今日も安定の残業です-8
何とか無事、卵を返し終えた二人は、再びゲートを通ってジェルマの執務室に戻ってきた。
「もう…今日もこんな時間……」
壁の時計を見ると、時刻はもうすぐ23時になろうとしていた。
「また、こんな時間…もう、いつになったら定時に上がれるのよ…」
はぁ、とため息をつきながら、シエラはジェルマに、お先に上がります、と頭を下げて部屋を出る。
「あ、シエラ、無事だったのね!」
このまま作業着で帰ってしまおうかと悩みながら階段を下りていると、1階の待合用においてある長椅子に座っていたルーが声をかけてきた。
「あれ?ルー、帰ってなかったの?」
こんな遅い時間なのに、待っててくれたのかと、少し、顔がほころんだ。
「遅くなりそうだと思ってたから。はいこれ、隣の食堂でおにぎり握っておいてもらったから」
ギルドに隣接する食堂は、夜は酒場として街の冒険者御用達の場所となっていて、その分、安くておいしいメニューが豊富にあり、かなりの人気店だ。
「わーん!ありがとう!もう、晩御飯は諦めるしかないと思ってたよ…」
シエラはもともと、ギルド職員の宿舎に現在は住んでいるので、食事もそこでとることができるのだが、食事の提供時間は夜は22時までと決まっているため、帰っても食べるものがない状況だったのだ。
「無事に帰ってこれたってことは」
「うん、話が通じる相手でよかったよ」
はぁ、とシエラはため息交じりに、コッカトリスたちとのやり取りを、ルーに伝えた。
「それにしても、ほんと、持ち込まれたのがここのギルドでよかったわ」
自分の席に戻り、おにぎりを食べながら書類をまとめるシエラに、ルーが言う。
「だって、これがもし北の第4ギルドだったら…」
「あー…たぶん、コッカトリスとの全面戦争もあり得たね…」
二人は第4ギルドのギルドマスターを思い浮かべて苦笑いする。
「まぁとにかく、お疲れ様。明日も早いんだし、書類は明日にしてもう帰ろうよ」
ルーに言われて、シエラはそうだね、と頷いた。
「あーぁ…結局今日も定時に上がれなかった」
「まだ言ってんの??」
驚いた、と目を丸くするルーに、シエラは頬を膨らませた。
「私は、仕事大好き人間じゃないのよ!定時に上がって、のんびり街を散策しながら帰って、ゆっくりと夕食を堪能した後、たっぷりお風呂を堪能して、すこーしだらだらしたら、しっかりと眠りたいの!もう、いつになったらその夢は叶うのよー!!」
シエラの叫び声に、ルーはいつものシエラね、と、苦笑していた。