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第2話 「言うは易く行うは難し」

 異世界【ファンタジア】の冒険者パーティー「シグマ」、そのパーティーメンバーである魔法使いエミーの【ランダムサモンテレポート】によって突然召喚されてしまった中年サラリーマン安藤幹夫(アンドウミキオ)は持っていた小型翻訳機のおかげでなんとか意思疎通を果たし、冒険者パーティーに加えてもらえることになった、そしてこの世界の言語を理解し習得するためにエミーに読み書きを教わることに、最初は単語を理解するのも一苦労であったが、持ち前の前向きな精神で僅か2週間で翻訳機を介さずに会話することが出来た、現在彼らは宿場町にある酒場を拠点にしていた、酒場ではあるが昼間という事もあり客は少なく、酔っぱらいに絡まれる心配も無かった。

「いやーアンドウって凄いね、まさかこんな短期間で会話を習得するなんて」

 魔法使いのエミーはそう言って感心しているが、正直教え方が上手だからと思う、教師の中には難解な言葉を繰り出して悦に入り生徒を困惑させるだけの困った存在もいるからだ。昔、知り合いが学生の頃に教師が説明の時に繰り出す難解な単語を理解するのに苦労したと話していたことを思い出した。


「いえいえ、これも指導して下さる教師が優秀だからですよ、非常に丁寧でわかりやすいので、助かりました。」

 魔術学院を首席で卒業したというエミーの実力は確かで、アンドウが理解しづらい文章を解りやすく解説してくれていた為、予想以上に習得が早かったのだ、世の中には覚えるのは得意でも教えることは上手くない、という事はよくあるが彼女は自分なりに吸収し、そしてどうやったら解りやすく伝えられるかという事をキチンと理解しているようだ、これは確かに一種の「才能」と言えるだろう。


「もう、おだてたって何も出ませんよ」そう言って照れるエミー

「いえいえ、本当のことですから……ところでこの文章なんですが、書き方はこれであってますか? 」

そう言ってアンドウが紙に書いた文章をエミーに見せる、この世界の文字はアルファベットを変形させたような文字で、パターンさえ覚えれば読み書きはさほど苦労しなかった、まあ、小文字や独特の言い回しなどはまだ難しいのだが。

「うん、大体コレであっているよ、でもこの単語は此処にもっていくと、もっと読みやすくなるかな」

そう言ってサラサラとアンドウが書いた文章に添削を加えるエミー、そして終わるとそれをアンドウに手渡す

「はい、書式も大体あっているから、後はこれを練習すれば書き取りの方も大丈夫だよアンドウ!」

「本当ですか? いやーよかったー、これで宿屋にマトモに泊れそうだ! 」

私の言葉にエミーがクスクスと笑う

「これなら宿屋だけじゃなくて、冒険者ギルドへの交渉だって大丈夫よ、文字だって丁寧に書いてあるしアンドウの話かたは好感が持てるもの」

「そう、ですか? まあ其れなら一安心ですね」

「さてとボルグ、後は任せたわよ」

エミーの言葉にボルグも「ああ、了解した」と答える

「ありがとうございましたエミーさん……では改めてボルグさん、よろしくお願いします」

そういってボルグに話しかけるアンドウ、そう、今度は戦闘を学ばなければならないのだ、残念だが今の状態では最弱のコボルトにすら勝てないという、まあ町の外に出て速攻で野垂れ死にたくは無いので鍛えるが。


「よし、アンドウそれじゃあ基礎体力作りから始めようか、体力が無ければいくら剣の技術があってもまともに戦えないからな……まずは腕立て伏せを軽く50回くらいやってみようか?」

とその言葉に動揺するアンドウ

「え? 50回も……ですか? 実は私恥ずかしながら前の世界ではまともに運動をしたことが無いもので……多分、10回も難しいと思うんですが」

とアンドウが返すと

「何、そうなのか? うーんしかし、比較的軽いショートソードでも、ある程度の筋力は必要だからなあ…… 」

そういって悩むボルグにエミーが

「だったら短剣を扱えるぐらいから訓練を始めたらいいんじゃない? 私だってそれぐらいの重さなら戦えるもの」

という意見にボルグは賛同する

「なるほど、よし、じゃあ腕立て伏せは出来る回数から始めよう、慣れてきたら少しづつ回数を増やしていく……と、ここじゃあ邪魔になるな、裏庭を使えるように頼んでおくからそこに案内を頼む、エミー」

「了解、アンドウこっちに行きましょう」

そう言ってエミーはアンドウを誘導する

「はあ、では先に行きますね」

アンドウはボルグに伝えると

「おう、逃げるなよ?」と言って意地悪く微笑むボルグにアンドウは

「逃げませんよ、こっちは生活が懸かってるんですから」と返して裏庭に向かうエミーとアンドウだった


― 訓練は思った以上にきつかった ―

 裏庭に到着し、早速訓練が開始される、先ずは先程ボルグが言っていた腕立て伏せから始める……が、これが思った以上にキツイ。


「5‥‥6‥‥7‥‥8‥‥ウウッ、腕が……」

裏庭で腕をプルプルと振るわせながら腕立て伏せをするアンドウ、まだ始まったばかりなのに限界を迎えそうな状態に、ボルグは

「大丈夫! まだいける! 形を崩さずにしっかり行うんだ! 」と体育会系の檄を飛ばす

傍らではエミーが何処からかティーセットを取り出して優雅にお茶を飲んでいた

「頑張れー! 大丈夫、アンドウなら出来るよ! 」と応援してくれるのだが、気合でどうこうなるハズも無く


「‥‥9‥‥10‥‥11‥‥グハッ!」

とあっさり倒れてしまったアンドウ、息も絶え絶えである


「ふむ、まあ初日はこんなもんか、じゃあ今日はここまでにしよう、アンドウ息を整えたら汗を拭いて、後で酒場で飲み物を呑むといい、代金は俺が先に払っておいたから」


そういってエミーに

「エミーはアンドウを連れて酒場で待機していてくれ」と、その時

「……俺も手伝おう、アンドウ肩を貸せ」と、いつの間にか裏庭で見ていた戦士のマルクがアンドウに肩を貸して立ち上がらせた

「ああ、あなたはマルクさんですね、スイマセン、情けない姿を見せてしまって……」

そういうアンドウだが、マルクは

「うん? 別に情けなくは無いぞ、むしろ初心者にしてはよくやった方だ、誰だって初めから上手く行く奴なんて居ない、それと汗ぐらいは自分で拭いてくれ」とタオルのような布を渡すマルク

「ああ、これはありがとうございます……よし、マルクさん、エミーさん行きましょうか」

「はいはーい、じゃあ私は先に酒場に行っているから、マルク後は頼んだからね? 」

「任せろ」

そう言うや否や、ヒョイとアンドウを持ち上げてお姫様抱っこをするマルク、そしてそのままマルクはアンドウを酒場に連れて行った

「あ、あのー、非常に楽で助かりますが……流石に恥ずかしいので歩かせてください…… 」

しかしアンドウの要求は見事に無視され、マルクにお姫様抱っこをされたまま酒場に入ったため、エミーとボルグに笑われてしまった……


こうして恥ずかしい訓練初日を終えたアンドウであったが、地道な訓練の成果は着実に肉体を鍛え上げ、短剣を自在に振り回すだけの体力を1ヶ月という期間で得ることが出来た、あとは実践あるのみである

「いよいよ、私も冒険者としてデビューですか、楽しみですね……」

という独り言を聞かれたかは不明だが、ボルグが一言

「あ、アンドウも装備を買うから一緒に来てくれ、その防具じゃチョットの攻撃でも深手を負ってしまうしな。」

「え、あ、はい…… 」


――先はまだまだ長そうである


依頼をこなすのはまだまだ先になりそうです…

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