承認をお願いします-1
「おい、シエラ。今、ちょっといいか?」
朝の受付ラッシュが終わり、書類の整理をしていると、ジェルマが手招きして声をかけてきた。
「はい、ちょうどひと段落付いたとこなんで大丈夫です。なんですか?」
なんだろう?と思いつつ、控えの書類を机にしまってジェルマの方に行くと、ちょっとこい、と言って、執務室へとそのまま連れられた。
「コッカトリス達の講師申請の件で、第4ギルドから最終承認前の確認のために明日の14時にミーティングするから来いってよ」
執務室に入ると、ジェルマは自身の椅子に腰かけながら言った。
「はい、わかりましたって…え?講師申請、私まだ出してないですよね?」
今日、これから承認申請を上げる予定にしていたので、まだ未申請のはずなのに、と首を傾げるシエラ。
「こないだ、スミレに付けてコッカトリスを外に出しただろ?」
「はい、スミレちゃんには事前承認もらって、二人を護衛兼教官役としてお供させました」
急になんだ?と思いつつもシエラが頷くと、ジェルマはため息を小さくついた。
「第4ギルド所属の奴に見られてたみたいでな。あれはなんだって、確認が入ったんだよ」
「え??い、いやいや、傍目には見た目ちょっといい感じの鶏にしか見えませんよ?よしんば、あの二人が魔物だってわかったとしても、スミレちゃんがテイムしてるようにしか見えなくないですか?それを連れてるだけで、あれはなんだ、なんてならないと思うんですけど」
シエラは確認が入る意味が分からず、首をさらに傾げた。
「森での様子を見た冒険者からの確認だそうだ」
「森での様子?」
スミレやコッカトリス達から、特に何か問題があったとは報告は受けていない。確かに、いきなり魔物を狩ってきていたことに驚きはしたが、所詮、Fランク推奨レベルの魔物だ。スミレが初めて森に入った、という事実を知らなければ、そこまで驚くことではない。
「その日な、第4ギルドの方でフォレストアントが巣を広げているかもしれないってことで、冒険者に調査依頼を出していたそうだ。で、その結果、どうも、クイーンアントが生まれたことが分かった」
「げ、またですか?」
クイーンアントというのは、フォレストアントより二回りほど大きいサイズのフォレストアントのメスで、基本、フォレストアントの群れにつき、1体存在する。このクイーンアントが産卵によって、フォレストアントを増やしていくのだが、時々、クイーンアントの後継者となる個体を生み出すことがあり、その個体が育つと、クイーン同士が戦い、負けたほうは巣を出ていき、新たにコロニーを作る、という性質を持っている。
「確か、5か月くらい前に一度、巣を出て行ったクイーンを討伐したばかりじゃなかったでしたっけ?」
基本的に、クイーンが産み落とされる周期は約2・3年である、と一般的には言われている。だが、ここ数年、モルト近くの森では、1年に1度くらいのペースで、クイーンが生まれていることが確認されていて、その討伐対応は第1ギルドが請け負うことになるので、シエラは小さくため息をついた。
「ま、その話はまたあとでだ。で、話を戻すが、その調査に、魔物学者のバルディッドが冒険者と一緒に出てたそうなんだ」
「げ!?」
ジェルマの口から出てきた魔物学者の名前に、シエラの表情が一気に青ざめる。
「お前も聞いたことくらいあるだろ?バルディッド・ルーイェン。第4ギルド所属の魔物学者」
「魔物の生態解明にその生涯を捧げていて、その解明のためにはどんなことも厭わないって噂は聞いたことがあります…」
実際に面識はないのだが、バルディッドの噂話はちょこちょこ耳にしていたシエラ。
「その名前が出るってことは、まさか」
「その、まさかだよ」
ジェルマの言葉に、シエラは顔を両手で覆った。




