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魔法売りの少年  作者: 青い夕焼け
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十七話

食事を済ませ、プレゼント探しを続ける二人。


『もっと魔法売りっぽい普通ではないもの』という意識を念頭に様々な場所を練り歩く。


しかし探そうと思っても、そんな怪しいフレーズにぴったりなプレゼントというのは見つからなかった。


かろうじておもちゃ売り場で見つけた『占いセット』の布が良い感じに気味の悪い雰囲気を漂わせていたが、それ以外に目ぼしいものはない。


「何か、もう一つくらい」


魔法売りっぽいもの、魔法売りっぽいもの。

魔法売りっぽいものとは一体何か。


これといったものが見つからないまま時間だけが過ぎていく。


――今日はここらへんか


そう思い始めたとき、左山が声を上げた。


「ここ……」


左山が立ち止まってみていたのは、


「ペットショップ……?」


店の外観は白に統一されており、人が近づくたびに自動ドアが開く。


開いた扉の向こう側からは何匹もの鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「……そうだ、私ちょっと行ってくる!」


ハッ何か思いついたように扉の中へと入っていく左山。


――ペットショップに何かあるか?


魔法売りっぽいものとペットショップのイメージが結び付かない。


悲鳴が犬のようになるとか、舌が蛇のようになる異種には遭ったことがあるがあまり一般的に思い浮かぶものではないだろう。


とりあえず中へと入っていってしまった左山を追いかけて、桜火もペットショップの中へと入る。


自動ドアをくぐった瞬間、獣臭い独特の匂いが充満する空間が桜火を迎えた。


あちこちから動物たちの鳴き声。


まるで小さな動物園に入ったかのような気分で中を歩く。


どうやら動物ごとに色々と区画が分かれているらしく、入り口に近い場所にある鳥の区画からピーピーと甲高い鳴き声が目立つ。


「お、この鳥は」


九官鳥というのだったか、確かテレビで見たときはこの鳥に言葉を覚えさせる企画をやっていた。


大きな止まり木に掴まり、近くへやってきた桜火へと反応してぴょこぴょこと動いている。


これだけ接近できるならやってきた客の誰かが声真似を仕込んでいるかもしれない。


「何か鳴いてみろよ」


じっとこちらを見つめる九官鳥。


跳ねるように何度か止まり木から足を離し、軽い足音を鳴らして桜火の顔を見ている。


数秒見つめあい、九官鳥が口を開いた。


「ぴー、ぴゅういー」


あまり聞きなれない鳴き声がけたたましく響く。


「……」


「ぴー、ぴー、ぉぁぴー」


――なんか普通の鳴き声だな……


この九官鳥は特に言葉を話すわけではないようだ。

いや、もしくは上手く聞こえていないだけで実は誰かの物まねをしていた?


――わからねぇ、てかそれより


鳥エリアにはその九官鳥以外にも巨大な嘴を持った鳥や目に悪そうな派手な色の鳥などがいる。


正直九官鳥の声を聞こうにもそれらの鳥たちの声がうるさくて、それどころではない。


電柱に止まる鳩やカラスなんか目じゃない程に耳に響くその声に耐えかねて桜火は鳥区画を出た。


どうやらかなり色んな種類の動物のコーナーがあるらしく、想像以上に広い店のようだ。


天井からつるされたポップにその区画の動物の名前が書いてあり、どこへ行けばどの動物のコーナーがあるかがわかりやすくなっている。


――あれは


遠くに見えるのは水の入った飼育ケースだろうか。


どうやら魚の類も扱っているらしい。


桜火の知識にはペットにする魚と言えば金魚のイメージが強い。


昔金魚すくいの際に持って帰った金魚をしばらくの間育てていたこともある。


「ん?」


人工芝の敷かれたうさぎと触れ合えるコーナーの傍を通り、次に目に入ったのはおがくずが敷かれた飼育ケース。


「ハムスターか」


ハムスターはで回転する玩具の中で一心不乱に走っていた。


もちもちと丸く膨らんだ身体にしては機敏に動く。


カラカラカラカラと鳴り続ける音。


桜火は頭の中まで空っぽになったように、無心でその光景を見ていた。


五分、十分と時間が過ぎていく。


「遅いな」


ぼーっと時間を潰していてもなかなか左山が戻ってこない。


ハムスターも走り疲れたらしく、回転玩具から降りている。


「あいつ何やってんだ……?」


周りを見渡しても左山の姿はない。


気づかない間に外に出て、それで知らない間に入れ違いになってるとか。


――いや、入り口付近にずっといたんだ。入れ違いはないだろ……


あと他に何か。


例えば、例のゾンビ男に襲われていたら。


桜火が気づかない内に接近を許していたとしたら……。


「左山ー!」


そんな発想が頭をよぎり、左山を呼びながら奥の方へと進む。


ペットフードコーナーを通り過ぎ、犬の吠える声が耳に入ってくる。


ガラス張りの向こう側に小さなカプセルホテルのようになっているこのコーナーは犬と猫の合同コーナーだ。

ここに来た客は分けられた一室の中にいる動物たちを眺めることができる。


部屋の中を覗き込む客に興味津々の犬もいればタオルケットにくるまって顔すら向けない猫まで個性がある。


何匹か気性の荒い犬がいるようで覗き込む客に鋭く吠えている。


そしてそんな場所に立ちすくんでいる少女がいた。


「何やってんだよ」


「ひぅ! ……? あぁ、君か」


声を掛けるとびくりと怯えた声を上げた。


左山が向かおうとしている先にはレジ。


何か買おうとしていたのか。

見れば左山の手には銀色のパッケージに包まれたナニかが。


「何をそんなに怯えて……」


言いかける間にまた犬が吠える。


「っ!」


「犬、苦手なのか」


犬が吠える度に左山の身体がびくんと跳ねて動きが止まる。


「ちょっとだけ……」


ぎゅっと目を瞑り、弱々しくこぼす姿を見るとちょっと苦手どころではない気がするが。


――なるほど、ここを通らないとレジに行けないのか


「それ、よこせ。俺が会計してやるから」


「え?」


「そんなんじゃいつまで経っても帰れないだろ、ほら」


桜火は左山が手に持っていた袋を奪い、そのままレジへと向かう。


――焦って損した


慌てて走ってきたがまさか犬が怖くて動けなくなってるだなんて思わなかった。


良かったような拍子抜けしたようななんとも言えない気持ちで会計を済ませる。


「ん」


無事購入の済んだ袋を左山へと渡す。


「ありがと」


犬猫コーナーから離れた場所で待っていた左山は一言礼を言ってそれを受け取った。

まだ犬の声が聞こえるからか、警戒するように肩が少し上がっている。


「お前、ほんと学校でのイメージとは違うよな」


クラスでのあの態度を見てだれが犬が怖くて動けないと思うだろうか。


少しからかうように言うと、


「逆だよ」


不貞腐れた顔をしながら左山は言う。


「本当は臆病だから、周りにはそれを隠してるの。本当に強かったらあんな態度取る必要なかったし。弱いから、虚勢を張るくらいしか出来なかった」


弱音、ともまた違う。


そう呟く表情は苦々しく、桜火には左山がなぜそんな顔をするのかわからない。


ただ、複雑な感情が見え隠れしていることだけはその表情から伝わってきた。


「ところでそれ、何を買ったんだ?」


銀に包まれたパッケージは外見ではよくわからない英文がずらりと書かれていることしかわからない。


「トカゲ」


「……トカゲ?」


「そう。冷凍されたトカゲ」


思わず聞き返したが聞き間違いではないらしい。


冷凍されたトカゲとはあれか、ペットの餌なんかに使われてる奴。


「なんでまた」


「だってほら、不思議な薬とか液体ってトカゲとかトカゲのしっぽとか入ってそうでしょ?」


確かに童話やら物語やらでトカゲやそのしっぽは貴重な成分だったり、秘薬の材料として描かれるイメージがある。


「もしかしてそれで?」


「うん」


左山は堂々と頷いた。


「んー、でも魔法売りっぽいかと言われると」


やはり魔女の薬とかオカルトチックな方向に寄る気がする。


桜火が普段やっている活動としては少し離れる。


別に人に呪いはかけてないし、毒を盛ったりしてもない。


それに果たしてこれを送られていい反応が得られるか……。


「でもさ、これならインパクトはばっちりじゃない?」


インパクト……。


「私には魔法売りっぽさなんてわからないから、魔法使いとかそういうののイメージするとこれがぴったりだと思う」


言われると確かに説得力があるような、そんな気がする。

左山のいう通り、魔法売りっぽいものなんて端からわからない。

本人である桜火ですら魔法売りがどんなものなのかいまいちちゃんと把握していないのだから正解はない。


結局は依頼人が気に入るかどうか。


それなら誕生日プレゼントとしてインパクトの強いものを渡すのもありだ。


「そう、だな。これにするか」


いくら頭を捻ってもおそらく正解なんてない。


普通は喜ばないだろうと考えて無難なものを送るくらいなら、より普通じゃないものを送って笑い話にでもなった方が良い。


そうだ、今の今までどれだけ魔法売りっぽいものを探していたが無意識に良く見えるものを選んでいた。


プレゼントとしてちゃんとしたものを選ぼうとしていた。


魔法売りっぽい、普通の贈り物なんて矛盾している。


これくらい尖った贈り物の方がきっと良いのだ。


桜火が言うと、左山は少し顔をほころばせて口元に笑みを浮かべた。



「あれ、帰るんじゃないの? もう結構暗くなっちゃってるんじゃ」


エレベーターの前を通り過ぎた桜火に気づいた左山が指を差して言う。


「まだもう一個」


左山は首を傾げながらも先を歩く桜火の後をついていく。


やや歩いたのち、二人がやってきたのは、


「ゲームセンター?」


左山が不思議そうな声を上げた。


「どうせ外はもう暗くなってるし、多少遊んでいくぐらいいいだろ」


財布から取り出した百円玉をそのままUFOキャッチャーの台へと入れる。

ピロピロと音楽が鳴りだし、桜火は台の中の商品を狙ってアームの位置を調節していく。


「ダメか」


垂直に下がっていったアームはごろんと寝転んだぬいぐるみの足に触れ、少し持ち上げるだけに終わった。


「次、左山の番」


面倒だからと五百円玉を入れてUFOキャッチャーの横に回る。


「えっと」


いまだ困惑しているのか左山は固まったように動かない。


「もしかしてやったことないのか?」


「いや、一回だけやったことはある」


何に遠慮しているのかは桜火にはわからない。


「なら、ほら」


だがやりたそうにしていたのは見間違いではなかったと思う。


左山が桜火の声に促されるように一歩前へ出る。

ゆっくりと台の前に立ち、手の平と同じ大きさのボタンに手を置いた。


「じゃあ――」


それから左山が見事ぬいぐるみをゲットしたのは千円札3枚分の硬貨を使い切ったころだった。


「もう少し奥」、「足を押し込むようにしたら」とか互いにあーだこーだと言い合う。


微細なアームの調整、押し込むか引っ掛けるかの相談、それらを踏まえて試行回数を重ねる。


興味なんてないような素振りを取っていた左山も次第に熱中して。


ごろんと排出口に落ちたぬいぐるみを手にした時には二人で声を上げた。


妙な達成感を感じた瞬間だった。


「はー、やっと取れたな」


「……」


左山はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて余韻に浸っている。


満足感を感じながら帰ろうとしたところ、


「――ん?」


桜火はあることに気づいた。


「どうかした?」


そんな桜火の視線に気づいたのかぬいぐるみの柔らかさを堪能していた左山が尋ねる。


「あぁその――」


自覚はないのだろう。


ニコニコと緩んだ口元に、いつもより一つか二つ声のトーンが高い。


全身から満足そうなオーラを放つ左山の、その楽しそうな表情を見て。


桜火は言いかけた言葉を飲み込んだ。


「いや、気のせいだ」


言って、何事もなく歩き出す。

そう、何もない。なかったということにしておこう。


そのぬいぐるみに宿った変化に桜火は気づかなかった。


そういうことにしておこう。


器とは人の強い思いに反応して出来上がるもの。

それは長い時間持ち歩いたり、強い感情が籠ることによって出来上がる。


今まで桜火は手に持った器に対して何かを想うことはなかった。

強い感情の籠もったものといえどそれは所詮他人の感情。

自分には関係ない。


だから桜火は躊躇なく器を消費してきた。


器は異種を使う上では消耗品。


いちいち器に込められた感情まで気を遣っていては何もできない。


器はいつも不足しがちだ。


今日に至っては左山に協力を頼んでまで依頼を受けている。


どれだけ位の低い器でもないよりはマシ、集められるだけ集めて手元に置いておくほうがいい。


しかし、こうして喜んでいる左山からアレを取り上げる気は起きなかった。


そのぬいぐるみに籠もったであろう感情を察すればなおさら。


だから、桜火はそれを見て見ぬフリをする。


いつもの自分ではありえない選択。


帰路へと向かうなか、しかし不思議と心地よい感情が胸を満たしていた。

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