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魔法売りの少年  作者: 青い夕焼け
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一話


授業のチャイムが鳴った。


途端に教室には弛緩した空気が溢れる。

教卓の上の荷物を持って教師が出て行き、ざわざわと生徒達が口を開き始めた。


廊下側、後ろから二番目の席で天音桜火もまた皆と同じように身体を伸ばす。

授業開始後5分と経たないうちに居眠りをこいていた身ではあっても身体はしっかりと疲れを訴えている。

もちろん授業内容は頭に入っていない。

彼が授業中に学んでいるのはいかにして先生にバレないように睡眠をとるかどうかだ。


「駅のほうに新しくできた店がねーー」


「え! じゃあ今日行こうよー!」


眠気を吐き出すように大きく口を開けてあくびをしたところで、左の列の女子二人が何やらテンション高く話しているのが耳に入った。


「私この前バイト代入ったばっかだから余裕でおっけー」


「あれ、バイトって辞めたんじゃなかったっけ? セクハラ店長がウザいって」


「それなんだけどさー、例のやつに依頼してからあいつぱったりセクハラしてこなくなってー」 


「ほんとに? じゃああの噂マジもんなの? 私もなんか頼んでみよっかなー。紹介してよ」


「それがあたしなんも覚えてなくて」


「何それー、おばあちゃんじゃん!」


「でもあれから、【魔法売り】に依頼してから。ほんとに大人しくなったんだよね、あのクソ店長」


髪をポニーテールに括った女子の方が不思議そうに首を傾げた。


「ふーん。まぁいいや、とりあえず後で連絡方法教えてよ。詳しい話は店で聞くから」


「おっけー。twipperで見た感じめちゃめちゃいい感じだったから――――」


ーーうるせぇ……


きゃいきゃいと盛り上がっている声が寝起きの頭に響く。

気を抜けばまたくっついてしまいそうな目蓋を擦り、心の中で悪態を一つ。


「おい、放課後は練習することにしただろ!」


そんな女子達の会話へ割り込む声が一つ。


窓際最前列。


制服を着崩し、オレンジ色のシャツが胸元に覗く男子が立ち上がっていた。


彼の声音からほとばしる熱意が鬱陶しいほどに伝わってくる。


「えー、でもスポーツ大会って再来週じゃん」

「まだガチらなくてもさー」


対して、女子の方はあまり気乗りしない様子を見せる。

彼の言う練習とはつまりスポーツ大会へ向けての練習のことだ。


「他のクラスはもうとっくに練習始めてるんだぞ! そんなんじゃ勝てないだろ!」


熱い。

熱すぎる。

ぐっと胸元に握り拳を構えて話すその語り口調。

もはや熱いを通り越し、鬱陶しい。


しかし彼がここまでいうのにも一応訳がある。

再来週に行われるスポーツ大会。

その優勝クラスには何やらそこそこ豪華な景品が出ると担任の教師が言っていたのだ。


詳しい内容は伏せられているが景品、賞品という言葉に惹かれたクラスの連中はスポーツ大会までの期間中。

グループごとの種目にて練習しようという流れになった。


中には不満そうなものもいたが、そこはクラス内の悲しい序列。

明るく元気なクラスカースト上位の陽キャ達によって反対意見が出せるような空気は封じ込められてしまった。


「けど部活じゃないんだから……」


「毎日毎日練習なんて無理ゲー」


ところが今その陽キャ女子達によって改めて否定が入った。


少し間を置いた事で面倒になったのだろう。


そしてポチポチと携帯を弄っていた気の弱い男子女子達は思わぬ展開になったと、期待の目を陽キャ女子達に送っている。


「そこを頑張るからいいんじゃないか!」


熱血男子は引く様子を見せない。


「面倒くさくても何か用事があっても我慢して、クラスで勝利を掴む。不都合を乗り越えてこそ価値がある。障害はできない言い訳にするんじゃなく、一致団結の糧とするんだ!」


熱弁する男子。

それはクラスの為、皆、協力し合おうという一見良いことを言っている風に聞こえる。

だが、


ーー付き合わされる方はたまったもんじゃない


不都合を乗り越えてこそ、なんて言ってるが要するに耳聞こえの良い方便だ。

人の都合を強引にねじ曲げようとする言葉。

そんな言葉じゃ今どき誰も……。


「そっか!そうだよね!」

「ヤバ、何それ熱くね?」


思いっきり効いてた。


清々しいほどにキラキラした瞳を奴に向けてしまっている。


ーー君ら駅にできた店であんなに盛り上がってたじゃん


なんでそんなコロッと丸め込まれてしまうのか。

店はまた今度にしよっか、と先ほどまでの盛り上がりを置いてすっかり練習に前向きになっている陽キャ女子二人。

彼女らを希望の光として見つめていた気弱男女達はその態度を見てがくりと肩を落とした。


「そうさ、それこそ青春だ!」


ぐっと親指を立てて良い笑顔を決める男。


「……」


しかしその笑顔を見て苦笑いをするクラスメイト達がいることに彼は一向に気づかない。


クラス替えからはや三週間。

高校二年になった桜火のクラスではしばしば今のようなやりとりが行われてきた。


何かにつけては青春の名の下、クラスメイトに無茶をふっかけ、熱苦しい意見を振りかざす推子月陽太。


『みんなのため』この男が良く口にする理由の一つだが、一部めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていることに彼はそろそろ気づいても良いと思う。


それでも、これまで目立って不満を訴えるものはいなかった。


訴えられるはずもなかった。


そんな彼の肩を持つ、一人の女がいたから。


「決まりですね。では皆さんスポーツ大会優勝に向けて頑張りましょう」


霧神美優。

たった三週間足らずで既にクラス内にはこの女の意見に表立って反対するものはいない。


その整った容姿に加え、成績も上から10のうちには必ず名前が上がり、知人友人は数えるだけ面倒になるほどに多い。


人間、何かしら秀でた人間のもとには人が集まるものだが、この女のそれは学年、いや学校1といっていいだろう。


そんな人間の言うことに楯突く、逆らう。

学校内での居場所を自分から無くすような真似をするものはいない。


何が原因でハブられるか、目をつけられるかわからない。

もちろん霧神は露骨に誰かを標的に嫌がらせを行うようなことはしていないし、見たこともない。

だが、周りが。

霧神に歯向かう空気を良しとしなかった。


クラスの空気はこの女と推子月によって如何様にでも転がっていく。


ーーだが、俺には関係ない


ホームルームが終わるのと同時、素早く立ち上がり、目をつけられる前に教室を出るーー。


「ちょっとすみません」


失敗。


「天音くん。あなたバスケの種目でしたよね」


カバンを背負い、足早に教室を去ろうとする俺の背中へ声をかけてきたのはもちろん霧神。


「そうだけど?」


「これから体育館にいって練習ですよ?」


もちろんさっきの陽キャ女子一、ニの話は聞こえていた。


霧神が呼び止めた俺に対し、クラス中のあちこちから視線が注がれる。


そしてところどころで小さく肩を落とすものたちの気配が感じられた。


おそらく引き留められた桜火を見て放課後の練習から逃れることができないと悟ったからだろう。


今まさに肩にかけようとしたカバンの紐をゆっくりと机に下ろす音が聞こえた。


「バスケはチーム戦です。皆同じ目的に向かおうとする意識がないといけません」


霧神の口調はひどく丁寧だがその身にまとう雰囲気は決して反論など許さないような圧を感じさせる。


勝手に帰る事など許さない。


言外にそう言っているように聞こえる。


怜悧なその瞳は凛とした表情と相まって迫力がすごい。


その圧倒的なスペックを武器に他人の意見を思うがままにしてきたであろう霧神は当然俺が頷くと思っているだろう。


こんな地味な男子一人、一言咎めてしまえばあとは容易く言うことを聞くと。

目を伏せ、大人しく忠告に従うと。


「用事があるんだよ」


俺はそんな霧神の顔をじっと見返すようにして口を開く。


「用事?」


霧神は意外そうな顔をした。


俺はそんなに暇そうか?


何故そんな顔をするのか、さっぱりわからない。


「親戚の子を迎えに行かないといけなくて。今の時間に行けるのは俺しかいないから……」


このクラスの雰囲気は既になんの用事があろうとそれを言い出すことが憚られる空間が出来上がっている。


ちらりと視線を移せば、おいおいこいつ言っちまったよとでも言いたげにこちらを見ている眼鏡男子君や、自分だけずるいわと訴えかけるような視線を送ってくる女子達。


彼ら彼女らもおそらく桜火と気持ちは同じ。

放課後居残りして練習三昧なんて望んではいないのだろう。


しかひ口火を切って仕舞えば反感を買うかもしれない。

クラスの奴らは霧神や陽キャグループに目をつけられるのを恐れて、誰も何も言えない。


誰もが一目置く人気者へ意見することを嫌う。


「だから帰らないと」


だが桜火はそんなことお構いなしに断りの言葉を吐いた。

はっきりと、霧神に向かって告げた。


その整った目を見て言った。


クラスでの評判なんてどうでもいい。

放課後、訳の分からないスポーツ練習などさせられるのは本意ではない。


おまけにスポーツ大会まで放課後拘束され続けるのなんてまっぴらごめんだ。


ちなみに用事なんてものは存在しておらず、できる予定もない。


親戚が来る予定はないし、なんなら親戚なんて顔もよく覚えていない。


ーーさっさと帰って寝たいんだよ俺は


開いた目蓋がその端正な顔立ちを映さなくなるのも時間の問題だ。


昨日起きた諸事情により身体の疲労が抜け切っていないため、気持ちとしてはすぐにでも横になりたかった。


「そうですか、親戚の子が。それは困りましたね」


ふむと考える仕草を取る霧神。

その一つの動作をとってしても実に様になっている。


「今はお友達も忙しいですし、お頼みできる方がいらっしゃいません……」


ひどく残念そうに霧神はそう言った。

察するに俺のついた嘘を真に受けた上でなんとかしようと考えているらしい。


そして何か閃いたように顔を上げ、


「そうですね、なら私が代わりにその親戚のお子さんを向かいに行きましょう」


当然のように、意味の分からないことを喋った。


「え、いや」


「ですので天音君は安心してバスケの練習に励んでください。後は場所さえ教えていただければすぐに行ってまいりますので」


思わず動揺して口ごもってしまった俺に畳みかけるように提案を持ちかける霧神。

否、それは提案ではなく彼女にとって既に決定事項のように話が進んでいる。


「いや、そんなことして貰わなくたって俺が行けばいいだけの話だから」


この女は一体何を言っているのだろうか。

何故他人の親戚を迎えに行くという発想になる。


「ですがそうすればすべて解決するではないですか」


「それだと霧神が練習に出られないだろ」


全員参加という目的を達成するならまずそこに矛盾が発生している。


「私はタクシーを使いますので、学校まで往復すれば私もしっかり参加できますよ」


おもわず口が空きそうになるのをぐっとこらえる。


言っている内容は理解できる。

別に唐突に日本語以外の言語でしゃべりはじめたわけではない。


ただ、こいつがそこまでする理由がまるでわからない。


なぜそんな考えになるのかも。


普通、赤の他人の為にタクシーを使ってまで人を迎えにいこうとはしない。

金がかかるし、何よりそんな面倒なことしようとは思わない。


そして何よりそれを当たり前のように言ってくることがも

う怖い。


不気味ですらある。


「それが――――」


とにかく黙っていてはこのまま勢いで押し切られてしまいそうだ。


桜火は正気ではないことをのたまう霧神にむけて根本的な見落としを口にした。


「……それですと、時間までに学校に帰ってこられませんね」


親戚がやってくるのはとなりの県であると説明するとはさすがに今の話は実行できないと諦めた声を出した。


元々用事なんて存在しない以上、いくらでも言い逃れはできる。


――――でもあんまりうかつなこと言えねぇな、これ


この常軌を逸した考え方の持ち主であれば何が墓穴を掘る結果になるかわからない。


ただ、さすがにこれ以上はどうにもできないらしく。

霧神はほとほと参ったというような表情を浮かべる。


「放課後皆さんで練習するというのが陽太君のお願いでしたが……、私には天音くんの用事をなんとかする方法がないです」


ほう、と色っぽくため息を零す霧神。

今男子数人が顔を赤らめるのが視界に入った。


ーーちょろい奴らだな……


だが気持ちは分からなくもない、というのが男子としての悲しい性か。


「ところで天音くん。【魔法売り】の噂って知ってますか?」


「まぁ一応……」


力なく頭を振った後、顔を上げた霧神は唐突にそんなことを言ってきた。


魔法売り。 

今この学校で流行りの都市伝説のようなもの。


その人物に悩みや願い、望みを語り、依頼するとまるで魔法のように叶えてくれるという。


「お友達が教えてくれたんですけど、なんでも、どんなお願いでも聞いてくれるらしいんです」


怪しい光を目に灯して霧神は語る。


「どんなお願いでも、ですよ? 一体どんな方法で叶えるのでしょうか。私あまりオカルト系の話には詳しくないのですが、お友達の中に実際に魔法売りに依頼をしたという方がいらっしゃいまして」


霧神の友達は実際に願いが叶ったのだという。


「私、とても羨ましいです」


「何か欲しいものでもあるのか?」


こんなにハイスペックお嬢さんでもできないことがあるなら世界はよっぽど厳しくできている。


お金に困っているようには見えないし、学校生活もその辺の学生よりかははるかに充実しているように見える。


今はいないようだが、恋人だってその気になればカップ麺を作るより早く作れるだろう。


だが彼女から返ってきた答えはそうではなかった。


「だってそんな不思議な力があれば、私はきっと天音くんの用事を代わりに手伝った上で、クラスの皆さんとも一緒に練習することができたでしょうから」


しかし今の現状では推子月か桜火、どちらの願いも叶えることができない。


だから彼女は羨ましいと零す。


ーーなんなんだこいつ……


その瞳があまりにも純粋な輝きに溢れてていて、思わずゾッとする。


先程から彼女の言動には違和感がある。

やたら他人の望みを叶えることに執着しているような、そんな気がする。

今、出まかせで口にした理由とは別のことを喋っていれば。


そしてそれが彼女に可能な事だったのであれば、彼女は自分の不利益など度外視して、望みを叶えようとしてくるのではないか。


桜火にはそこまで他人のために行動する霧神がひどく不気味に見えた。


「所詮噂だろ。なんでも願いを叶えてくれるなんて、そんなバカな話あるわけない」


「どうでしょうね」


ふふ、と艶やかに笑みを浮かべた霧神がひらりと制服を翻す。


「では皆さん、準備のできた人から順に種目ごとに分かれましょう。先生にお願いして体育館の一部を使わせていただくことができましたので、交代しながらなら練習できると思います」


クラス内に浸透するように霧神の声が響く。


「よし、みんな頑張るぞ!」


その声を合図に皆ガタガタと椅子から立ち上がり始め、推子月を先頭にざわざわと教室を出て行く。


「目指せ全勝ねー!」

「やるぞー!」


陽キャ男女らはやる気に満ち溢れた様子で声を上げ、体育館へと歩いていった。


その華やかな集団に遅れること数歩、気怠そうに教室を後にする集団が一つ、二つ。

とぼとぼと背中に背負ったリュックやら肩に掛けた鞄やら重そうに見えた。


「自分だけ……」

「俺だって今日はーー」

「なんなのあいつ」


数人、露骨にこちらに向けて怨嗟の声を吐いていくものがいたが聞かなかったことにする。


ーーどう考えてもそれを言う相手間違ってるだろ……


不満があるなら、気に入らないというのならその気持ちは桜火ではなく、この練習を強制させているあの熱血野郎にぶつけるべきだ。


「それでは、天音くん。明日は一緒に練習に出てくださいね?」


と、そのまま教室を後にしようとした霧神がある人物を見てその動きを止めた。


綺麗な金に染められた髪をなびかせてつかつかと教室を出ようとしている人物。

その背にはぬいぐるみやキーホルダーのぶら下がったリュック。

皆が思い思いに体育館に向かう中、明らかに帰ろうとしていた。


「左山さん、あなたも練習にーー」


霧神が呼び止めるも一瞥くれることもなく彼女は下駄箱への方へと向かっていった。


「なかなかお話を聞いてもらえませんね……」


霧神はそう言って一言嘆いた後、体育館へと駆けていった。


誰も居なくなった教室でふぅと一息吐いて、桜火は改めてカバンを背負い直す。


ーー俺以外にも居たのか


あの金髪の女生徒。


彼女のことはいまだほとんどのクラスメイトの名前を覚えていない桜火であっても知っている。


我がクラス内でも一際特異な存在。

左山花音。


一言で言えば不良。


一年の頃からほとばしるそのオーラで周りの人間を寄せ付けず、近づくものは全て敵だと言わんばかりの威圧感をもってして孤高の存在となった。


授業に遅刻してくることもままあり、比較的落ち着いた校風の我が校の中では珍しい存在である。


そんな彼女にとっては、クラス行事に参加しないことで周りになんと言われようが、クラスでハブられようが、意に介さないのだろう。


ーーの言葉を無視して一人帰ってしまったあの態度から見ても何とも思っていなさそうだ。


何はともあれ、周囲の評判を犠牲にしてまで掴み取った放課後の時間。


ーーさっさと帰ろう


教室を出て、廊下へ出ると他のクラスもホームルームが終わったらしく、ざわざわと賑やかな声が教室から漏れ出ていた。

ポツポツと廊下を歩く生徒たちは当然ながら皆家へ帰るのだろう。

どこのクラスでも放課後残って練習するなんて声や気配は感じられない。


ーーま、これが普通だよなぁ


そうして人の塊の中を縫いながら下駄箱へ向かう。


歩きながら桜火はさっきの霧神とのやりとりを思い返す。


ーーなんでも願いを、ね


そんな都合の良い話、あればどれだけいいか。


しかし魔法売り……、霧神の口からその言葉を聞くとは思っていなかった。


ーー確か友達が依頼したとか言ってたよな


誰とは聞かなかったし、霧神はその交友関係も広いから一概には言えないが、


「おまえ知ってる? あの魔法売りのーー」

「明美が魔法売りの連絡先ゲットしたって!」

「だったら数学の松谷のこと呪ってもらおうぜーー」


どうやら相当に流行っているらしい。

意識して聞けばあちこちで魔法売りな話をしている声が聞こえる。


ーー随分しょぼい願いばっかだな


聞こえてくる声はどれも、実際に願いが叶えてもらえるのかどうかということに興味があるだけの流行りにのりたいだけのものたちばかり。


ーーくだらない。


そんなことを思いながら下駄箱から靴を取り出したところでーー。


ピロン、と電子音が響いた。


ポケットに入れた携帯を取り出し、新しく表示された通知の内容を見る。


「タイミング悪りぃ……」


嘘から出た真とでも言うべきか。


それは帰宅中止を告げるメッセージ。


本当に用事ができてしまうとは。


「はぁ」


気怠く肩を落とす桜火は今取り出したばかりの靴を下駄箱へと戻し、再び上履きを履いて元来た廊下を戻った。

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