第4話 「千里の道も一歩から」
魔法使いエミーの召喚魔法で現代の日本から転送されてしまった私は、冒険者パーティー「シグマ」の一員として狼討伐の大規模な依頼を受けることになった、余りにも貧弱な装備を指摘されて買い物を済ませたが、旅の支度はまだだったので、翌日買い出しに出ることになったのだが…
さて、ボルグから冒険者カードを受け取った私は当面必要になるであろう物品をメモに手早く書き纒てボルグに渡すとその日はさっさと就寝した。
翌日、早朝から「シグマ」の面々は1階の酒場に集合しそれぞれのメモから共用として使用する消耗品とそれぞれが個別に使う「専用道具」と振り分け、共用アイテムに関してはマルクが纏めて購入し、専用道具をそれぞれが店で購入するという流れになった。
大方の方針が決まったところで朝食をとり、酒場を出発して買い出しに行く、そうして各々買い物を済ませた後は昼過ぎ頃、酒場に戻り、出発の準備とそれまで寝泊まりしていた自室の片づけを始める、私は……元々そこまで大きな荷物を持っていたわけでは無いので誰よりも早く準備を終えて1階の酒場で休憩をしていた、しばらくしているとエミーが2階から降りてきて、途中でカウンターで軽食と飲み物を頼む私の姿を見ると私が座っていた隣の席に着く
エミーはカウンターの奥にいるマスターに向かい「親父さん、いつものぶどう酒お願いね」そう言って注文をすると、マスターは慣れた手つきで木製のジョッキにぶどう酒を注ぎ、エミーの前に出した、それを一口飲んだ後、少し間をおいてエミーが改めて謝罪の言葉を述べる
「ごめんなさいね、うちのパーティーの我儘でこんなことになってしまって、本当は元の世界に返してあげたいところなんだけど、あいにく元の世界へ転移させる魔法は覚えてなくて……いえ、仮に覚えていたとしても、帰すための転移魔法には呼び寄せる魔法よりも膨大な魔力を消費する、それこそ大規模な儀式魔法になるから私ではとても出来ないのよ、しかもそれが成功するとは限らない……おかしいでしょ? 同じように成功するかどうかもわからない召喚魔法の時には貴重な魔法石まで使って足りない魔力を補ったのに、元の世界へ帰す転移魔法の時にはためらうなんてね。 」
そう言ってエミーはすまなそうな顔をしている、普段はあっけらかんとして明るく振舞っていたので少々意外だった、しかし私は別にそこまで深刻に考えてはいなかった
「ああ、その事でしたか……実のところ、帰りたい気持ちも最初はありましたが、まあ元の世界へ帰っても会社にその席が残っているか怪しかったですし、それならいっそこの世界を楽しもうかなあ、と思いまして……そういう訳ですからエミーさんがそのように気負う必要はありませんよ? 」
その言葉に「本当に?」と聞き返すエミー
私は本心からこの世界を楽しもうと前向きに考えていたので
「ええ、本当ですとも、幸いなことに言語に関しては早くから理解することが出来ましたので、宿が取れずに野垂れ死ぬことが無くなったっというのも大きのですがね。」
そう言って私は自分のジョッキを前に出し
「そういう訳で、これからもよろしくお願いしますよ、大魔法使いのエミーさん」
その言葉にエミーは一瞬驚いた顔をしていたが、やがてクスクスと笑いながら
「なぁに? その言い方、……フフフッ、まあこの大魔法使いの私にドーンと任せなさい! 」
そう言って互いのジョッキをコツンと合わせ、お互いに笑う。
そうこうしているうちに準備を済ませたマルクやボルグも酒場にやってきて、出発前の宴会となった。
そして、翌日早朝
宿のチェックアウトを済ませると私達は町の出入り口へ向かい、開門に合わせて宿場町を出発した
目的の宿場町までは急げば2日でつくらしいが、そこまで焦る事も無いので普通の速度で街道を歩いていた、移動中はボルグが過去の【人魔大戦】について話してくれた、それによると
かつてこの世界は魔王を頂点とする魔王軍が圧倒的な魔力と兵力で各国に侵攻し支配していたのだが、各国の王は辺境に追いやられつつも『連合軍』を率いて抵抗をしていた、だが、南方の小王国、メイ・アンガー王国にまで追い詰められた時、神から遣わされたといわれる【唯一無二の勇者】と呼ばれる女性と彼女に従う仲間たちが現れ、王都付近に潜んでいた魔王軍の斥候部隊を瞬く間に壊滅させると、連合軍の首脳陣はすぐさま彼女を呼び寄せ、全軍の指揮権を彼女に与えると彼女は冒険者ギルドから登録されていた百余名の勇者たちや生き残っていた歴戦の傭兵団と共に連合軍を再編成し、人類最後の砦である『メイ・アンガー王国』の首都周辺で数度の防衛戦に勝利し、体勢を立て直した連合軍の反攻作戦が始まったという、その後の戦いで消耗しつつも戦いに勝利し各国を魔王軍の支配から解放、最終的に【唯一無二の勇者】レベッカ・ローゼンブルグが魔王を倒して戦争は人類の勝利で終わったという事だそうだ、ボルグとマルク、そしてエミー達は元々【シグマ遊撃隊】という傭兵部隊に所属していて、数度にわたった【メイ・アンガー王国防衛戦】にも参加していたという事なんだそうだ。
「俺はマルクと他の戦士たちと一緒に前線で敵に打撃を加えつつ本隊の中央突破を援護する戦いに参加していたんだ、エミーは後方で他の魔法使い達を率いて攻撃魔法を撃ちだして側面を攻撃していたな。」
そう言うボルグに
「懐かしいな…苦しい戦いだったが、あの戦いで勝利したからこそ、今の俺たちが有る訳だ。」
と頷くマルクにエミーも同意する
「まあねー、でも部隊長が敵の攻撃で膝に重傷を負っちゃってその後は副隊長が指揮していたんだけどね、戦争には勝ったけど、副隊長も引退しちゃって結局傭兵部隊は解散しちゃったんだよねえ~」
そして「シグマ」という冒険者パーティーの結成の話になったとき、空気がおかしくなる
「かつての栄光に思いをはせて……とか言ってボルグがリーダになって【シグマ】を立ち上げたんだよね、最初はメンバーも結構多かったんだけど……ボルグのやつがとにかく融通が利かなくって……ねえ、マルク? 」
とエミーが愚痴をこぼし始める、するとマルクも
「ああ、とにかくやたらと『優美な戦い方』にこだわったせいで新規で入ってきた連中ともかなり揉めちまってな、リーダーのやり方についていけないって言われて大抵半年も経たずに辞めちまうんだ、それに加えて古参の連中もボルグと折り合いが悪くて……で最終的にこういうありさまになったわけだ。」
と追い打ちをかける、この事にボルグも黙ってはいられない
「そう言うお前らだって随分勝手なことをして周りの迷惑になっていたんだぞ? マルクは俺の指示を無視して突撃しだすし、エミーも大して強くも無いモンスター相手に大魔法をぶっ放して周囲に被害を拡大させてるじゃないか、そういうのはどうなんだ?」
と反論する
「俺は別に無暗に突っ込んではいない、状況を把握したうえで突撃をしているだけだ」
とマルク
「私だって、最初は確かに加減が解らなかったって言うか、派手な魔法でアピールした方がうちの宣伝になると思ったからよ、今はそれほど周りに迷惑かけてないでしょ? そう言うボルグはこっちがいくら言っても「俺はこういうやり方で勇者という名誉ある職業をアピールしているんだ」とか言って馬鹿みたいに暴れるじゃない! リーダーがそんな猪みたいに突っ込んでいってどうするのよ!」
とエミーも反論する
……あれ? これはまずいのではないか? 出発前にも口論があったがその時は何とか収まっていたが、今日に限って何故こじれる?
始めは昔話に花を咲かせてのんびり移動、となる筈が……ふと気が付けば一触即発の状態である、いかん、なんとかしなくては……私は元居た世界での人間関係のいざこざが有ったときの対処法を思い出し、
「あの、皆さんがおっしゃることも解ります、召喚された身である私は過去に何かあったのは知りませんでしたけど、どういった経緯であれ今はこうやってまた一つの目標に向かい【団結】をしているじゃないですか……それに、やり方に多少行き過ぎたことが有ったにせよ、それぞれが【シグマ】の為に力を出し合う……私は大変素晴らしいことだと思いますが 」
と私が発言すると
「う、ま……まあ、たしかアンドウの言う通り昔は色々あったけど、マルクやボルグのおかげで命拾いしたことも有ったわけだし? 多少は、感謝しているわよ? 」
とエミーが私の意見に同意してくれた、マルクも
「ああ、確かにそうだな、ボルグが居なかったら俺も防衛戦で敵の攻撃で命を落としていたかもしれん」
そう言うとマルクは何故か遠い眼をして明後日の方を向いている……なにか思うところが有ったらしい
「お、おお……まあそのなんだ、俺も、エミーやマルクのおかげでこのパーティーが解散しないで済んでいるからな、その点については感謝しかないわけだが、その……皆、これからもよろしくな? 」
とボルグがしどろもどろになりながらも二人に告げると
「なによ、水臭いじゃない……そんなの、協力するに決まってるでしょ」とエミー
「ああ、仲間に入れてくれた恩を忘れはしない、命ある限り共に戦うぞ」とマルク
「ありがとう、皆、よし! 皆で今度の依頼を絶対に成功させるぞ!」
というボルグの掛け声に
「「おーーっ‼ 」」
という掛け声とともに拳を上げて答える二人、ああよかった……どうやらパーティーが崩壊する危機は回避できたようだ、そうこうしているうちに旅は順調に進んでいく。
「よし、ここを今日のキャンプ地とする!」
そう言ってボルグは荷物をおろした。
決意を新たにしたところで、ようやく1日目の野営地点に着いたようだ、皆それぞれテントの設営やかまどの準備などをしている、私も荷物袋から胃薬と食料を取り出して調理に取り掛かった、それにしても驚いたのは、ここの世界は大戦の戦後、しかも終戦からそこまで時間は断っていないにもかかわらず、周辺にはそのような戦争の爪痕は見られないという所だ、以前、戦後処理が追い付いていない為、復興の手が回らない場所が多いと聞いていたのだが、恐らくここの統治をしている領主がかなり優秀なのだろう、お陰でこのようにのんびりとした旅ができる……と、そうこうしているうちに調理が済んだので携帯型の食器に料理を盛り付けて設営を終わらせたエミー達に手渡す、食事をしながら明日の段取りを話し、早めに寝ることになった、私の見張りの番はボルグと一緒になるようだ、熟睡できるかは不安だがまだ慣れない寝袋に収まり就寝する、旅はまだ始まったばかりだ。
アンドウの常備薬である胃薬は割と大量に鞄に収められているので早々切らす事は無い……と思う。