第1話 「玄関開けたら2分で異世界」
現在並行して書いている「魔王、あります -冒険者酒場「竜の遠吠え亭」の賑やかな日々-」のスピンオフ作品です、どうぞ末永くお付き合い、よろしくお願いいたします。
私の名前は安藤幹夫ごく平均的な家庭に生まれ普通の会社に就職、結婚こそしなかったが…それなりに順調な人生を38年も過ごしてきた、だがある日、いつものように黒いスーツに着替え、仕事道具を鞄に収めて会社に出社しようと玄関を出た筈…なのに、不意に強烈なめまいを覚え倒れてしまった、急に自分の身体が軽くなったような感覚、そして風の音、次第に覚醒していく意識と共に目を開ける……夜なのか辺りは暗く、見知らぬ人たちが私の周りでなにやら騒いでいた。
「ここは? あのすみません……一体、此処はどこなんでしょう?」私は近くにいた男に話しかけた、しかし
「*****? **********、******、******?」
なにか私に話しかけてくれているようだが、何を言っているのかサッパリ理解できなかった、ひょっとして、自分は外国の犯罪に巻き込まれて拉致されたのか?
そう考えるが、しかしその様な結果につながる出来事を経験した記憶が一切無い、だが事実として私は異国の見知らぬ土地に来てしまっている。
(あ、そういえば……)
と、鞄の中に海外旅行の為に購入しておいた小型翻訳機が有った事を思い出し、それを取り出す、幸い電源も生きていてバッテリーの残量も満タンだったが、起動させたところで此処が英語圏なのかそれともフランス語やドイツ語圏なのかわからないことに気づく、そこで改めて周りを見渡してみる、自分の足元には至って普通の地面、奥には焚火、そして自分のすぐ傍には若い男性と女性、その後ろの奥の方には大柄な男性が見えた。
(なにか、手掛かりになるようなものは……)
若い男性と女性はなにやら話している……というより口論をしているように見えた、だが、肝心の言語が解らない。
そこで改めて男性の服装を見てみる……ふむ、若い男性はファンタジー映画に出てくるような上半身を甲冑で覆い、下半身は頑丈な膝当てと金属製のブーツ、背中には大きめの盾を背負っていた、兜は被っておらず白い肌に金髪、目の色は黒に見える。
(そしてこっちの女性は……魔女……か?)
一方の女性は先程の男性と同様ファンタジー映画に出て来そうな、つばの広いとんがり帽子に黒を基調とした露出が高めのドレス、そして手には水晶玉がはめ込まれた木の杖を持ち、靴は革製でヒールが低めの女性用の靴を履いていた、そして奥に居た大柄な男は兜こそ被っていないが重厚な全身鎧を身に纏い、背中にはこれまた大きな戦斧の様なものを背負っていた……
ひとしきり観察を終え、見たところ中世のヨーロッパに近いのではないかと推察、とりあえず翻訳機にフランス語の翻訳設定をして、再び話しかけてみることにした。
「あの、お取込みのところ申し訳ないのですが、ここは一体どこなんでしょう?」
「何‥‥‥‥?」
「話********? **意味********」
ふむ、どうやらこちらが話しかけていることは気付いてもらえた、だが一部の意味しかわからない、という事はフランス語圏ではないのか? 私は次に公用語である英語圏の設定にして再び同じ言葉を喋る、すると……
「む? 君はこちらの言葉が解るのか?」
「すごい!この人こんな短時間でこの世界の言葉を…あの、ここは以前貴方の住んでいた世界では無いですよ? ここは【ファンタジア】という世界なんですけど私の言っている意味は解りますか?」
今度はキチンと翻訳されて返ってきた、どうやら英語圏の世界か……しかし【ファンタジア】とは一体? 私がいるここの土地はイギリスやフランスでもアメリカ等でも無いという事なのか?
私は再び翻訳機を通して話しかける
「すみません、言っている意味が解らないのですが、ここはアメリカやイギリスでは無いのですか?」
そう言うと二人はまたお互いに話をし始め、しばらくして若い男の方が話しかけてくる
「すまない、私たちは君が今言ったアメリカやイギリスという国についてはよく知らないのだ、ただ確かなのは君が今いるところは元の世界とは別の世界にいるという事だ。」
そう言うと今度は女性の方が申し訳なさそうな顔で話しかける
「ごめんなさい、実はこちらの都合で『ランダム召喚』の魔法を使ったの、そしてそれによってこの地に召喚されてきたのがあなたという訳なの、本当にごめんなさい」
そう言って女性は帽子を取り深々と頭を下げた、私は慌てて
「いえ、そんなに謝らないでください、ここが以前私が居た世界では無いというのは理解しました、ですが何故ここに召喚……されたのかは、よくわかりません……そういえば二人のお名前は? 」
そう言うと二人はハッとして
「ああ、名乗るのが遅くなってしまったな、すまない、俺の名前はボルグ、勇者をやっている」
「そしてあたしはエミーっていうの、職業は魔法使いよ、よろしくね」
二人の名前と職業を聞き、ああ、やはりファンタジーの世界に来てしまったのか……と再確認して納得する。
「ボルグさんとエミーさんですね? 初めまして、私はアンドウ、アンドウミキオと申します。」
私はそう言って軽くお辞儀をする、すると、奥に控えていた大柄な男が私の前に進み出てきた。
「話は終わったか? 俺の名前はマルク、職業は戦士だ、よろしく」
そう言ってマルクは手を差し出してきた、恐らく握手の催促だろう、別に遠慮する理由など無いので私はそれに答えて握手をする。
「初めましてマルクさん、これからよろしくお願いします、しかし先ほどおっしゃっていた、そちらの都合というのは一体どういう事なんでしょう? 詳しく教えて頂けませんか? 」
そう言うとマルクは
「その事はボルグから聞いてくれ」と言うと、また奥に引っ込んでしまい、焚火の見張りをし始めた……あまり社交的ではないのだろうか、マルクの言葉を受けてボルグが説明をしてくれた。
「マルクありがとう、実は俺たちは冒険者なんだが、依頼者の要望で冒険者パーティーは最低でも4人でなければ依頼を受けることが出来ないんだ、当初は4人だったんだが依頼を受けた後に以前いたメンバーの一人と喧嘩になってしまってね、そのままパーティーを抜けてしまったんだ。」
ボルグの説明にエミーが捕捉する
「で、そのパーティーを抜けた子は盗賊だったんだけど、以前から問題行動が多かったし報酬の分配で度々揉めていたの、でも冒険者パーティーが受けた依頼の報酬はパーティーリーダー若しくは均等に分配っていうのがこの世界のルールだったのよ、だから以前、探索の途中で盗賊が手に入れた金品を後で分配しようとしたら怒っちゃってね、それで今回の依頼も手に入れたお宝は依頼達成後に均等に分配しよう、って話になったら怒って出て行っちゃった、という訳、全く勝手だよねー。」
エミーという魔法使いの補足説明を聞いて
「それは、大変でしたね」
と返したものの……正直、冒険者パーティーの勝手な都合で突然召喚されてしまった自分は一体何なのだ? と思ったが、ここで関係を悪化させると、この世界に疎い自分が早々に野垂れ死ぬことは目に見えていたので黙っておくことにした、なので代わりに一つ質問をする。
「そちらの話は理解しました、では、こちらからも要望…というよりお願いなんですが。」
「ああ、俺たちで出来ることなら何でも言ってくれアンドウ。」
「そうそう、これから一緒に旅をする仲間なんだもの」
「うむ」
ああ、やはりマルクは普段から喋らないようだ、ともあれ三人の好意にここは甘えるとしよう。
「ありがとうございます、では、此方としてはこの世界の詳しい情報、そして言語を教えてもらえないでしょうか? 正直このままだと意思疎通が難しくなりそうなので。」
携帯翻訳機が使えたのは不幸中の幸いだ、だが充電する目途が立たない現状で電池が切れた後に、この世界の住人と会話が出来ないのは非常にまずい、言葉が分からなければ宿を求めることも困難だろう、そうなればこの世界で野垂れ死ぬことだってある、先ずはこの世界の言葉を学ばなければならない、読み書きはもちろんだが礼儀作法やこの世界の常識もある程度把握しなければならない。
「ああ、それならアタシに任せて! こう見えても魔術学院をトップで卒業した天才なんだから!」
そういうエミーに
「そういう事は自分で言うもんじゃないぞ、兎も角、これからよろしくなアンドウ」
「冒険者パーティー【シグマ】にようこそ! 歓迎するわよ! アンドウ!」
そういって二人は私の手を取り握手を交わした……
「取り敢えず今日はもう遅い、出発は明日にしよう」
と、自分の寝床はどうなるのか気になったので聞いてみると
「一応予備の寝袋が有るからそれを使うと良い、臭いは……まあ、洗濯はしてあるから大丈夫だ、細かいことは気にするな。」
という事で寝床に関しては問題なかった、本来は交代で見張りをするのだが、私は休んでいて良いとの事なのでご厚意に感謝しつつ休む事にした。
「……う、若干……汗臭い……いつ洗濯したのやら……はあ。」
そして夜は更けていく
そして翌朝、今回の依頼は長期間にわたるもので、緊急という訳でも無い為、【シグマ】は一旦町に戻り、私の教育や訓練をしてくれることになった、町への帰路、三人は大雑把にこの世界の事を話してくれた。
ある日突然、異世界に召喚された私は、召喚した冒険者パーティーと共に異世界【ファンタジア】の冒険者として生きていくことにした、しかし翻訳機の充電池が切れる前にこの言語早く覚えないとなあ……最近、物覚えが良くないんだよな……歳はとりたくないものである。
身振り手振りでもなんとかなるけど、話せた方が便利なのはどこの世界でも同じことですね。