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境界防衛  作者: 蓑火子
昇格ステージにて
57/131

第57章 説明責任の男/厚意の女

―前線都市大通り


「タクロ、説明しろ」【青】

「説明ってなにが」

「どうしていつの間にか、俺がお前を支持したことになっているんだ」

「何言ってんの?」

「何とは何だ」【青】

「おい。お前がおれを支持するって言ったんだぜ?連中を前にな」

「……」

「だろ」

「き、記憶にない」

「知るか。言ったことは守ってもらうぞ」

「待て、待て待て。この奇妙な感じ……軍司令官の時と似ているぞ」【青】

「何のことだよ」

「軍司令官を襲った連中もこんな感じだったんじゃないか?あの女たち、記憶が曖昧だと言っていた」

「そんなこと言っていたかもな。で、お前も同じだって?」

「……」

「……」

「お前の仕業なのか?」【青】

「何がだよ」

「一連の騒動がだ」

「ほーん。目を抉られた軍司令官が倒れていたことがおれの仕業だって?」

「じゃあ何を知っている」

「おれが知ってるのは、この都市をヘッド無しのままには出来ないってことだけさ。それについては補給隊長も同意してくれたぜ?なあ」

「……」

「おい補給隊長」

「……はい」

「?何か様子がヘンだな」

「どこが」

「大人しい。ヘンだろ」

「おれから見ればスタッドマウアーよ、お前がヘンだ」

「なに?」【青】

「ああ、そういうこと。おれが臨時の軍司令官になるのがイヤだってなら、お前がなるんでもいいんだぜ?」

「な……俺が権力欲しさにゴネてると?」

「おれが思ってないって知ってること聞くな。何が不審なんだ」

「何が、何がってそりゃ……」

「なんだよ」

「……」

「言っとくがな、蛮斧戦士どもの前でお前は同意したんだからな。ウチの隊員も、城壁隊員もみな証人だぜ?」

「オレ聞いたよ!」

「オレも!」

「隊長、あんたが庁舎隊長に賛同するのみんな見てますが……」

「し、しかし……」

「言葉を翻すってならそれでもいい。だがその場合は、城壁隊長の地位から外れてもらう」

「俺がいなくて城壁隊がまとまるとでも?」

「まとまらなけりゃ内紛だな。大勢が死ぬぜ〜」

「……」

「それに、族長会議にも事態の報告はせにゃならないんだ。誰が後任の軍司令官になるにせよ、治安を保たにゃならんだろうが。おい、いい加減こんな蛮斧人らしくないこと言わせんなよ」

「……」

「……」

「ワカった」

「おう、よかった!」

「だが、一つ条件がある」

「なんだ」

「族長会議とのやりとりについて、これは俺が担当する」

「そのことについては、隊長同士で相談して決めるって、おれは演説したんだった。さっきな。本当に覚えていないのか」

「……そうだったか?うーむ」

「そうだよ。で補給隊長、異存はあるか」

「……」

「補給隊長、どうだ?スタッドマウアーに任せて良いと思うか?ハッキリ言ってくれ」

「……ダメだ」

「おっ」

「なんだと」【黒】

「まあまあ、で、なんでだ?」

「……城壁隊長が俺たちをハメないとも限らないからだ」

「なっ……」

「なるほど。確かにそりゃそうかもな。なんだいつもと変わらずだ。今日も辛辣なおっさんだよ」

「おいタクロ」【青】

「お前だってさっきおれを疑ってたろ?当然の意見じゃねえか」

「む……」

「……」

「そしてこのおっさんは、おれを嫌っている。三隊長三竦み、これじゃ何も決まらねえ。だからおれが臨時の軍司令官を名乗ってんだ。おい城壁野郎〜」

「……」

「どうなんだてめえ!」

「ワカった」

「何がだよ」

「ハッキリいってお前を支持した覚えはない。だが、他の連中も俺がお前を支持したと言っている。なら、自分の言動に責任持つしかねえ」

「つまり?」

「臨時の軍司令官を認めてやる」

「よかった!」

「臨時のみ、あくまで一時的だからな。族長会議からの連絡が来るまでだ」

「いいよそれで。じゃあ改めて、族長衆との連絡はお前に任せるよ。あと騒動の調査についてもな」

「……」

「任せた」

「良いのか?」

「お前がおれをハメたらって?そんときゃ腹を括るよ。補給隊長もそれでいいか?ちゃんと答えろ」

「……いい」

「実に穏健に話が決まって嬉しいね。よーし!それじゃそれぞれの仕事を進めてくれ。第一に治安維持、補給隊長は出撃隊を鎮めてくれ、城壁隊長は今話した内容で。おれは騒動を起こすヤツを潰していく他、軍司令官の仕事を代行する。っつっても、シー・テオダム殿は暇そうにしてたからな。そんなにやるこたねえと思うんだがなあ」



―庁舎の塔 応接室


「ふう、疲れたび」

「タクロ君、お疲れ様でした」

「おれの活躍どうでした?」

「ウビキトゥの使用については躊躇いがあるようでしたが」

「まあ、ね。漢として、道具に頼るのはちょっと抵抗があったよ。しかし便利だなコレ」

「見ていて新たにワカったのが、どうやら支配下における人数に限度があるようですね」

「ああ、それで城壁野郎その他の連中が正気に戻ったのか」

「以後の使用に注意は必要でしょう。特に、補給隊長が支配から解放されるターンは要注意です」

「今から思えば、前の持ち主……軍司令官はそんなに使っている感じじゃなかった気がする」

「事実そうなのだと思います」

「あのクソ性格破綻陰険ドスケベ野郎がこんな便利道具を乱用しなかった理由は、きっとこんなトコにあるんでしょうね。ハイ、お返ししますよ」

「……」

「何すか?」

「いえ、確かに受け取りましたが、これは左眼と右眼用があるのですよ……これです」

「へえ、そういやおれは右眼で使った」

「だから、これはあなたに預けておきます」

「え、いいの?」

「ええ、軍司令官としての実務に活用してください。あとくれぐれも」

「無くさないように、でしょ」

「ええ。無くしたら私の小さくない立腹を覚悟してくださいね」

「ワ、ワカってますって」



「ところでタクロ君、あなたの足、具合が良くないですね?」

「塔から落ちて折れたんだよ。誰かさんのためにね」

「あなたが酷い怪我をしないように、私も手を打ったのだけれど……このまま無茶をすると、歩けなくなるかもしれませんよ」

「え。そんな、さらりと怖いことを……そうやって無意味に脅すのは良くないな」

「本当のことですよ」

「今はそんなに痛くない」

「興奮してるからでしょうね」

「ほ、本当に?」

「ええ」

「歩けなくなるのは嫌だ!何とかなりませんか」

「私が診てみましょう」

「閣下が?」

「はい。さ、裾を上げてそちらの足を出して、この台に置いてください」

「閣下が医者もやるとは。う、いてて。くそ、なんだか痛くなってきた。気のせいじゃないなコレ」

「それでは」

「……」

「……」

「……」

「外から見ただけでは折れているかどうかワカりませんね。医者はなんと?」

「多分折れてるって」

「どのような診断で?」

「気絶している間に診られたからワカんないけど……」

「そう……痛むのはここ?」

「いや、もうちょっと上です」

「ここ?」

「あ、そこです」

「少し押してみますよ」

「う……」

「痛みますか?」

「かなり」

「上下左右に少し動かしてみて下さい」

「こ、こうですか?」

「……次は円を描くように回してみて」

「ま、まわす……こうかな?」

「痛みはありますか?」

「ボチボチかな。さっきよりは全然」

「……完全には折れてなさそうですが、ヒビは入っていると思います」

「すごい、ワカるんすか」

「折れていると、骨同士がぶつかる音がしますから」

「うげ!」

「それにしても」

「?」

「こんな状態の足で、あなたは頑張ったのですね」

「そうですとも」

「私のためかしら」

「へっへっへっ。さて、どうでしょうかね」

「フフフ。なら、私のためなのかもしれませんね。これから毎日、治療に来てください。治癒を早めてあげますから」

「マジで」

「ええ。責任を持って」

「有難い話だけど、これから忙しくなりそうではあるんだよなあ」

「以後は前、としますが、前軍司令官殿は多忙の身でしたか?」

「女どもとのお食事会なんてのをよくやってたぐらいしか思い出せないなあ。他は昨日の暗殺女へのセクハラとか?」

「なら、それほど心配はありませんよ」

「でも、実体実権のある軍司令官を目指す必要はあるでしょ」

「ならば、軍の方々に対して配慮を怠らなければ大丈夫では?」

「配慮」

「給料、賞与、休暇、手当、配置、福利厚生などでしょうか」

「うーん、腐敗の臭いがするぜ」

「軍勢を引きつけるためには、そういったことも必要でしょうね。裏方の仕事に嗅覚を持つ人を部下に持てればよいのでしょうが」

「うーんそんなにカネあるかなぁ……ん?秘書を雇えってこと?」

「ええ。あなたは軍司令官閣下なのだから、必要でしょう」

「なんなら閣下を秘書にしたいすね」

「相談役として合格したら、検討したらどうでしょう」

「やれやれまた採用活動か。あ、でも心当たりあるかな?」

「もし庁舎隊に良い方がいれば、ぜひ引き上げることです」

「そうだ。大切なことが。暗殺女はどうする?」

「今は……城壁隊長の監視下にあるのでしたね。折を見て、この庁舎の牢に移した方が良いでしょう」

「確かにその方が良さそうだけど、閣下はあの女をほっとくの?」

「では、あなたの秘書にいかが?」

「やめとくよ。そんな気は合わない感じだった」

「あら、そうかしら……でもそうね、いずれ時をみて自由を与えます」

「寛容だな。一度は殺す気満々できたヤツだぜ」

「軍司令官の謎を解き明かしたら自由を与えると、約束しましたから」



―軍司令官執務室


「隊長殿」

「ん?」

「隊長殿が軍司令官閣下の代理となる旨、城壁隊長殿から伺いましたので、通常軍司令官閣下へ取り次いでいた書類を持ってきました。どうぞ」

「重要業務、早速来たな……で、何の書類?」

「庁舎周りの造園費用の明細です」

「くだらん!あ、スマンいや失敬。ちゃんと見ておこう」

「……」

「で、その後、具合どうだ」

「別に、調子は悪くありません」

「顔色悪いぜ」

「色々なことが起こったので」

「だな」

「エリアとエリシアが出勤を拒んでいます」

「ナヌ」

「アリシアが呼びに行ってはいますが……」

「おれには従えないって?」

「……はい」

「ま、無理強いはしないけどな」

「アリアも居なくなって、クララさんも逮捕され……」

「業務が集中して大変だろ」

「逆です。自分の力の無さにやるせない気持ちになってしまいます。私は無力だと」

「んなことはない。変わらず出勤してくれるんなら大助かりだぜ。勇敢女とお前には感謝するよ」

「あとレリアも」

「因縁女もいたな。あいつも出てきてるのか。意外だ」

「彼女は物怖じしませんから」

「あとで出勤組みんなで来てくれ。お前らにも説明しなきゃならんと思ってた」

「ワカりました」

「それから、お前に騒動の時の記憶があるかどうかはともかく、誰かに何か聞かれても知らんぷりしてりゃいいから」

「隊長殿は……その、追及なさらないんですか?」

「お前の仕業じゃない、だろう、しな」

「……」

「あ、それと、昨日塔から落ちたおれ様を介抱したのはお前だったんだなクレア」

「……あ、はい」

「礼を言っておくよ。おかげで命拾いした」

「……」

「足も折れてなさそうだった」

「隊長殿」

「おう」

「私はあなたと軍司令官閣下の間で何があったか、余計なことは質問しません」

「その心は?」

「庁舎隊のみなさんが、隊長殿の無事をどれほど心配していたかを思い出すと、それは重要でないと思えるからです」

「あいつらがねえ。意外っちゃ意外だ」

「負けないでください。メイド組も庁舎隊長傘下である以上、できる限り隊長殿を支持しますから」

「……」

「……」

「そうだな。残った三人に後悔させないくらいにはな」



「……というわけで、エリアからの休職申請を受け取りました」

「我が蛮斧にそんな申請あったっけ?」

「まあ庁舎勤めの者には」

「知らんかったなあ」

「庁舎の歴史でも初申請です。それが二つ」

「ああ、腹黒女もだっけな」

「エリシアは、隊長殿が反乱を起こしたと聞いて関わりを持ちたくない、とのことでした」

「いきなり不名誉な申請を寄越しやがって……しかも二つも!」

「クララ、エリア、エリシア。アリアも入れれば四人も抜けたことになるのね」

「腹黒女はこのまま退職かな……また補充せんとなあ」

「のんきですねえ」

「焦ってもしょうがなし……何よりおれにはお前らがいるからな!頼りにしてるぜ!」

「頑張ります」【黄】

「……はい」【黄】

「まあ、庁舎に残った以上、私たちは隊長殿に従いますよ。お給与も出ますし。ところで隊長」

「なんだ因縁女」

「隊長は本当に反乱したの?あ、これからは軍司令官閣下って言った方がいいですか」

「単なる臨時だからこれまで通りでいい。あと反乱なんてしちゃいないよ」

「なら、軍司令官閣下はなぜ都市を出たんです?」【黄】

「話せたわけじゃないから、実はワカらん」

「そもそも、閣下は何故襲われてたの?」

「あの女たちに?」

「そう。さらにいえばクレアにも」

「スタッドマウアーが調べてる。自分の意思が無かったっていう所は固いそうだ。お前らもまた、色々聞かれるだろうが、協力してくれよ」

「隊長が、彼女たちを買収して、塔から落ちた落とし前を着けさせたようにも、見えなくはありません」

「壮大な妄想力痛み入るね。そんなら笑い話で終わってみんな幸せだったのに」

「それより、クレアにお礼言いました?」

「さっき、気づいた時に」

「さっき。今更気がついたんですか。あきれますね」【青】

「手の形を覚えていたんだ」

「レリア、もういいよ」【黄】

「ところで私たちメイド組は三名に減りました。隊長も私たちを名前で呼ぶようにしてください。下手なあだ名じゃなくて」

「覚えているぞ」

「覚えていないでしょ。たった三名、大切にしたほうがいいですよ。そのためにも名前を覚えてください」

「男社会は渾名がカッコいいんだがなあ……ワカったよ。でも採用はしなきゃな。お前らも毎日大変だろ?」

「下手な新人教えるのも大変ですけどね」

「しかしお前。こんな喋るヤツだったんだな、ここまでとは知らなかったよレレア」

「みんな余計なこと言わないタイプだから、私がお喋りしなきゃね」【黄】

「次はお喋り女を採用するよ」

「あー、無理、ですね」

「なんで」

「私の占いによると、募集しても人は来ないです」

「え、なんで?」

「占いに理由を求めないでください……」【黄】



「おっ、来たな」

「……お呼びで」

「知っての通り、おれは臨時で軍司令官になった」

「……おめでとうございます」

「そいつはどうかな。まあともかく、そんなこんなで秘書が必要になった。お前、秘書やれ」

「私」

「そう」

「……向いてりゃいいんですが」

「絶望ガ崗で、お前は一番落ち着いていたから向いてるぞ」

「……承知」【黄】

「今のおれは臨時の職。いつまで続くかワカらんがな」

「……うす」

「……」

「……」

「そういやお前名前なんだっけ?」

「……よく私を呼べましたね」

「ナチュ公にあんときのトサカを寄越せと言った。んで来た。通じてる。まあいいや、面会とか陳情とかの要望は全部お前が受けて調整してくれ。断ることはない。全部会ってやっから」

「……体持ちますか?」

「大丈夫だろ。前の軍司令官よりは仕事をしてみせるぜ」

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