いざ出発
「はい、これが通行証です。22時を過ぎると、ゲートは閉まりますので、注意してくださいね」
モルトの商業ギルドとつながっているゲートをくぐると、ビガー鉱山と、そこで働く人たちを管理している、商業ギルドの支部に出るようになっており、鉱山支部の受付嬢から、帰るときに必要な通行証をシエラは受け取った。
ちなみに、この通行証がないと、モルトの街にゲートを使って帰ることができない。また、ビガー鉱山内に立ち入る許可証の役目も果たしているので、鉱山内では必ず目に見える場所(主に首から下げる)に身に着けておくことが義務付けられており、絶対になくしてはいけない大事なものだったりする。
それを首から下げると、シエラは小さく頭を下げて、支部を後にした。
「はぁ…ついに来てしまった…。しかも、なんか妙に視線を感じる…うぅ…」
たくましい体つきをした男性が多くいる鉱山支部に、複数の鶏を連れた女性が現れた為、周囲の視線はシエラに集まっていた。
(鶏連れの怪しい奴がいる、とか思われてるんだろうな、きっと…)
今日は調査も兼ねているため、動きやすいよう軽装で、軽く皮の胸当てなどもつけてきてはいるが、どう見ても冒険者には見えない(自覚もある)シエラ。しかも、明らかに鉱山での仕事に従事するわけでもないのが見てわかる為、鉱山に働きに来ている人たちの興味を引くのは仕方がないことであった。
「しかし…ゲートというのは便利なものだな」
コーカスが言うと、シエラはそうだねぇ、と、速足で移動しながら、薄い反応で返す。
「そうだ…マインアントの巣の規模、昨日言ってたのでほんっっっっっとーに、間違いない?」
シエラが聞くと、トーカスの後ろをついて歩いていたコッカトリスが、コケと短く答えた。
「マジかー…」
昨晩、コーカス達から聞いた情報をもう一度思い出す。
コーカスの配下達の話によると、ビガー鉱山内部から地下にかけて、かなり巨大な巣が作られており、魔物の数は数千を優に超える、ということだった。
「しかも、女王がいたらどうしよう…時期的に、産卵期に入っててもおかしくないのよねー、今って…」
アント系の魔物は、年に数回産卵を行って繁殖するのだが、その産卵時期というのが、気候が比較的穏やかになるこの時期であることが多いのだ。
「それこそ、狩りの訓練にもってこいではないか」
「そうそう。ま、俺がついてるんだ、何とかなるって」
軽い調子でココッと笑うコーカスとトーカスに、暢気なものよね、とシエラは息を吐いた。
「正直、巣を潰すことに関しては、コーカス達がいるから何とかなるとは思ってるけど…今日一日で終われる?」
シエラが聞くと、コーカスは少し唸り、トーカスはちょっと厳しいんじゃないか?と答える。
「そこよ!そこなのよ!!」
「な、なんだ?」
シエラが立ち止まり、声を大にして叫ぶ。すると、周りの鉱夫達が驚き、シエラ達をまじまじと見てくる。
「あ…すいませーん…あはは……」
シエラは慌てて愛想笑いを浮かべ、そそくさとその場を離れていく。
「絶対、定時までになんて終われる気がしないのよ。しかも、今日で終われなかったら、明日もってなるでしょ?そうなったら、私の通常業務がどれだけ溜まると思う??それをこなすために、一体どれだけ残業をしなくちゃいけなくなるって言うの!!」
悲壮感たっぷりのシエラ。コーカス達は、またか、と呆れたように呟いた。
「…では、できるだけ早急に終わらせてほしい、ということだな?」
聞かれてシエラは、目を輝かせながら頷く。
「もちろんよ!!え、なに、できるの!?…って、え?」
急に体が浮遊感に襲われる。
というより、実際に浮いている。
トーカスが嘴でシエラの襟首をつかみ上げたからだ。
「ちょちょ!?」
「なら、まずは急ぎ、巣穴まで向かうとしよう」
コーカスが言うと、他のコッカトリス達がケケー!と鳴きだした。
「まさか」
「行くぞ!」
ドン!と大きな音がするとともに、盛大な土ぼこりがあたりに舞った。
シエラはトーカスについばまれたまま、大きな悲鳴を上げながら、その場から姿を消した。




