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シエラのお仕事

「というわけなので、明日は一日離席します…」


この世の終わり、といった表情で他の受付嬢に報告をするシエラ。それを聞いていた受付嬢たちは、一斉に生温い視線をシエラに送った。


「まぁ、出張だと思えば?ほら、考えようによっては、残業がなくて済む…かも?」


「コッカトリスさんたちお強いですし、姐さんのこと、ちゃんと護ってくれますよ!」


ルーとオーリが励ますようにシエラに声をかけるが、右から左、といった状態で、全くシエラには言葉が届いていない。


「うーん…というか、それって…一日で終わって帰ってこれるの?」


アミットの言葉に、シエラの指がピクリと反応する。


「そうだね。ビガー鉱山でしょ?しかも、今のところ、その情報が上がってきていないことを考えれば、坑道からは離れてる場所ってことだし…そうなると、行って帰ってくるだけでも相当時間がかかるんじゃないの?それを、調査と殲滅までってなったら、一日じゃ足りなくない?」


「ちょ、ちょっとキリル!」


シエラの瞳からは光が消え、口からまるで魂が抜けていっているかのような、死人のようになる。

その様子に気づいたルーがキリルを制すが、すでに手遅れだった。


「ま、まぁ、ほら!鉱山まではゲートがつながってるんだから、それを使わせてもらったら、とりあえずある程度の時間短縮にはなるから、大丈夫じゃない!?」


「そそ、そうだよ!うん、そうだよ!!ほら、ゲートの使用許可は、私が今日、商業ギルドに申請しておいてあげるから!!」


キリルとルーが、シエラを元気づけようと必死にフォローするが、生気のない声で、ありがとう、と小さく呟いたあと、シエラはその場をまるでグールのような動きをしながら立ち去って行った。


「…もう!キリルったら!余計なこと言って!!」


ギルド内にいた数人の冒険者たちを驚かせながら、建物を出て行ったシエラの後ろ姿が見えなくなると、ルーはキリルにぷりぷりと怒った。


「ごめんって!でもほら、ルーだって思ってただろう?」


言われてルーは言葉に詰まる。


「確かに、ゴブリンの集落を一夜にして殲滅したコッカトリス達がいれば問題ないとは思うけど、そもそも今回は、マインアントの巣の大きさが全くわかってない状態で、調査から開始するんだ。とてもじゃないけど、一日で終われるとは思えないよ」


ふぅ、とため息交じりにキリルが言う。


「ま、そういうことだから、暫く帰ってこれないことも想定して、フォローしてやってくれ」


「「「「ジェルマさん」」」」


急に後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはギルドマスターのジェルマが立っていた。


「正直なところ、あいつを通常業務からそう長く外すのはかなりキツいんだが…今回に関しては事が事だしな。それに、コーカスの言うことも一理ある。見つけてきたのはあいつらだ。なにより…ここで下手にこじれて、コーカス達が街で万が一にも暴れる、なんてことがあったらマズい」


「あぁ…」


色々なことを考慮した結果、シエラに犠牲になってもらった、ということだなと、受付嬢たちは納得した。


「それにしても、なんで姐さんだけ、現場にちょくちょく駆り出されるんですか?」


不思議に思ったオーリが、思わずジェルマに聞く。


「そうそう、それ。私も少し疑問だったのよね。うちはそうなのかと思ってたけど、試験官をやるのってシエラだけじゃない?まぁ、やれって言われても困るんだけど」


アミットの言葉に、他の受付嬢も頷いた。


一般的に、受付嬢の仕事は、主に依頼関連の受付に関する業務や素材の売買関連となっており、冒険者たちの教育・育成や昇段関連については、ギルドと教官契約を行っている冒険者、もしくは専属教官が担当することとなっている。

もちろん、ここ第一ギルドでもそれは変わらないのだが、なぜか時々、教官の仕事もシエラが請け負っていることがある。


「まぁ…ちゃんと説明しとかないとだわなー」


受付嬢たちの視線を受けて、ジェルマはポリポリと頭を掻きながら答える。


「元々、シエラがいたギルドが田舎の方で人手不足でな。受付嬢だったシエラが、基本的な仕事全般をこなしてたらしいんだ」


「……え?全般ですか?」


ジェルマの言葉に、ルーは思わず聞き返す。その様子に、彼は苦笑した。


「あぁ、全般、だ。さっき言ってた、試験の監督官もその業務に含まれている。さらに言うと、冒険者自体も少なかったから、簡単な依頼で長期対応がなされていないものの対応も、シエラがやってたりした」


「「「「はぁ!?」」」」


ジェルマの言葉に、受付嬢たちは驚きを隠せず、思わず大きな声で叫んだ。


「なんでもってわけじゃないが…そうだな、ゴブリンくらいまでなら、シエラ一人でも討伐しようと思えばできるらしいぞ。そこで受付嬢として仕事してるときに、今もってるスキルなんかは取得したらしいし、解体に関してもそこで一通り覚えたって言ってたな」


「か、解体までできるの?」


「え、姐さん、ゴブリン倒せるんですか??」


みんなが口々に思ったことを呟く。


「だから、費用対効果を考えれば、知識と経験、ある程度のスキルを持ってたら誰でもできる試験官と、専門の知識やスキルを必要とする教官、どっちに何を割り振るかなんて、言わなくてもわかるだろ?」


ジェルマの言葉に、受付嬢たちは絶句する。


「ま、そういう事情があるってことで、お前らも、シエラのこと、フォローしてやってくれ。あ、何なら、シエラみたいにスキル取得して、代わりにやってくれても」


「あー、そういえば、地図が減ってきてたんだけ。オーリ、手伝ってー」


「そろそろ解体してもらってた素材が上がってくる頃だった、取りにいかないと」


矛先が自分たちに向いたとわかった瞬間、受付嬢たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

その様子に、ジェルマは苦笑しながら、執務室へと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
技能手当てをつけんかい、ブラックぅ(´・ω・)
まさに器用貧乏の典型ですね、合掌
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