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ジェルマの話の内容を要約すると、こういうことだった。
クイーンの存在を確認し、報告のために街に戻ろうとしていたところで、偶然、バルディッドがスミレたちを見かけた。そばにいる魔物がコッカトリス、それも、ユニーク個体だということに、魔物学者のバルディッドはすぐに気づき、少女が襲われるのではと思って駆けつけようとしたところ、少女と2匹が会話をしていることに気づく。一瞬、独り言かと思ったそうだが、明らかに会話をしており、しかもその内容が、スキルの使い方を2匹が少女に教えているようだった、とのこと。
危険がないことが分かった冒険者に、バルディッドはそのまま、街まで強制連行されたため、その後、少女たちのことがどうしても気になったため、調べていった結果、第1ギルド所属の冒険者であることを突き止め、話を聞きたい、と打診が入ったとのことだった。
「なんでこんなピンポイントのタイミングで…運が悪すぎる…」
そもそも、世間一般の認識として、テイムされた魔物は主である契約者に付き従う存在、というものだ。命令して、何かを手伝わせたりすることはあっても、間違っても、主に対して何かを教えたりするような、講師のような真似事はしない。
「だから最初はスミレに対しての打診だったんだがな。スミレを行かせるわけにいかないだろ?」
「そうですね、あくまでも、テイム契約を行っているのは、一応、私ってことになってますから…」
ため息をつくシエラ。
「しかも今回の件、直接、ジェシーからこっちに連絡が入ったんだよ」
「え。ちょ、ま…じぇ、ジェシーってまさか、第4ギルドマスターのジェシカさんのことですか!?」
「その、ジェシカさんだよ」
「ななな!?なんでギルドマスターが!?」
第4ギルドのギルドマスターのジェシーとジェルマは、もとパーティーメンバーだったので、今でも仲は良い。だが、わざわざギルドマスターが出てくるような話ではないはずでは?とシエラは混乱した。
「テイム委託証明書、あれを発行した理由を聞かれたんだよ」
「へ?」
「俺たちは、コーカス達の実力を知っているし、お前があいつらの手綱をきちんと握れてることも知ってる。マイスがあれば、危害も加えないこともわかっているし、話の通じる奴らであることも理解してる」
ジェルマの言葉に、シエラは頷く。
「はい、だから、今回スミレちゃんと二人を合わせたうえで、スミレちゃんには事前確認をしました」
「だが、はたから見たら、なんだかよくわからない、しかも高ランクの魔獣を、まだ新人で、森に入るのも初めての冒険者に付けて外に出す、なんてのは、ただの危険行為にしか見えない」
「えぇ…」
はたから見たら、逆に高ランク魔獣には見えないし、ただの鶏だろうに、とシエラは顔をしかめる。
「それに、コーカス達が何か問題を起こした場合、その責任は誰がとる?見た目ただの鶏だが、バルディッドみたいに、あれがただの魔獣じゃないことに気づく人間だっている。もしかしたら、コーカス達を狙って、スミレに被害が及ぶかもしれない」
言われて、シエラはハッとなる。
「だが、ま。正直、うちのギルドは新人育成をする側の人材が不足していることも事実だ。冒険者の先輩から教われ、なんて言っても、その冒険者たちにも生活がある。中堅どころの奴らは上位に上がるために必死だし、上位の奴らは奴らで、指名依頼をこなさなきゃならないしで余裕がない。下位の奴らは人に教えられるような状態じゃないし、となったら、少しでも育ってもらうためにはギルド側としても、人材を補充・提供する必要があるが、いかんせん、都合よくそういうのに向いた人材がすぐに雇えるわけでもない。ならこの際、人でないことに目をつぶって、その問題が解決するなら、それに越したことはねーだろって思ってな。さっき言った問題は、コーカス達をうちのギルドの講師としてきちんと登録してさえいれば、身元の保証になるし、何か問題が起こったとしても、俺たちが責任を持ち、動くという証明になる」
「あ…」
シエラはジェルマの言葉に、頭を下げた。
「すいませんでした。認識が甘すぎました…スミレちゃんにも、迷惑をかけてしまうところでした」
シエラが言うと、それは俺じゃなく、スミレに言えよ?とジェルマは手をひらひらさせながら言った。
「ま、どうせお前のことだ、申請は上げるつもりだったんだろ?」
「はい、今日書類作成する予定でした…」
シエラが言うと、ジェルマはやっぱりな、と苦笑した。
「ま、今後はできれば事前にちゃんと一言、俺にも相談してからにしろ。何かあったときに、俺も動きやすい。報・連・相。基本だろ?」
「はい、肝に銘じます。ありがとうございます」
ジェルマの言葉に、シエラはもう一度深く頭を下げた。




