第100話 孤高の男/高踏の女
滑落が止まらない。黒い粉をまき散らしながら、おれは螺旋階段前の踊り場に転がり倒れた。
ドガッ!パラパラパラ……
スキー板代わりにしてやった鉄仮面野郎は……バラバラになった。
「いてて……な、なんだこりゃ」
見れば手や体のあちこちが黒く汚れている。これってもしや……給与支給日に盾代わりにした漆黒隊員と同じ体。となると、
「エル公め。あいつ、作り出したサイカーを早速悪用しやがったな。いっつ!」
どっか痛めたかな。もう一体の鉄仮面を追い抜いてエル助が来た。
「あああああっ」【青】
衝撃驚嘆仰天愕然の程。
「騒ぐな。蛮斧男が情けねえ」
「て、てめえよくもまた!」【黒】
粉々のサイカーを前に、ついに色を出したエルリヒ。おれを殺る気だ。寛容な俺様だって、だんだんムカついてきたぞ。
「エルちゃあああん、かかっておいで」
「ブッ殺る!」【黒】
「一人でできんのか?」
「であえ!」【黒】
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
「げっ!」
その声とともに、全方位から足音が響いた。地下牢、会議室、通用路と目に見えるあらゆる場所から、鉄仮面。よくみれば肌が石墨みたい。多分全員。応用が利く野郎だが、エル公は数えた煩悩分揃えたのだろうか?上手く隠蔽しやがって。
「殺っちまえ!肉片にしちまえ!」【黒】
漆黒隊員もそうだったが、さっきの鉄仮面も日常業務を駒コマこなすのは上手だが、戦いは今一つだった。エルリヒが基となっていても、そんなに強くはない。が、数がやばい。ここは脱出だ。
ガチャ
「うおっ!」
庁舎の外にも鉄仮面集団が壁を作っていた。頭足りない風のくせに、小憎い仕事をする。
「どけ!どけどけどけ!」
それでも、こいつらがそんなに強くないのが幸いした。漆黒連中も、謀反トサカも、住民どもも何もかも蹴散らして、今は都市の闇に潜むしかない。しばらく隠密行動だ。追撃部隊が帰ってくれば、すぐにあいつらと合流をする。そうすればナチュもエルも鎮圧できるだろう。まずは、都市の守りを任せていた元補給隊長に会おう。ヤツならインエク様様でおれに絶対服従だ。
それにしても、何か月か前は一番嫌いだったあの野郎に手助けを求めに行くことになるなんて……世の中神秘に満ちてるぜ。
―都市城壁 東門
「タクロはいたか!?」
「いねえ!けど、いいのかよ!」
「何がだよ」
「これって謀反だろ?」
「都市長官がそうしろって言ってんだ」
「タクロさんの側近がんなこといったんか?」
「都市に避難してきてる族長もそうしろって。まあとりあえずそうしときゃ間違いないだろ」
間違いだらけだよ馬鹿野郎!てめえら覚悟しておけよ、と心で毒づきながら東門詰め所に近づく。そして漆黒から奪った鉄仮面を装備して、堂々と入る。
「げ」
そこには元補給隊長の代わりに神聖なる合掌がいた。取り巻き連中に囲まれている……この野郎もおれを裏切りやがったんだった。一発ぶんなぐってやろうか。取り巻きトサカが愉快に話しかけてやがる。
「どしたんです?族長様。さっきまであんなに偉そうだったのに、もう言い返す言葉もないんすか?」
「……」
神聖なる合掌が何か言ってるが声が小さい。もうちょっと近づいてみるか。
「……私は蛮斧のために尽くしてきた……全ての行動は、この蛮斧世界のためだ」
「うひゃひゃ蛮斧世界のため?あんたの言う蛮斧世界って何よ。権力闘争ばっかでこの都市のことなんかほったらかしだったろ?その間あんたはずっといい暮らししてたくせに」
「バカな……」
スパーン!
取り巻きトサカの一人が鋭いビンタを放った。見れば、神聖なる合掌は合掌をしているが、その手は縛られている。なるほど、楽しそうだ。
「……お前たちは、何も分かっていない……謀反というのは、混乱を招くだけだ。ただでさえ戦争中なのに」
「蛮斧世界は実力至上主義なんだ!そうだろ!」
「……秩序を失ったら、必ず良くないことになる」
「秩序だと?良くないことだと?てめえら族長どもがその秩序とやらを維持していた間、どんだけの不始末があった?」
「俺が数えてやるよ。その数だけご褒美くれてやれ」
「シー・テオダムのスケコマシ野郎!」
スパーン!
「弱っちいデバッゲン!」
スパーン!
「そんで直参に背かれるタクロ!」
スパーン!スパーン!
「一発はおまけだ……てめえおれたちを振り回しやがって!良くないことは俺たちにじゃない、てめえら自身にだぜ!なあ!」
取り巻きトサカが視線はそのまま背後を親指指す。その先には、毛むくじゃらの汚いケツを中心とした雄の下半身と、その下敷きになっている女の足らしき体があった。実に蛮斧男らしいその薄汚いケツが激しく行きつ戻りつしている。女の足らしき体……あの靴下のレース飾り、どっかで見たことがあるかも?力なくなされるがまま、といった感じだ。
「素直に従ってりゃ、あんたの娘もあんな目に遭うこた無かったのに……まあ具合は良かった。お前らはどうだった?」
「よかった!」
「俺も!」
「幸せ!」
「満足!」
「今んとこ満場一致で具合がよかった!」
「だとよ。さすが族長令嬢、良い育て方したんだな」
「……私は……私は、ただ、この蛮斧世界を守りたかった……」
「守りたかった?守るどころか、自分て滅ぼしてるんじゃねえか?今じゃ誰もあんたを信じてないんだよ族長様」
「うひゃひゃ、これからは都市長官殿の時代よ!もう一回さっきみたいに忠誠を誓え!」
「……お前たちは私との約束を破った」
「なんでもいいさ。俺たちの前であんたは都市長官殿を承認したんだ。まあ承認しなけりゃ今頃首が落ちてたし、あの娘はどっちにしろああなってたし?」
スパーン!
良い一撃。神聖なる合掌は合掌姿のまま気絶した。ゲラゲラ大笑いのトサカ頭たち。なるほど、どうやら族長に対して集団リンチを加えているのか。屈服させるため、その娘をさんざん言いなりにしたと。実に蛮斧だな。おれの視線の先に鉄棒が見えた。鉄仮面もあるし、颯爽と助けておくか。
ゴンッ
ゴンッ
ゴンッ
ゴンッ
ゴンッ
ゴンッ
「はあはあ」
「おい」
「も、もうちょっとです」
「そうか」
ゴンッ
一丁上がり。それにしても規律が緩みまくってるな。散々鍛えてやったはずなのに、これが蛮斧戦士の現実か。
腹黒ロリータの手は縛られていない。あとは自分で何とかするだろう。神聖なる合掌の手を解くが、意識は戻らない。詰め所内にあった水をぶっかけてやると、少し意識を取り戻したようだったが、
「……」
このざまじゃ、補給隊長の居場所は聞けないな……他行くか。すると背後から、
「あんたのような野蛮人に助けられるなんて、殺された方がマシだった」【黒】
それは怒りに震える声だった。おれは何かを間違えたのだろうか……
探せど探せど、補給隊長が見つからない。もしや、無口君の手で始末されたかな?くそ、あの根暗、普段は必要最低限の会話しかしないくせに……それよりも、女宰相の魔術があれば、あっという間に見つかったはずなのに……おっとっと、これは恨みの感情かな?
ややあって、城壁の上から声。
「追撃部隊が帰ってきた!」
来た!待ってたぜ!待ち望んだぜ!
「開門!」
外から響く高らかな要求。さあ、門が開くぞ……タイミングを間違えるなよ……げた元五代目出撃隊長なら、きっとあいつらの誘いがあったとしても断ってるはず。入城と同時に先頭に躍り出て、統率、指揮、突撃、市内を制圧してやる。
だが、門は開かない。おい、さぼってんのか?
「おーい、門開け!」
開かない。なにやっていやがる……まさか無口君。
「おいコラ、開けろってば。勝って帰ってきたんだぜ?」
もしや開けないつもりか?だが……城壁の上から、温存されていた光曜軍の本軍が迫ってきているのが見える。
「御開帳!」
「おい開けろ!」
「ジーダプンクト隊帰還、開門開門!」
これは……まずいぞ。くそ!
「馬鹿野郎!城門を開けろ!あいつらを入れるんだ!」
「それはできない!」
「ぶっ殺すぞガキ!」
「な、なにい?都市長官殿の命令は絶対に開けるな、だろうが!」
「なんでだよ!」
「タクロの野郎を逃がさないためだろうがって……あ、タクロ!」
「光曜軍は温存している兵がいる!」
「タクロだ!つ、つ、つ、捕まえよう!」
「そうだ、捕らえろ!第一お前がお縄になればいいんじゃねえの!」
「仲間を見殺しにするつもりかよ!」
「ジーダプンクトの野郎は骨の髄までタクロ、てめえの側だろうが!」
「言ったなこの野郎!」
なんてお粗末な野郎どもだ。見ると、光曜軍が急速に近づいてきている。くそ、おれが門を開けるしかねえ!飛び降りて、門へ突っ込むしかない。
「タクロを絶対に門に近づけるな!」
この声、最低のナチュカスからの命令だ。どっかにいやがったな。手に握りしめた鉄棒を振るって、近づく謀反トサカ頭を次々にかっ飛ばしていく中、城壁の外から悲鳴が響き始めた。
「早く開けろ!光曜軍が来てる!」
「なんで!?お願い開けて!」
「助けてくれよう!」
門。そこには巨大な閂が固められていた。鉄棒なんかでこんなん壊せるか?
ヒュッ
ゴーン!
いててて!イケるか?
ヒュッ
ヒュッ
ヒュッ
ゴーン!
ゴーン!
ゴーン!
手が!手が!しびれる!ダメだ。いや、あの部隊には女宰相自身と言っていい突撃非デブがいる。あの化け物ならきっと何とかするか?
謀反トサカを蹴散らしながら再び城壁に上がる。すでに戦いが始まっている。数が違うから圧倒的に不利だ。非デブ、非デブ、非デブはどこだ……いないのか?包囲の輪が縮まっていく中、奮戦している戦士はどこにもいなかった。そして元五代目出撃隊長の軍勢が完全包囲された。
「なぜ見捨てた!」【青】
「誰か……誰か門を……」【青】
「タクロの野郎!よくも!」【青】
今、おれは、おれが編成した蛮斧戦士の部隊が城門の目の前で次々に殺されていく惨状を、何も出来ぬまま見ている。
このまま行けばどうなる?追撃部隊壊滅後、直ちに壊門が開始され、ナチュカスエルカスに追い回され、きっとどこかで野垂れ死ぬ。インエクは動作がおかしいし女宰相殿がもっとおかしいこの瞬間、おれのやるべきことは一つだ。都市の内外、どっち犬死にするか。
腹は決まった。おれは城壁を降り、乱戦の中に割って入る。死体が握る斧を手に取り、なんとか円陣を組んで防衛体勢を取る連中の前に立ち、光曜兵を薙ぎ払う。
「タ……閣っっっ下」【黄】
「助けにきたのかよ!」【黄】
「それよか城門を開けてよ!」
戦死した蛮斧戦士の手から斧と鎖を接収。
「お前らの隊長はどこで戦ってる?」
「もうワカんねえよ!早く門開けろ!」
「門は開かん。裏切り者がでた!」
「ひぃ!」
「なんで!誰だよ!」
「ぶっ殺!」
ホントだよ全く。
「だからこのまま防御の陣を維持したまま、戦場を離脱するぞ。ヘルツリヒ君の疎開組と合流する」
「てめえ、そんなのできっかよ!俺たちゃ城壁に追い詰められてんだぞ!」
「やんなきゃ殺されてそれっきりだ、ついてこい!」
「……」
「来い!来い!動けるやつは集合!」
光曜兵はこれまた鉄仮面っぽいものを付けている。きっと女だからナメられないようにしてるんだろう。武器は槍。そして攻め手が比較的速く交代している。
太子襲撃の時、女兵士は思った以上に強かった。
「ひい!」
「ぐわっ」
「ギャース!」
今もそうだ。屈強な蛮斧男たちが斬り伏せられている。単なる女の力じゃねえ……んだが何か違和感を感じる。個々は強いが、最後のトコで踏み込んで来ないというか、一気に畳み掛けてこないというか……試してみるか。
「おらあ!」
バランスを崩し引き際に遅れた敵女兵士の足に手を伸ばし、死ぬ思いで掴み倒し転がす。
「あっ」
「チャーンス」
すかさず攻撃、攻撃、攻撃、集中してボコボコにする。悪いが容赦はできねえ。他の兵士もすぐには助けに来ない。こっち見て動揺しているし、仲間内慌てて何か話している。
「た、助け……ふぎっ!」
拳骨で沈黙させる。丁度、気合いを入れ直した他の女兵士が向かってきた。
「救出しろ!」
これだ。戦闘、後退、交替のこの流れ、手堅い作戦統率なのだろうが、お陰で圧倒的劣勢のこっちにも、まだ何とかする余地が見えた。
「おい、コイツを盾にするんだ」
「へ、へい!」
おれはボコした女兵士を隣のトサカに渡し、
「通すか!」
「あっ」
ドカバキボコ!
「た、助け……ふぎっ!」
盾として別の女兵士を調達。
「お前ら!この女どもは妙に強い!今は漢であることよりも生存優先!二人以上で相手してやれ!生捕にして盾女にするんだ!」
「ワ、ワワワ」【黄】
「ワワワワ!」【黄】
久々のウィークライに明るい色。そうだ蛮斧戦士はこうでなけりゃ!混乱の中、あっという間に六人の盾女をゲット。
「盾女を全員前に出せ!」
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
ザッ
仲間を盾にされた光曜兵の攻勢が止んだ。好機!
「おれが進路を斬り開く!続け!」
進んで斧を振り回し大回転。敵はどんどん避けていく。いい流れだ。流れは作れるんだ。主導権さえ握れたら、きっと脱出まで。
遠巻きにおれたちを囲み続ける光曜兵。次の一手はこれだ。斧と鎖を結びつけ、
「こっちに来やがれ!」
「あうっ!」
一人の盾女を鎖諸共背後から抱え、
ブォーン
ブォーン
ブォーン
盾女を重心に鎖つき斧の大回転。当たればタダではすまない。
「近づけるものなら来い、来いよ!」
盾女がひぃと泣く。光曜兵はさらに遠ざかる。すると景すがら、敵軍の切れ目が見えた。そしておれが合図をする必要もなく、しゃがんだり匍匐前進したりの蛮斧戦士たちは生存を賭けてそこに殺到していった。一拍遅れて、光曜兵の悲鳴が響く。
「突破される!」
「て、敵を逃すな!」
「仲間を取り戻すんだ!」
させるか!鎖をさらに伸ばし、攻撃範囲を広げる。光曜兵は戸惑うばかり。こいつらトリッキーな戦法にはてんで対応できないな。これが年季の差って奴さあ……はあはあ、流石に疲れてきた。
ズン!
急に鎖が絡まった。見れば槍が絡まってる。誰か投げやがったか。コントロール喪失!武器喪失!盾女は引っ張られて転がっていった。人質喪失!
おれは素手になった。すると、立ち止まりこちらを見ているトサカ頭が幾人か。戻っちくりと言いたいが、
「心配すんな!」
「先、行け!」
「足止めんな、行けよ!」
他に言えることもなし。トサカ頭たちは盾女を全員解放し、戦場から離脱していった。
「ふう、なんとか致命傷ですんだ」
思わず座り込む。やっちまった自己犠牲……これはあれだな。ナチュカスやエルカスに対するおれなりの反論なんだろうなあ。それにしても疲れた。
「うつ伏せになれ!」【青】
「投降しろ!」【青】
「逃げられやしないぞ」【青】
素手となったおれを拘束しようと光曜兵が迫ってくる。堂々と離脱してみるか。立ち上がり歩く。手を伸ばしてくる兵士を払う。
ペシっ
「さわんな!」
怪訝な空気の後、さらに拘束しようと手を伸ばしてくる。おれ一人なら捕まえられるとでも?
ペシっ
ペシっ
ペシっ
あれれ。これって逃げられるかな。そんな時、近づいてきたのは、太子暗殺の時に遭遇したメイス野郎だった。前と異なり、今度はおれの目を見据えている。いっちょ気合いを入れてやる。
「ガンくれちゃってんじゃねえぞガキ」
ボゴっ!
問答無用で頭を殴られた。衝撃で膝が曲がり、頭から落ちる感覚。やばい、コレは気を失うやつだ。そしておれは最後に見た景色を覚えている。地に伏す瞬間、凄まじい速さでやってきた小さなハチドリが、おれの右目からインエクを奪い去っていく姿を。女宰相、どうしようもねえ女だぜ、クソったれめ……しかしまあ、おれはまた必ずあんたに会いにいったるぜ。
―庁舎の塔 応接室
タクロが捕らわれた。
いつも通り私の支援があれば、こうはならなかった。それを失ったのは、彼が私の期待を裏切り続けたため。太子殺害という絶好の機会をフイにしたのだ。もはや容認できぬ。
彼は女を殺せないと言うが、甘えに過ぎまい。非合理的な感情を、自身の行動を正当化するための言にしているに過ぎないし、陳腐な失敗の言い訳など聞きたくもなかった。
それほど私はタクロに失望したのである。軽蔑すら加わったと言える。
これから彼は戦争捕虜として、光曜に連れ去られる。害悪そのものの大農場行きは免れまい。だから、自らの目で光曜世界を見ればよい。太子を生かす価値があったのか、女性不殺の主張が単なる怯懦に過ぎないか、自ら考えればよい。蛮斧男の義侠を光曜世界でも貫けるか!
すでに激戦から離脱させ丘の上に立つガイルドゥムの視点に切り替える。国境の町は光曜軍に攻められてはいるが、城門を突破されるには至らない。太子の戦術は失敗した。追撃部隊により光曜の荘園領主軍を徹底して撃破したタクロの策が当たったからである。
切り離すに心残りを感じるのは、タクロのこの才ゆえ。彼の勇敢さは確かに得難い。だが、代わりは見つければ良いのだ。以後誰が国境の町の支配者になるか?タクロほど甘くなければ、実力は至らなくてもよい。私が操ればそれで事足りる。
天窓からハチドリが帰還。そのくちばしにはインエクが光る。私がそれを回収すると、インエクにはタクロの体温が残っており、彼の声が聞こえた気がした。言いようのない感慨とともに。
やはり、私はタクロに期待をしていたのだろう。何を?と問われれば。それは道具としてではなく、対等な協力者としての役割に違いない。
だが私はタクロを切る、と決断したのだ。決断した以上、後ろを振り向く必要はない。私は私の究極の目的を達成するため、引き続き塔の上の捕虜として振る舞ってみせよう。