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境界防衛  作者: 蓑火子
昇格ステージにて
56/131

第56話 王者感の男/見ている女

―庁舎前広場


 国境の町の夜。


 篝火に照らされている台上の演者は、軍勢を前に熱弁を振るうタクロ。大勢の町の住民が集まり、広場に入りきれない分は窓から見物したりと非常に注目をされている。蛮斧世界の民衆は革命の匂いにまだ敏感なのだろう。


「不当な扱いへの抗議が成功したか?結果、実りはあったのか?ワカらねえ!」

「閣下が、軍司令官閣下が都市を去った以上、知りようがないからだが……」

「だが!だがだがだが」


 タクロもタクロで、このような場面ではどのような振る舞いが効果的か、心得ているつもりの様子。自信たっぷりに拳を振るっている。


「不当な扱いがあったということは皆の衆も知っての通りだ!」


 自分たちのボスを応援しようと、庁舎隊は大いに盛り上がり、その発言に呼応している。彼の腹心たちが上手くコントロールしているようだ。


「それでも、おれは軍司令官閣下個人を襲撃していない。それは一連の出来事の証人、この城壁隊長が見ていた通り」

「その通りなんだ。だから、何故閣下が出て行ったかは本当にワカらねえ、本当に」

「何かあったのかも知れねえ。女とか、カネとか、女とか……カネ?知ってるヤツはいるかい?」


 聴衆に対して耳を傾ける仕草に大爆笑で応える庁舎隊員達。演説とはエンターテイメントだ。聴衆を楽しませ、惹きつける、納得させれば凱歌があがる。そんな勝負だ。


「知ってたら是非教えてくれ、光曜が攻め込んでくる前にな!」


 声が鋭く走る。


「光曜は攻めてくんのか!」


 その言葉に反応して静まる軍勢を、盛り上げにかかるタクロ。


「今、光曜国とは戦争中なんだ!そしておれたちはここ最前線に立っている!最前線!ココ!コーコ!演者こそが最前線、前線都市の名の通り!」

「そうだ!」

「このままでいいわけがないんだ!ヘッド無しの状態で、放置することは許されねえ!そうだろ!」

「そうだ、その通り!」


 時折入り合いの手は、タクロの手の者により、しかもその声は増え続けている。


「というわけで、おれは責任を取るぞ!」

「どうすんだ!」

「どうするって?臨時の軍司令官の地位に就く」


 歓声とどよめき、そして明らかに伝わってくる沈黙が入り混じる。それは庁舎隊の隣からのもの。空から見下ろせばば一目瞭然である。


「私利私欲?違う違う!城壁隊長殿の推薦があったからそうするんだぜい。おい、そうだろ?」


 台の下に立つ城壁隊長は、ウビキトゥの支配下にあったとしても性格が顕れているのか、大声を上げたり、勝手な発言をしたりはしない。ただし、タクロの発言に、いちいちもっともだと言うように頷いているのみである。


「真面目に約束しよう。先の戦いや暴動の対応で傷ついた軍隊を、おれは修復する!」

「光曜に備えて、霧で立ち込めた川向こうの調査も行う!」

「出撃隊の長の後任も決めなきゃな!おい、なにもかもがこの都市の連中が安心して生活をするためだ。異存は無いだろ!?」


 自分たちのリーダーがトップに就くと言うことで庁舎隊は拍手喝采の大騒ぎである。隣り合う城壁隊の反応と対照的。反対側では少なくとも手を叩いて叫ぶ者は誰もいない。そこから誰かが声を上げた。


「補給隊長はなんて言ってる?」


 タクロ仕込み外の指摘の通り、この騒動にあっても、補給隊は兵舎から動いていない。


「まだ聞いてねえ!でもよ!ヘッド不在のままにはできねえって、それはあいつも承知しているだろうさ」

「心配すんな!なんにせよ臨時の、ということだ。幸か不幸か、おれ様にはその経験がある!」

「お前ら覚えているか、心得閣下様と呼ばれていた時代のおれ様を!」


 途端に爆笑が沸いた。この冗談には、城壁隊の面々に笑う者も。なかなかに上手い。


「族長会議には、後任を送ってくれと伝える連絡もする。みんなを代表して南に行きたいヤツはいるか!っているわけねえよな!ワカるワカる!」

「そうだな、使者は隊長らで打ち合わせてそれぞれの隊から選ぶぞ」

「城壁隊長殿、文句あるかい?」


 異存は無し、とゆっくり同意を示した城壁隊長。軍勢もウォークライにて同意を示した。この集会、とりあえずは及第点に落着したと言える。


「これから忙しくなるぜ!というわけで皆の衆、よろしく!」




「ふう、疲れた。いやあ良い汗かいたかいた」

「隊長、いや軍司令官閣下」【黄】

「な、なんだねエルリヒ組長?」


 邪に微笑むトサカのゴマスリに、思わず声がうわずった。うーん、悪くない。


「早速、不穏な連絡だぜ」

「げっまじか。相手は誰だ?」

「出撃隊。あいつらアリアちゃんも居なくなって、このまま潰されるんじゃないかって怯えてるんだってさ」

「すぐ行こう」

「早めに叩いたほうがいいよなあ」

「いや、その前に頭冷やさせよう。エルリヒ組はついて来い。ヘルツリヒも来てくれ。それから城壁。そっちの隊からも引き連れて来てくれ」

「……承知」

「なんか、城壁隊長素直つか、静かすね。いつも以上に」

「おれに賛同してくれてるんだよ。ナチュアリヒ、お前の組は大通りを巡回しながら、都市の連中に軍司令官交代を喧伝してくれ」

「承知!」【青】


ん?



―出撃隊兵舎


 夜でも目立つぺんぺん草。隊長の交代が立て続いたからか、不遇の兵舎は荒れてんなあ。さらに入口は固く閉ざされている。まずは一声。


「おいお喋りトサカ野郎でてきやがれ!」

「タクロか!てめえこのカス聴いたぜ!早速、軍司令官気取りかこの野郎!」【青】


 出撃隊の副官が顔を出した。顔は怒りに染まっている。


「約束破り野郎め!クビ掻っ切ってやろうか!」【青】

「なんのことだよ?」

「ウチの隊長にあんまり酷いことをするなっつったろうが!」【青】

「してないよ↑」

「嘘つけ!」【青】

「嘘じゃねえ。あのアマ、軍司令官について自分から出て行ったんだよ」

「信じられるか!」【青】

「スタッドマウアーさんにも聞けよ」

「信じられるか!」【青】

「まあいいや。とにかく悪いようにはしねえ、開けて出てこいよ!」

「ふざくんなハゲ!」【青】

「じゃあ中に入れろ」

「貴様だけならいいぜ」

「おれだけ入ったらお前ら全員無事じゃすまねえよ!」

「やってみろハゲ!」【青】


 や、野郎、おれはハゲていないというのに。


「ならどうすんだ?」

「戦うまでだ!」【青】

「シー・テオダム閣下万歳って?」

「んなこと言うかボケ!」

「てめえ、庁舎隊と城壁隊の連合だぞ!目ついてんのか?おら見やがれボケ!」

「へっ、こっちにだって補給隊が付いている!」

「ハッタリこきやがって!」

「へっへっへ、ハッタリじゃねえよ!エサがなきゃてめえらだってあっという間にご臨終だぜ」


 視界の端で、早速エルリヒが部下を補給隊兵舎へ送るのが見えた。うん、優秀だ。ならおれ様としては一つ、隊きっての親切者ヘルツリヒ君を説得の場へ送ろう。目で合図する。


「おーい皆の衆」

「クソしたタクロのケツに付いた裏切りクソカス野郎はすっこんでろ」


 うん、酷い挑発文句だが、声のトーンは下がったな。


「まあ聞けって。本当に良くワカらねえが、軍司令官閣下は都市を去り、出撃隊長殿も付いていったんだよ」

「そこのクソしたハゲの仕業だろうが」

「違うよ。城壁隊長殿と俺もその場にいたけど、ウチの隊長は閣下に触れてもいない。閣下はなんか倒れてたんだよ。ちなみに出撃隊長殿もいたぜ」

「だからなんだって?」

「いきなりヘッドが消えたような感じだけど、何もそう構えることないだろ」

「信用しねえ。お前らとつるんだと知れたら、こっちも裏切り者になる」

「裏切り者って?」

「族長会議だよ」


 なるほど。それが怖いわけだな。


「つったって、ウチの隊長は族長会議にゃ従うって言ってるぜ」

「ワワワ、んな先のこた知らねえ」

「上の決定はともかく、この都市守らにゃいけねえって」

「誰から?」

「まあ……光曜?」

「あのフヌケどもが動くもんかよ!」

「どうしてもダメ?」

「ダメだね」

「カネで解決?」

「借金タクロにできんのか?補給隊長はたんまり貯め込んでるんだぜ!」


 こりゃダメです、という顔のヘルツリヒ。しかたない。次の手だ。


「城壁男子、ここの包囲を任せた。ヘルツリヒはお慰め継続な。おれは補給隊長を説得してくる」

「……承知」

「お……なんだか城壁隊長、物分かりがイイですね」

「事態を何とかしたいのさ、イイヤツだ」

「なるほど!隊長間の友情って俺好きです!」【黄】



 出撃隊の馬を失敬し、補給隊兵舎までの道を全力で走らせる。先頭を疾走中、女宰相の声が頭に響く。


「タクロ君」

「なんです?」

「出撃隊の兵舎を攻めないのですか?」

「攻めたいけど、内紛は新任軍司令官として不味いっしょ。軍を立て直すって言っちまったばっかだし」

「結構。それより補給隊の兵舎も入り口を封鎖していますよ」

「あっ、視たんすね?」

「ええ。後の事を考えてあなたとは関わりを持たないつもりのようね」

「で、出撃隊とお手手繋いだのか。厄介だな」

「時間をかけずに、何とかしないといけませんね」

「当然、手を貸してくれるんすね?」

「手ではなく、ウビキトゥを」

「え……うっ」


 胸に何かが当たった。見れば鳥のようだが、何処かへ飛んでいってしまった。


「今、あなたの手の中に軍司令官、いえ元軍司令官がインエクと呼んだウビキトゥがあります」

「い、いつの間に」

「それを使ってください。使い方は簡単で……」


 女宰相の解説が奔る。


「なら、目に入れなくても使えるのか」

「ええ」

「よかった。あの野郎が目に入れてたものなんてな」

「落としたり壊したりは厳禁です。絶対ですよ」

「もし壊したら?」

「あなたを許しません」

「げっ、んなモン貸すの?」

「あなたには勝って頂かなくてはならないから。これがギャンブルなら、私も賭さねばならないでしょう」

「怖!ギャンブル以上だぜ……お」


 見なれた赤い髪が視界に映る。ビックリ顔でおれを見てるが、こっちは馬上だし忙しい。口笛を吹いて颯爽と去ってみせる。女宰相殿が反応した。


「あなたの権力奪取は、彼女のような一個人を戦火の不幸から救うという効果もあります。頑張ってくださいね」

「へいへい」



―補給隊兵舎


 門前には補給隊士が固まっている。


「タクロの野郎が来たぜ」

「ワワワワワ、本当だな。なら軍司令官殿を痛めつけやがったってのもマジか」

「あの野郎良くやるぜ」


 昔からここの連中はタチ悪いのばっか。本当にクソだが、最初が肝心だ。


「おいクズども。おれ様と会話をしてイイのは一人だけだ。とっとと隊長呼べ」

「隊長はお前とは話さんとさ」

「なんだあ?お?お?」

「顔を近づけんじゃねえよ」

「Puッ!」

「……」

「ほーん、手出すなって言われてんだぜこの臆病者!」

「挑発にゃのらねえ」

「うーむ」


 奥の手アイテムは集団のボスに使いたいのに。でもしかし、


「あの小心者のことだからどっかで聴いてるんだろ。じゃあお前でいい。しゃべくりタイムといこう」

「てめえ何を勝手に」

「他のヤツがおれに話しかけたら殺す」

「言っ……」

「おれは喧嘩だけが得意なんじゃねえ。人間一人始末するのが楽しくて楽しくて戦士やってんだぜ」

「……」

「……」

「でだ」


 出撃隊での話をここで繰り返す。ああ、時間の無駄だなあ。


「というのがあらましだ。んでおれの話は単純。協力しろ、以上。さっさと回答を持って来させろ」

「……ちょっと待ってろ」

「五分以内に戻ってこいよ!過ぎたら突撃命令を下すからな!」

「……」


 といって、出撃隊庁舎よりは荒れておらず、そう簡単に突破できる守りではない。ハッタリが効けばいいが……ん?というより、女宰相からのアイテムで門を開けさせた方が早いんでないの?


 おもむろに、ガラス膜を右手の中指と薬指の間に挟み、掌を外側に、肘を空へ突き立て、腰をひねる。


「?」


 トサカエルリヒが疑問を抱いた気配を背に、補給隊のトサカ門番を覗く。そしてこうだ。


「おい貴様」

「なんだそのポーズはよハゲ」

「ハ、こ、この……は、鼻に指を入れてみろ」

「なんだこの……、!」【青】

「ほれ、早く」

「……はい」


ズボ


 お、おお!こ、これは凄い。


「お前何やってんだ」


 どうしてもモノに出来ない女をいいなりにさせることだって、できるではないか。ちなみに女宰相を除く。


「え?」


 夢のアイテムだ……!ん、あれれ?しかし……


「こんな野郎の言いなりになってんじゃねえタコ」


 軍司令官の野郎は庁舎隊のメスブタどもに使ってなかったってことになるよな。妙だな。


「えっ、おれそんなことしてた?」


 まだ知らぬ影響があるのかも。あの女が全てを開示するとも思えないし。


「なにヌカしてやがる。おいタクロ、てめえ調子くれちゃってくれちゃってんじゃねえぞ」【青】


 目の前のトサカ頭が揺れた。


「何分経った?」

「なんだあ?」

「さっきのヤツが中に入ってから」

「一秒かな?」

「うむ、やっぱり五分過ぎてたか。じゃあ中に入らせてもらうぜ、お前、道を開けて、ここに突っ立ってろ」


 目を合わせながら、前に進む。


「てめ……、!」

「お前らもだ!軍司令官様が通るぜ、道を開けろ!んでもって、指示があるまでその場に立ち尽くせ!」

「ブッコロ、!」「死にさら、!」「ワワワ、!」


 荒くれトサカどもが道標の如く直立していく。


「そうだ、新兵の立哨訓練のようにな!フハハ」

「た、隊長?」


 不安げに呟く誠実トサカのエルリヒ。今のおれには後光が差し、畏敬の象徴として映っているのだろう。


「臨時とは言え軍司令官の肩書は伊達じゃねえ。大丈夫、おれ一人で行ってくるよ」

「マヂかよ隊長オレも行くよ!」

「おれ一人の方がよさそうだ。コイツらが暴れ出さないか、ちゃんと見ていてくれ」

「お、おう……」


 王者の歩みで補給隊の庁舎を歩く。中は不潔で、物資や備品が乱雑に置かれている。清掃がなっちゃいない。さすがは蛮斧の補給環境。


「タ、タクロだ!」

「破られたのか!?」

「殺せ!やっちまえ!」

「皆の衆、立哨をしていろ!これは軍司令官からの命令だ!」

「!」「!」「!」


 き、気持ちいい。おれは選ばれた人間なんだ、という気持ちが沸々としてくるぜ。おれが進むところ、歩哨が道を創ってくれる。フハ、フハハ。


 隊長室を発見。派手に蹴破るのも良いが……


「あーチミチミ」

「タ、タクロ!てめえ!」

「オホン、隊長室のドアを開けたまえ。そしてワタシを補給隊長の前に案内したまえ」

「こ、この……、!」

「したまえ」

「……はい」


ガチャ


「なっ!」

「オホン、オホン」

「……こちらです」

「ありがとう。感謝するよ。では、入口の前に立って人払をしてくれ。ワタシがキミに声をかけるまでな」

「……はい」

「」


 言葉を失った補給隊長。


「さて、見つけたぞ」

「」

「ポンコツ補給隊長め」

「」

「保身だけはしっかりしていやがる」

「てめえ……なにしやがった」

「あ、喋った」

「聞いてんだぞコラ」

「時間切れ。で、来たぜ」

「まだ五分経ってねえだろうが!それよりなんだ今のは」

「彼は優しい隊士だな。きっと出世するよ、おれ様の世でね」

「調子コキやがって」

「ところで知っての通り、おれは臨時で軍司令官をやることにした」

「この反乱野郎〜」【青】

「まあ聞け」


 というわけでここまでの経緯を優しく説明してやる。瞳が憎悪に光る相手に説明する話でもないのだが、


「つまり命令しに来たわけじゃない。協力してもらいたいんだ」

「殺すぞガキ」【青】

「出撃隊の連中と連絡し合ってんだろ。あいつらに立て籠もるな、って言ってやって欲しいんだ」

「殺すぞガキ」【青】

「ちゃんと報酬も用意する。どっかの町攻めて、奪って、そこやるよ」

「殺すぞガキ」【青】


 うーむ。取り付く島もないとはまさにこのこと。


「てめえ如きが軍司令官だと?身の程知らずなクソ行動しやがって」【青】

「ヘッドがいなきゃしかたねえだろがい」

「ウチの戦士たちはみんなてめえが嫌いなんだよ。おれだけじゃねえ!絶対に従わねえぞ」【青】

「じゃあなんで誰もここにやってこないんだぜ?」

「はッ」【青】

「だーーーっ!」

「!」


 野郎の戯言を気合で掻き消す。


「話があんならおれが聞いてやるよ。おい門番君!誰もこの部屋にいれんなよ!」

「……はい」

「近づく者は?」

「……無し」

「ほら」

「ほらじゃねえ。てめえ何かしたな?」

「何かって何?」

「ワカらねえ。ワカらねえが……」

「あんまり物分かりが悪いと別の補給隊長を探さなきゃならなくなるんだが」

「やれるもんなら」

「意味ワカってんのか?ブッ殺るってことだぜ!」

「てめえにゃ無理だよ」

「殺る殺る」

「蛮斧の戦士にあるまじき、甘ちゃんクソ野郎だからな」

「殺……るよ?」

「この偽善者め!」




 補給隊長殿のタクロ評には全面的に同意したいところだが、その暇も無い。


「タクロくん。その奸悪なる男の説得にそれ以上の時間をかけることは感心しませんね」

「……」

「躊躇があるようですが、感傷は捨て去ってください。元々それに値しない人物に対しては」

「……そうか」

「言い返す気合もねえくせに、ヘッド名乗ってんじゃねえぜ!へっへっへっ」

「やかましい黙れ」

「へっへっへっ、!」

「お前にゃワカらんだろうが、もう一歩踏み出しちまったんでな。当たって砕けろの精神さ。おれに従ってもらうぜ。いいな」

「……」

「返事」

「……承知」

「うーん、虚しさよ」


 補給隊長を引き連れて外に向かうタクロ。これで補給隊出撃隊の問題も収まって、町の軍権を掌握したことになりひと心地つけるというもの……


「あれ?」


 だったが、兵舎の外では庁舎隊員が幾人かの蛮斧戦士を制圧していた。


「エルリヒ」

「隊長無事だった?」

「まあな。で、これは?」

「いや、いきなりなんか襲い掛かってきたヤツがいてさあ。あ、誰も殺しちゃいねえよ」

「ふーん。反撃ならオッケーだ」

「何がオッケーだ」

「えっ?あっ、こっち来たの城壁君」

「一体何が起こっている」

「何がって……さっき話したろ」

「話……何のことだ?」

「えっ?」

「えっ?」


 タクロのインエク使用を観察していた私の見解として、このウビキトゥは誰かを支配する限度数が設けられており、それはまた外部の何かに依存している、ということだった。外部の何か、恐らくそれも古代遺物ウビキトゥなのだろう。


 それにしても、限度数に対して、古い支配から自動解除していくとは、どのような機序によるのだろう。この世界の謎を解き明かしてみたいものだ。

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