカるがこれは、


「ウソつけ」

「何故だ」

「何となく。お前、おれが使者と会えばもっと事態が悪化するって思ってんだろ」

「……」

「そうなるかもしれないけど、会ってみないことには何もワカらん。どんなヤツだ」

「……」

「いいから言えよ」

「……傲嵐戦士アリオンの部下だ」

「ああ、突撃クソ女の親父か」


 有力族長の一人だ。


「お前はアリアの恨みを買っているから、その父親もよい感情など持っていまい。攻撃の急先鋒になるかもな」

「父娘ともども、とことんおれ様と相性が悪いな……でもあすこはデバッゲン野郎とは係わりが少なかったはずだぜ」

「既定路線のデバッゲン就任に反対はしなかったらしい。つまりデバッゲンの推薦者の神聖なる合掌殿とも話は通っているってことだ」

「推薦者って?」

「神聖なる合掌のエリシバーだ」


 これも勢いのある族長だが、あれ?


「そうだ!そいつの娘がこの都市に居たぞ!」

「メイドのエリシアだな」

「そうそいつ、あいつ!あの腹黒ロリ女!拉致監禁して剥いてシバいて交渉材料にできないもんかな」

「……その使者殿がすでにエリシアを確保している」【青】

「連れて帰るのか」

「そうらしい」

「ちっ、先を越されたか……ん、つまり蛮斧の有力族長二人が手を結んだのか?」

「そう。お前を引きずり落とすために」


 こ、これは予想外を通り越してマズいぞ。せっかくカネの目途もついたのに。漆黒の夜道を進みながら、動悸、息切れの高まりを自覚するおれだった。

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