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魔法売りの少年  作者: 青い夕焼け
21/26

二十一話

「まず、一本取るよ!」


真中が声を上げ、それに呼応するように風見と火鳥が両サイドを走る。


きゅっきゅと体育館シューズが擦れる音と共にリズムよくボールが弾む。


コート中央から相手陣地に入り、ゴールを正面に見る真中がディフェンスから伸びてくる手からボールを守りつつちらりと視線を飛ばす。


「っ!」


二人が展開したのを見て真中が即座に切り込んだ。


「行けー!」


「真中-!」


周りからの歓声を浴びながらゴールまでの距離を縮める。


「はや……っ」


右に左にフェイントを重ね、自身についていたディフェンスを一人抜き去る。


巧みなドリブルでそのままゴールへと向かう。


「ヘルプ!」


だが、ディフェンスに空いた穴を塞がんとすぐさま他のメンツについていた者たちが寄ってきた。


「圧掛けてー!」


「ブロックしっかり!」


予想よりもカバーが早い。


「っ」


強引には突破できないと真中も一度制止し、ディフェンスの隙間を突こうとゆさぶりをかける。


しかし、守りが硬い。


真中は完全に囲まれてしまい身動きがとれなくなった。


相手チームの圧が窮屈そうにドリブルを続ける真中へとのしかかる。


「かざ!」


ディフェンスから伸びる手がボールを掠め、限界を悟った真中が苦し紛れのパス。


右サイドからヘルプに近づいてきていた風見へとボールが飛ぶ。


しかし、そこはすでに相手チームに予想されていた。


手のひらにボールがぶつかり、ばちんと音が響く。


「っ……!」


ボールを奪われ、すぐさまディフェンスへと戻る。


が、いち早く飛び出した相手へ追いつく間もなくボールは易々とリングの中へ。


相手チームの戻る速度についていけない。


それだけではない。


あちらは経験者が多いのか誰を切り取ってみても動きが速く、スムーズだ。


ディフェンスを抜かれた後の対応、その連携もバッチリ。


「ひー!」


真中からのパス。


「よっしゃ私が決めて――」


なんとか隙をつき、勢いよく火鳥がシュートを打つ。


しかし焦りからフォームはやや前傾に、フォームもバラバラ。


低い弧を描いてゴールリングの上を滑るようにボールが弾かれる。


「ごめん!」


「ドンマイ、ドンマイ。次取り返そう!」


しかしその後も、真中を中心にして攻めるが一向に点が取れない。


一人抜きんでたドリブル技術でディフェンスを躱す真中だがそこからシュートまでが繋がらない。


パスを出してもその途中でボールを取られ、パスが通ってもディフェンスに圧を掛けられて中々シュートが入らない。


そうしているうちに気づけば点差は十五点まで広がっていた。


「きっついなぁ」


真中が額に滲む汗を袖で拭いながら、そうこぼす。


チームのムードが悪くなるのを真中は敏感に感じていた。


ここで何とかふんばらないと、チームの雰囲気を変えないと。


そんなことを思い奮起する真中。


相手はパスの軌道を読むのが上手い。


ならば安直なパスは出さずにフェイントだけかけて一人で決めに行こうか。


頭の中、不利な状況を打破するための作戦を考える。


しかし、その不意の一瞬。


思考に意識を取られた僅かな瞬間だった。


「後ろ!」


声に反応し、振り返ったときにはすでにボールを奪われていた。


「ごめんっ!」


再び攻守が入れ替わり、オフェンスへと移行した相手チームの動きがキレを増す。


反撃の狼煙をあげんとした出鼻をくじかれ、勝てなさそうだという気持ちが鎌首を持ち上げ始めた。


開き続ける点差。


胸の内にくべた闘志の火がみるみるうちに小さくなる。


負けの二文字が脳裏によぎる。


その時だった。


「カット!」


ひと際大きな声を上げて手を水平に伸ばした左山が奪われたボールを即座に奪い返した。


前方に弾くように突き飛ばしたボールを追いかけ、追いつき、ボールをつかんで。


全ディフェンスを置き去りにした。


そのまま流れるように柔らかいタッチでリングの上へと置くようにボールを放る。


誰もが驚いた顔でその光景を見ていた。


「え……」


特に風見や火鳥といったメンツは口を半開きにして、まるで予想していなかったとばかりの反応だった。


「まだ逆転できる」


何でもないことのように涼しい顔で呟く左山。


「ボール、こっちにも回して」


リングを通ったボールがてんてんと落ちる音を後ろに鋭い視線が真中を捉えている。


「わ、わかった」


その動きのキレに思わず圧倒された真中は言われるまま、しかし力強く頷いた。


弱まっていた火に風が吹き込まれた。


――


「ディフェンス、止めて!」


大きな声を上げて寄ってくるディフェンスの姿が視界に入る。

だがまだこちらの動きについてこられてはいない。


伸ばされた腕の下をくぐるように、低く、速く。


脇から寄ってくるディフェンスを置き去りに、正面に立ちふさがる相手をターンで躱す。


「シュートチェック!」


「打たせないで!」


マークが外れて距離ができたら、ブロックされる前に素早くシュートを打つ。


焦らないように体勢を崩さないことを意識。


「ブロックされないように注意して!」


「スティール警戒!」


ボールが相手に渡ったら全体を見て、甘いパスコースを見極めカット。

自分の場所が穴にならない用取れそうにないボールは手を出さないでぐっと我慢する。


「リバウンド取るよー!」


そしてシュートが外れた時はしっかりゴール下で待ち構えて、


「……っ」


大きく跳躍。


「ふっ!」


しっかりボールを掴んで、そのままシュート。


「左山さんすごーい!」


「ポンポンシュート入るし、ボールもさっきからずっと奪ってるもん!」 


「私こんなに運動できるって知らなかった」


外野の声がキャンキャンと耳に届く、だが今はそんなのに意識を割いている場合じゃない。


集中、集中。


逆転だけを考えてとにかく攻め気で点を取る。


研ぎ澄まされた思考の中、左山は怒涛の勢いでゴールを決めていった。


途中出場のおかげもあって体力の心配はない。


ただ全力で身体を動かす。


コートの端から端までを走り抜け。


ボールに飛びつき、追いかける。


立ち塞がる相手を抜き去ってゴールを決めた。


真中が起点となっていたが故、読みやすかったパターンも左山が大きく動いて翻弄することで全く別の攻め方が生まれる。


一辺倒の攻めではなくなったことでボールを奪われることが減り、点が入りやすくなる。


広がっていた点差はみるみるうちに縮まっていった。


「あ、ごめん!」


ボールがコートの外へと出てピー、と笛が鳴る。


ゲームが一時的に止まり、転がっていったボールを風見が拾いに行った。


「はぁっ、はぁっ」


身体の内側に溜まった熱が汗と共に全身から噴きだしているようだった。


体操服が胸元のあたりまで汗を吸って重たい。


だが久々に全力で運動している感じが左山に心地の良い充足感をもたらしている。


ぽたり、流れる汗を拭って左山は点数板をみた。


――これなら全然逆転できる


残り時間を加味してもこの調子でいけば勝てる。


身体の調子は良い。


相手チームは経験者が多く、かなり練習も積んでいるのか連携もなかなか。


だが突出して驚異的な人物はいない。


「じゃ、始めまーす」


審判役の生徒がボールを風見へと渡す。


コート外からのパス。


真中がボールを受け、走り出した。


――絶対勝つ


強い意志を瞳に灯して左山は真中よりも早く相手陣地へと駆ける。


「左山さん!」


パスを受け取り、ゴールへと向き直る。


「……!?」


瞬間、驚くべきものが目に入ってきた。


左山の行手を阻んだのは二人のディフェンス。


――二人マーク……!


決して進ませないという気合の入ったディフェンスにシュートはおろか、ドリブルすら出来ない。


「くっ、この」


上へ下へ、右は左へ掴んだボールを動かしてもピッタリと付き纏うように手を掲げてブロックの手を翳してくる。


軸足を動かさないようにしつつも身体を大きく使ってディフェンスの隙を作る。


――空いたっ


狭い穴をこじ開けるように二人の間の空間に身体を捻じ込んで突き進む。


「っ、やらせない!」


しかし、その行動も織り込み済みか。

左山の攻撃が身体で受け止められる。


突破できない。


――こうなったら


小刻みに動き、緩急をつけてのジャンプ。


やや後ろへ跳んでブロックを躱す。


「打たせない!」


「っぎ」


崩れた体勢でのシュート。


ふわりとボールはディフェンスの手を超えて高い放物線を描く。


――ちょっとズレた……っ


だがやはり苦しい姿勢でのシュート、ボールはリングの淵へとぶつかり、弾かれてしまった。


まぁ仕方ない。


大事なのは手数だ。

何回か外れたってそれ以上に点を取ればいいのだから。

そうして逆転して見せればきっと――。


だから次は絶対決める。

意思がエネルギーに変わるように手足に力がみなぎる。


ぐっ、ぐっと手を握って開いてを繰り返す。

握力も申し分ない。

これなら先のようによほど体勢が崩れない限りシュートが外れる気がしない。


「リバウンド!」


こちらの攻勢に焦ったのか相手チームのシュートも外れる。


これを火鳥がしっかりと跳んでキャッチ。


またこちらにボールがが渡ってきた。


「……っ」


こちらがオフェンスに切り替わった途端、相手マークが二人左山の元にぴたりと張り付く。


低く腰を落として、左山がしたい動きを塞ぐように圧を掛けてくる。


ボールを持っていない時でもこのプレッシャー。


気を抜けばすぐに封じ込められてしまいそうになる。


――負けないっ


ぐっと身体を押しのけて、マークを振りほどこうと走り回る。


視線をボールの持ち主から極力そらさないようベストのタイミングでパスを受けられるように。


マークを必死に振りほどく左山とべったり張り付く相手二人の攻防。


妙な小細工などない。


ただどちらがより動いたか、運動量の差で勝負は決まる。


左山は相手を振り切れなければ負け。


相手二人は左山の動きについてこられなくなったら負け。


バスケットはボールを持っていない時でもパスを受け取る為、または受け取らせないため激しく体力を使う。


そして勝負に勝ったのは左山だった。


キレのある緩急を駆使し、相手の反応がついてこれない速度でマークを見事に外した。


――よっし!


しぶとくまとわりついてきたディフェンスが身体の傍を離れたことに心の中でガッツポーズ。


限りなく集中状態の極まった左山のポテンシャルが二人分の人間の稼働量を凌駕した。


――さぁ、パスを……!


この勢いで先ほどのリベンジを決める、そう思ってボールの持ち主である風見へと手を構える。


誰にパスを出そうかと逡巡している風見が全体を見渡し、そしてその視線が左山に移り。


「真中!」


そしてすぐに真中へと向き直ってパスを出した。


「任せて!」


――え……?


今、左山は完全にフリーだった。


フリーな状況を作り出した。


見落とした? いや完全に目が合ったはずだ。


ならどうして。


思考する左山の視線の先で見事に真中がゴールを決める。


ディフェンスに戻りつつ、たまたまだろうと結論付けて気を引き締める。


しかし、それから三度、四度と同じことが起こった。


左山が懸命に動き、マークを外してフリーになっているのにボールは真中の下へ行ってしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


――なんで……?


肩で息をするほど、激しく消耗する最中。


何故自分にボールをくれないのかと不満が募る。


「ナイッシュー!」


また真中がゴールを決め、風見が声を掛けた。


パンパンと称えるように手を叩き、清々しい笑顔で……。


――あぁ、なるほど


その顔を見て、悟った。


なんてことはない。


二人マークが外れようがそんなことはどうでもいいのだ。


要はどちらにパスを出したいか。


信頼度の話。


もちろん状況によっては左山にパスをすることもあるだろう。


何が何でも、絶対にパスを出さないことはないと思う。


ただ、あえてパスをするならどちらかと問われれば仲のいい真中を選ぶというただそれだけの話だ。


加えて今は左山にはマークが二人ついている。


いくらその時はフリーでもボールが渡ればすぐディフェンスが追い付いてくる。


それを考えればこれまで攻撃の要を担っていた真中に任せるほうがよっぽど点が取れる。


そんなことを思っていたとして全く不思議じゃない。


――そうだ、がっかりすることなんてない。風見が私より真中にパスを出すのは今までの態度を考えれば妥当だよ。試合に参加する時だって微妙な雰囲気だしてたし……


自分がマークを二人引きつけていると考えれば最大限仕事を果たしている。


人数有利のまま攻めて守ってと良いことだらけ。


チームが勝てるなら、何を不満に思う必要があるか。


「ナイッシュ―」


「おっけ! おっけ! ナイスー!」


真中がシュートを決める度に声が飛び交う。


「真中こっち!」


左山が二人を請け負うことでフリーになる場所へとパスが回り、


「ゴール下ついた、シュートシュート!」


互いにカバーしあって連携しながらゴールを決める。


「……」


そうしている間も左山は幾度となくダッシュを繰り返し、マークの注意を引き続ける。


左山が汗を流し、二人を相手にオフェンスが終わるまで動き回って。


ゴールが決まった歓喜の声を追いかけるように陣地に戻る。


皆の表情を見れば、すでに相手チームのマークへ目をやっているかボールへと意識を向けている最中だった。


きっと先ほどの左山のように集中していて、見えてきた逆転の目に期待を膨らませているのだろう。


「…………」


そんなチームの盛り上がりから一人、外れた場所にいるような感覚。


点を決めたときの一体感など存在しない、寒々とした孤独感が熱さを増す身体とは逆に少しずつ大きくなっていく。


――なんか……


熱が冷めていく。


研ぎ澄まされていた感覚が解けて、急に周りの音が大きく感じられた。


結局いいプレイをしようが、点を取ろうが、印象がよくなるなんてことはない。


むしろ余計に溝を感じて自分が今していることの意味なんかを考えそうになる。


「ふぅ……」


ふと漏れた吐息は身体の中に籠った熱のせいか熱いような気がした。


二人マークを相手に常に動き続けるのには相当の体力を使う。


否、体力だけではない。


気持ちも……、闘うという闘志が必要だ。


むしろ左山にとっては後者の方が大事だった。


――やる気出す意味あるのかな……


昂った集中が忘れさせていた疲労がまるで魔法が溶けたみたいに身体を蝕み始めた。


チームは勝つかもしれない。


でもその結果は果たして左山にどんな意味をもたらしてくれるというのか。


半ばやけくそになってステップと切り返しでマークを振りほどく。


――こうして頑張ってフリーになったってどうせ……


それでも一応形だけはやる気があるようにやろう。


そんな失意に満ちた気持ちでボールの下へと視線を――。


「え」


反応できたのは多分、形だけでもボールを受け取る構えをしていたから。


驚愕する左山がまず感じたのは痛み。

それから、手のひらに感じるボールの肌触り。


「……ごめん、ちょっと強かった」


ぽそりと申し訳なさそうに石海が軽く手を挙げていた。


手が痛いのは衝撃を和らげることなく、ばちんともろにボールを受けたせいかだろう。


でもそんなことは殆ど気にならない。


もうこの試合中、パスはもらえないものだと思っていたのに。


思わずじっと石海の顔を凝視してしまう。


「来たよ!」


「抜かせないから……!」


そうしてる間に左山についていた二人が追いついてきた。


めっきりとボールが来なくなったと油断していたもののいざボールがくればその反応はかなりなものだった。


――呆けてる場合じゃなかった


我にかえり、ついでにディフェンス達にも向き直る。


視線を下げ、相手の足の動きを注視する。


右。


左。


フェイントを混ぜて、掻き回す。


すると先程と比べて二人の反応が緩慢なことに気づいた。


――動きが、鈍ってる。


ドリブルのリズムを急速に上げ、静から動へとギアを変える。


「「っ……!」」


そのギアチェンジについてこようとした二人。

しかし傍らを抜ける左山の動きを追えたのは首とその視線だけ。


その足はがくがくと震え、それでも抜かせまいと無理に動いた結果。


「え……」


驚くほど容易に二人の体勢が崩れる。


思いの外簡単に小さく声が漏れた。


二人抜いたことでゴールまでの道はガラ空きだ。


左山は呆然とした二人を抜き去って、ボールを放る。


ここ何分か、左山がひっそりと腐っていた間もディフェンス二人は左山の動きを警戒して常に緊張感を持ってマークし続けた。


左山も何度かムキになってマークを外そうと、全開で動いていた。


そのため、二人の身体は左山が想像以上に消耗してしまったということだろう。


悔しそうに左山を見つめる視線を浴びながら左山は一つ息を吐いた。


「ナイッシュー」


ゴールを決めると声が聞こえた。


見れば石海が親指を立てている。


神妙な顔つきのまま、しかしどこか誇らしげに。


そこはいつでもパスを受けられる位置。


左山からパスが来てもいいようにとサポートしてくれていたのがわかる。


「ナイスパス」


左山はふっと笑みを浮かべてそう返した。


もしかしたら石海はディフェンスが消耗してるのに気づいたのかもしれない。


それなら二人相手でも勝ち目があると。


そう判断したからパスをくれたのかも。


それでもそれは石海が左山を信用してくれたということに違いない。


今声をかわした時に感じたこの感覚。


――そうだ、今までずっと良いプレイを見せようとして夢中になってた


でも、そうじゃない。

良いプレイってのは全部一人で決めようとすることじゃない。


信頼してもらいたいなら、信頼しようと思えるプレイをしないと。


――まず、やるべきなのは

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