大事なことって人によって違いますよね?-1
「じ、ジェルマさん、いる…?」
真っ青な表情で、息絶え絶えな状態でギルドの中に入ってきたシエラは、ふらふらとした足取りで、カウンターで受付業務を行っていたキリルに声をかけた。
「し、シエラ!?ちょっと、どうしたの?大丈夫!?」
「全然大丈夫ではない。けど、それよりも、ジェルマさん、いる?」
シエラが聞くと、キリルはちょうど戻ってきたところだよ、と頷いて答えた。
「ありがとう」
ふらつきながらジェルマの執務室へと向かうシエラに、慌ててキリルがカウンターから出てきて肩を貸す。
「今日、休みだったはずでしょ?何してたのよ?」
「…ちょっと…乗り物酔い」
キリルに聞かれて、シエラは小さく答えた。
森でマインアントが巣を作っている、という話を聞き、すぐさまギルドマスターであるジェルマに報告をする必要がある、と判断したシエラ。内容的に、あまり時間的猶予がないと判断したシエラは、街までの移動時間を考え、断腸の思いでコーカスの背中に乗って街に帰ることを選択した結果、コーカスの背中酔いになった、というわけだった。
「乗り物酔い?え?シエラ、乗り物酔いなんてなったことあったっけ?」
大量のはてなマークを飛ばし、首を傾げるキリルに、シエラは聞かないで、と口を押えながら言う。
「ジェルマさん。キリルです」
執務室に到着すると、コンコン、とノックをし、キリルが声をかける。中から、入れ、という声が聞こえてきたので、キリルは失礼します、とドアを開けて、シエラを連れて中に入った。
「…どうした?って…シエラ。完全に死んでんじゃねーか」
入ってきたのがキリルだけでなかったことに気づいたジェルマは、真っ青な顔のシエラを見て、何があった?と聞いてきた。
「お水入れてきてあげるから、ちょっとソファに座ってなよ」
「ごめん、ありがとう、キリル」
「気にしないの」
そう言って、ソファにシエラを座らせると、キリルはパタパタと部屋を出て行った。
「…話は、その増えてる白い奴らのことか?」
ジェルマがちらり、と視線をシエラの後ろに移す。そこには、コーカスとトーカスの他に数羽の白い鶏がいた。
「あぁ…それもありますが。今回はそれより急ぎの件です」
シエラの言葉に、ジェルマがピクリと眉を動かす。
「なんだ」
シエラに視線を戻すと、シエラは深呼吸を一つし、ジェルマを見て言った。
「ビガー鉱山にマインアントが巣を作っているそうです」
「な…!?」
「しかも、彼らの報告によると、場所はクッティ・サーク山脈側から侵食してきている、とのことです」
シエラの言葉に、ジェルマはガシガシ、と頭を掻いた。
「…新たに坑道を広げる予定の方向じゃねーか」
「はい…」
ジェルマの言葉に、シエラは小さく頷いた。
ビガー鉱山は、モルトの北側に位置する鉱山で、サントリーオ王国内で流通している鉱石の、約6割がこの鉱山から取られており、王国に存在する鉱山の中でトップクラスを誇る。また、通常、鉱石は一度とるとなくなってしまうものなのだが、なぜかこの鉱山に関しては、一定期間を過ぎると、鉱石がまた新たに産まれてくるようになっており、安定して供給ができることから、この鉱山での労働を希望する人は後を絶たない。
そこで、新たに坑道を増やそう、という動きがモルト内で起こっており、ちょうど、まだ手つかずで残っているクッティ・サーク山脈側に1本、追加しよう、という話が、今年の初めに出たところだったのだ。
「予算が決まりそうな段階だったかと思われたので、ちょうど、調査依頼を出すための試算をこの間やったところです」
クッティ・サーク山脈はビガー鉱山に隣接してそびえる大きな山脈で、隣国のギガルメシュ王国とサントリーオ王国を隔てている。このクッティ・サーク山脈には、かなり強力な魔物たちが住み着いており、クッティ・サーク山脈を隔てて隣にあるバーサックの街とは、何か異変があった際は、情報を共有し、基本的にはクッティ・サーク山脈には不可侵とし、山脈で何かがあった際は、両方の街で協力して事に当たる、という協定を結んでいる。
「今回は、とりあえず、場所はビガー鉱山ということなので、うち側の管轄だけの話ですが、出所がクッティ・サーク山脈の魔物であることがもしわかった場合は、バーサックにも連絡をして、対処法を決めないといけなくなります。…そうなると、このあいだ出した試算もやり直しです」
「マジかー…」
頭を抱えるジェルマに、シエラも大きくため息をついた。




