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境界防衛  作者: 蓑火子
採用選考過程にて
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第36話 恐喝の男/莞爾の女

 タクロ不在でも選考は順調に進行していく。行政文書試験はとても一般に馴染みあるものでは無く、結果人数は半分以下に片付いていたからだ。つまり、落選者が続出したのだが、


「選考に参加してくれてありがとう。心から礼を言うよ」

「紙一重。本当に惜しかった。また募集がある時は絶対にチャレンジしてほしい」

「羞花閉月とはきみたちのためにあるような言葉だ。今日は本当に有意義だったよ」


 幾らかは残念を抱えた女たちの心を一気に漁るかのような軍司令官の振る舞いが光るのであった。


「それにしても、庁舎隊長の行政文書、あちこちにミスが多すぎるな」

「あの、軍司令官閣下。修正を施した方が良いでしょうか」

「ああ、頼むよ。修正が終わったら私のところまで。全ての修正箇所に私の承認サインを打ってやるかな、フハハ」

「ウフフ」


 と、庁舎隊長不在の場を完全に掌握した軍司令官だが、さっきからチラチラと一人の採用希望者に視線を送っている。例の不審な女で、女の側でもそれに応えて、少ない頻度だが視線を投げ返している。アリアも、その他のメイドたちもまだ気づいていないが、時間の問題だろう。色男はよりにもよって、危険な女に照準を定めたようだ。行政文書試験では、問題が無い書類を手に取っていた。


「次は最終試験、実技だったね……そう言えば、企画書に詳細は書いてなかったな、アリシア君?」

「はい。不在の庁舎隊長があらかじめ決定していた事項をお伝えします。曰く、敵に攻め込まれる昨今の時勢、庁舎を守る者はすべからく戦闘術に長けていなければならない……」

「なるほど正論だな。それで?」

「以上です」

「えっ。つ、つまり?」

「面接を通して戦闘能力の素質を見る、ということと、私は解釈しておりました。その方法については伺っておりません」


 いきあたりばったりの様子。


「た、確かに一理あるが、まさか面接と称して、彼女らを戦わせるわけにもいかないよ」

「場合によってはそうしてもいいと、呟いておいででした。勝ち抜きトーナメント戦が良いな……などと」

「バカなことを!いつ死んでも良い蛮斧の男どもとは違うのだ。彼女らを面接で怪我をさせるわけにはいかない、ダメだよ全く、あの男は……」


 今の光曜でも珍しい、軍司令官の女性擁護の姿勢だ。蛮斧のどこ出身なのだろう。


「では、私が判断をしよう」

「軍司令官閣下がですか?」

「ああ。私だって蛮斧の国の軍人だよ。大丈夫、暴力無しに、しっかりと有望株を見極めてあげるよ」

「しかし」

「大丈夫だよアリシア君」


 そう言いながら、壁飾りの剣を手にとる軍司令官。


 会議室で実技試験が始まった。私はこれまでの経緯から、この人物から高貴な雰囲気を感じることはなかったが、


「ああ軍司令官閣下……」

「仕事より金策を優先するクズな部下に変わって胸を貸す。なんという男らしさ!」

「上司の鑑ともいうべきお方ですね!」


 と、アリアとメイドたちは概ね感激している。またここまで残った選考者たちは、お目当てとの手合わせと聞いて明らかに色めき立っている。男は、壁飾りの剣を優しく女へ手渡した。


「ではキミからだよ。エリナ・ジークルーン・ジークリンデ嬢」

「!わ、私の名前を覚えてくださるなんて……」

「当然だよ。大切な仲間候補の一人だからね!」

「ああ……で、でも閣下と戦うなんて」

「大丈夫、私は強いからね」


 陽が差し、男の歯がきらめいた。


 長い名前の選考者が構えた。剣は蛮斧ではほとんど使用されない、むしろ光曜の武器と言える。


「さあ、かかっておいで」

「は、はい。それでは」


 選考者が軍司令官へ向けてゆるゆると飾り剣を突き出すと、いきなり距離を詰めた軍司令官、女の手を抑え、


「あっ……」

「コラ、手加減してはダメだよ。さあもう一度だ」

「は、はい……」

「遠慮はダメだからね」


 頬染めた女がもう一度、剣を構えた。見れば、姿勢が先程とは違う。次の瞬間、鋭く地を蹴る音が鳴ったかと思うと、すでに軍司令官は距離を失っていた。中々の速さである。


「うおお!」


 叫んだ男の首筋を剣閃がかすめた。


「ご、合格」

「ありがとうございます!」


 喜色満面の女。軍司令官は本気で追い詰められていたようだった。しかし、合格、と言った以上、彼女らはメイド隊への加入が決定したということだろうか。


「そ、それでは次」

「は、はい」


 動揺を押し隠す軍司令官はそのあたりを決めずに進行させる。


「……」

「……」

「……」

「あ、あの」

「あ。そ、そうだったね。マーセイディーズさん」

「はい!」


 名前確認を待っていた女は喜びを示す。女の声を聞いて冷静さを取り戻した軍司令官、再び、


「遠慮はいらないよ」

「はい!」


 女はいきなり、手にした壁飾りの剣を投げ飛ばした。切先が潰されているとはいえ、当たれば怪我をすることもあるだろう。


「うわっ」


 軍司令官が情けない声を洩らしてしゃがんだ所に、一気に距離を詰めた女が容赦ない飛び前蹴りを放ち、男の腹部を強打した。


「ふぐっ!」


 声にならない声が聞こえた。次の瞬間、女の動きが急に止まった。間違いない。例の力が使われたのだ。そこまで追い込まれていたか。あとは相手の肩を掴み押し、膝を叩いて女を優しく寝転がせた。


「……」


 相当痛かったろうに、周囲に悟られないよう、声を押し殺し、我慢して立ち尽くしている。これが彼なりの洒落、ダンディズムということならば、


「ふぅぅぅ……すぅぅぅ……」


評価に値する。


「はっ!わ、わたしは」


 女の洗脳も解けたようだ。やはり優しく女の手をとって立たせる男。


「キミ。お、惜しかったね。それに凄く良いキ、キックだったよ」

「そんな、恥ずかしい……」


 頬染め俯き立てた小指を口元に当て照れる女を褒める男は、取り出したハンカチで自らの顔を叩く。顔をよく見れば脂汗のようなものが浮いている。


 私もしかと認識していなかったが、どうも蛮斧の女たちは概ね強く、戦いの心得は持ち合わせているようだ。乱暴で暴力沙汰ばかりである蛮斧男の世界に生きる彼女らも、男の気まぐれでいつ殺されないとも限らない。それを防ぐためには、ということか。


 となると、私と同じくそれを知らない様子の軍司令官は、生粋の蛮斧人ではないのかもしれない。


「それでは次」

「ちょっと待った」

「?」

「……」


 進行を止めておきながら、しばし無言の軍司令官。タクロを呼び戻すことを考えているに違いない。だが、交代しては沽券にかかわると恐れているのだろう。女たちは残り二十人もいるのだ。


「い、いや、次に行こうか」

「閣下、お待ち下さい」


 飾り剣を拾ったアリシア。


「破損したので、別のものを持って参ります。しばらくご猶予願います」

「そ、そうか」


 破損個所は不明である。これはアリシアから軍司令官への配慮だろう。私はまた、彼女を好ましく感じる。


 アリシアが時間をかけて代替品を持ってくる間、


「フッ」

「フッ」

「フッ」

「軍司令官閣下……」


 と軍司令官の体力は順調に回復していた。だが、自信はどうだろうか。


「……よし。じゃあ始めよう。次は……おや?」

「よ、よろしくお願いします」


 赤毛の幼馴染であった。その名を呼ばれた後、試験は始まった。彼女は飾り剣を手に攻撃を放つがキレは無く、速度にもかける。余裕で身かわす軍司令官、これは間違いなく不合格だろうが、


「ど、どうしたんだね。本気を出して良いんだよ」

「は、はい!」


 中々判定が出ない。弱い相手と組み続ける、これも一つの時間稼ぎなのかもしれない。そのうちに、赤毛の幼馴染の足が止まり始める。


「はぁ……はぁ……」

「さあ、もっと打ち込んできたまえ」

「閣下、その、時間が……」

「さあ!構わないから!」

「は、はい!」


 また攻撃が始まるが、さらに速度が遅くなっている。赤毛の幼馴染はかなり疲労してきている。


「キミにはもっと実力があるだろう、HAHAHA!」


 間違いない。これは時間稼ぎだ。とはいえ、軍司令官に打開策は無いように思える。今この時も考えているのかもしれないが。




―前線都市 大通り


 情けなくもカネを探し求めるおれに、世間の空気は冷たい。功績は上げても経済的には一向に上向かない我が財布の底が見透かされているかのようだ。


「ああ、クソ」


 蛮斧の町に大商人などいない。いればあっという間に金を巻き上げられるか、族長らに取り込まれるか、ともかくまともな仕事にはならないからだが、つまりは金を借りる当ても生まれない。


「しかしなあ」


 まさか部下どもに借りるわけにもいかないし。というよりも、連中はおれ以上に貧しいはず。とても無理だ。


 そこで、城壁隊に長を訪ねる。


「スタッドマウアーサン、か、金貸して」

「急だな」


 事情を話す。が、


「軍人同士の貸し借りは禁止されてるが」

「誰も守ってないよ」

「まあな、しかし金貨なんて無いぞ」

「ちょっとでもいい」

「俺の実家にはたくさんの兄弟がいてな。今季の給料はもう送金済みだよ」

「馬鹿な!酒や女にかかる必要経費はどうすんだ」

「俺はどっちも行かない」

「クソ!だから部下に嫌われるんだぜ」

「しってるか?それ光曜では逆らしいぜ」

「ああそうかよ」


 怒りに震えて城壁隊の兵舎を出ると、補給隊の群れと遭遇。隊長を中心に道の中心を偉そうに歩いている。次はコイツだ。


「おい、カネ貸せ」

「急になんだ。頭おかしくなったか」

「お前はどうなんだ。大した戦功も無いのに、安心してていいのか?おれの歓心を買っておいたほうが良いぜ」

「馴れ合うんじゃねえ餓鬼」


 おっと。蛮斧が特に弱い後方支援が主任務とは言え、コイツも男であることを示してくる。


「俺たちはそういう関係じゃねえだろうが。俺たちみんな元々貴様が大嫌いなんだ」


 おれは一人のトサカ野郎の顔面を先制強打する。群れの心理的支援に乗ってこのトサカがおれに手を伸ばしてくるのが見えたからだが、倒れたトサカ髪を踏み躙ってやる。


「おうおう。おれはお前が役得キメこんで貯めてるって知ってんだぜ!軍司令官に報告して吐き出させてやってもいい」

「この野郎〜」


 白昼の行動で睨み合いの両隊長、と周りには見えるのだろうか。が、追い詰められたおれはともかく、コイツにやりあう気はない。多分度胸もない。だから、


「なら、ヒントを恵んでやる」


 そらきた。


「ヒント?」

「ありがたく思えよ。この都市には物資の密売人どもがいるだろ」

「お前のお友達だろ?」

「まあな。だがこの連中は蛮斧の今の掟にも反してる。税金ちょろまかしてんだよ。カネが欲しけりゃこの連中から巻き上げればいい」

「潰してもいいのか」

「お前一人でやれんのか?」

「よーし、補給隊長殿のお墨付きだ」



―前線都市郊外


 そしてやって来た城壁外の寂れた地区。しっかりとしたあばら家に突入する。


ドガッ!


「と言うわけで税務調査に来た」


 密輸入を噂される建物から出てきたのは目つきの鋭い邪悪っぽい男で、見るからに堅気ではない。なお、蛮斧で堅気というのは、戦士のことだ。邪悪な男が邪悪な口を邪悪に開く。息まで邪悪だ。


「もう今月何度目かの調査ですが」

「調査をしたのは補給隊の長か?」

「ご用件は?」

「だから税務調査だよ。いいか、多くは言わん。未納分として金貨十枚を用意しろ」

「そんな大金どうするんです?」

「七枚は税金として軍司令官に収める。三枚は借金返済として軍司令官に収める」

「無いですよそんな金」

「なら用意してみろ。できたらおれがしばらく力を貸してやる」

「あんたみたいなチンピラにお願いすることもありませんが」

「あ、そ。なら今日で廃業だな。早速この建物解体してやるぜ」

「待ってください本気ですね」

「もう遅い」

「要は借金の返済がしたいんでしょ。三枚ならなんとかなりますよ」

「お前ら密輸入業者から借りたなんて言えるか。税金の徴収という体裁が必要なんだ。これピカピカの良い柱だな。おれのゴールデン手斧で彫刻してやるぜ」

「じゃあとっておきの情報を提供しますから」

「立派なオフィスによく似合うのは巨大な金玉だな。お前のより立派なのにしてやるぞ」

「軍司令官の暗殺の噂が」

「へえ?そしたらおれの借金がチャラになるな」

「ああ、たしかにそうかもですねえ」

「でも噂だろ?」

「いえ固いですよ。私らは物も人も扱いますが、近頃蛮斧らしく無い調達依頼がありましたから。多分、光曜人がやる気です」

「戦争が始まってからほとんどの光曜人は逃げるか殺されるかしてるぜ?」

「まあね。でも、全くいないってこともない」


 どうしても女宰相のことを考えざるをえないおれ。光曜人が敵の、それもすこぶる有能でもない一軍司令官を殺しても仕方がない。標的は違うはずで、今の光曜を率いる者が女宰相の政敵ならば、これは合点が行く。


「どうです?三枚とこの情報、そしてそのうち、あんたが私らに手を貸す、ということで」

「密輸に手を貸せって?」

「それとは限りません。他にも誘拐、強盗と業務は色々ありますから」

「ま、いいだろう。この三枚の出どころ説明は……」

「それはそちらで考えて下さいよ……」

「お前ら補給隊長殿と親しいから、ウソついてもバラされるからなあ」

「なら女に貢がせた、というのが安全でしょう」

「それで行こう」




 軍司令官と赤毛の幼馴染の試験が、気の抜けたお遊戯と化し始めた時、タクロが汗だくで飛び込んできた。


「も、戻った!戻ったぞ!」

「速……かったな庁舎隊長」


 タクロは二人の間に割って入り、金を突きつける。


「閣下。ハイ、金貨三枚。これでいいでしょ」

「略奪してきたんじゃあるまいな。でどころは」

「お、女たちからかき集めて来ました」

「女?」


 そう聞いて、メイドたちが一様に反応を示したが、表情は多様であった。不快を示す者、興味を呈する者、何とも言えぬ顔をする者、無表情の者……そして赤毛の彼女は不思議そうな顔をしている。


「あんたにそんな相手いたっけ?」

「いないのに強がってるのか?ますます怪しい」

「まあいいでしょ。真っ当な金なんだから」

「……ま、仕方あるまい。じゃあほら」

「え?」


 金を受けた軍司令官に肩を押されたタクロはきょとんとする。


「え、じゃないよ。キミが戻ってきた以上、試験はキミが続行したまえ」


 選考者たちから明らかに残念がる雰囲気が溢れ出た。


「閣下がみていたこの女の合否は?」


 この女呼ばわりされて気を悪くしている赤毛の幼馴染だが、


「合格だよ」

「あ、ありがとうございます」

「閣下冗談でしょ。私の知る限り、この女は戦いの役に立たないんすけど」

「合格だ。まだ聞きたいのか、合格、合格だって!」

「は、はい」


 どうやら、時間稼ぎに付き合ってくれた礼のようだ。この意外と義理堅いところも、女に好かれるポイントなのかもしれない。


「ちぇ……まあいいか。じゃあ次の者、前へ」

「ハイ」


 金髪が美しい、背の高い娘が来た。


「名前は」

「え?あ、あの」

「いいから名前言えよ」


 軍司令官は女全員の名前を覚えているが、タクロにそれは望めない。


「イ、イルメントルート」

「あっそ。じゃあ構えて」

「……」


 軍司令官とは全く異なる粗野な対応に、衝撃を受けている娘。剣を手に構えるが、


「飾り剣?」

「庁舎隊長、文句でもあるのかね?」

「私から一本を取らねば合格にはできませんが、こんな剣では。そこの槍にすれば?」

「え、ええと……」

「まあ、好きなモノを使えばいいや。かかってきな」

「で、では」


 金髪娘は構えを一瞬解いた。


「?」


 次の瞬間走り出し、タクロに剣を突き出した。首を狙っている。蛮斧世界の女が強いというだけではなく、無礼な男への報復なのだろう。


 パシ、ビシ


 だが次の瞬間、女は剣を落とし、斜めに倒れた。タクロの容赦のない平手打ちを受けて気絶したようだった。


「次」


 会場の全員が絶句して動けない。


「おい次。というか邪魔だなこの女」


 そして、倒れている金髪女を丸太のように転がして除ける。


「出てこないのは辞退か?」

「あ、い、いえ」


 今度は栗毛の美しい娘が前に出た。


「早くしろよ。名前は?」

「ジェ、ジェラルダイン」

「剣使うか?」


 首を振った女は、壁にかけてある槍を手に取った。だが、この槍は飾りではない。心得があるのか、女は槍を構えると、合図の前に走り出していた。


「おおっ」


 距離をとってリーチを活かした足払いは、タクロの踏み付けにより止められていた。タクロはニヤリと笑い、


「良い戦い方だ」


と褒める。娘がなんとか槍を動かそうとするタイミングでその足を外し、


「あ!」


 バランスを崩させた。そして槍を手で掴み伸ばし、石突の部分で相手の腹部を突いた。


「んゔ……!」


 苦痛に顔色を失い、声もなく膝を折る娘であった。


「次」

「次」

「次」


 ドカッ

 バキッ

「うぐっ」


 女と言えども容赦をしない庁舎隊長タクロの快進撃が続く。強さと、美しさと、長い名前を持つ女たちが次々に脱落していく。


「ひどい……」


 小さくそう呟いたのはエリシアだ。しかし、他のメイドの顔を見ると、憤っている様子は無い。慣れているのか、あるいは一切の贔屓をしないタクロの行動それには好感なのか。赤毛の幼馴染は申し訳なさそうな不安顔で挙動不審になっていた。


 そのうち、タクロのやり方を前に闘志を無くす女たちが続出する。そして、


「庁舎隊長!」


 軍司令官がもはやたまらぬ、という風に声を荒げた。


「またですか。今度はなんです」

「これでは試験になるまい!基準を見直したまえ」

「で、でも私から一本取れないようでは、この前の暴動でも生き抜くことはできませんよ」

「ええい!代わりたまえ」


 無言で両手を上げるタクロ。最後を飾る次の選考者は、


「キミはメーレさんだね」

「はい」


 危険女だ。この女が軍司令官を狙えば、ただの暗殺。狙わねば私を狙う者の見通しが高まる。


「私が選考の見本を示してやる」


 何のことはない。狙った女を逃したくないだけだろうが、それにしても奇妙な巡り合わせだ。


「では、参ります」


 槍を選んだ危険女は素人感全開で走り突く。軍司令官はそれを寸前で躱し、女の体を抱き止めるように受け止めた。


「いい線行っていたと思うよ」

「ありがとうございます」


 危険女は満面の笑みである。タクロの試験と軍司令官の試験でまるで毛並みが異なるため、異様にすら感じてしまう。タクロはと言えば、横を向いて欠伸をしている。その他、アリアが面白くなさそうな顔をしていた。


 ともかく、選考過程は全て消化され、夕日が庁舎を眩しく照らしていた。

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