教官は鶏でした-17
「ただいま!」
「あぁ、おかえり、スミレ。今日はどう…」
「シスター、ごめんなさい!今日は疲れたので、もう休みます!」
「え?あ、スミレ!?」
教会に帰ると、スミレは会話もそこそこに、自分の部屋へと駆け込んだ。
シエラから受け取ったお金が入った袋を、机の上にぽん、と置き、ベッドへと倒れ込んだ。
(あぁ、今日はいろいろあったから、水浴びしておかないと。
でも、疲れたし、明日の朝にしようかな)
そんなことを考えながら、ちらりと机の上の袋に目をやる。
(夢みたい…この間、やっと、銀貨1枚分を1日で稼げるようになったところだったのに。
今日、たった1日で、銀貨20枚も稼いじゃうなんて)
思わずベッドで足をばたつかせてしまう。
「まずは頑張って、師匠に教えてもらった通り、スキルアップのために訓練しつつ、確実に魔物を仕留められるようにならないと。教会にいられる期間も決まってるし、できるだけたくさん稼いで、お金を貯めて、一人でも暮らしていけるようにならなくちゃ」
決意を新たに、スミレはそのまま、すぅっと眠りについた。
◆◆◆◆
こっそりと寮に戻ってきたシエラは、部屋着に着替えて、帰りに買った串焼き肉をテーブルに置き、コーカス達にもマイスを含む野菜盛りを差し出した。
「スミレちゃん、顔つきが今日1日ですごく頼もしくなってたけど…無茶なこと、させてないでしょうね?」
「無茶なことなどさせておらんわ。スミレも、充実した日だったと言っておっただろうが」
「それはそうなんだけど…」
コーカス達をスミレに付けたのは、ソロで森に入ったときに、万が一、命を落とすことがないように、という保険の意味合いが大きかった。
冒険者は自己責任、というギルドの方針からしてみれば、今回の対応はかなり過保護な事案ではある。ジェルマにばれたら、1・2時間くらいは軽く説教されていただろう。
「やっぱり、小さな子が冒険者になって、命を落とすのを見るのは辛いから」
「急になんだ。というか、そうならないようにするために、鍛えるのだろうが」
コーカスの言うことに、ごもっともです、とシエラは苦笑した。
「すべての冒険者を、シエラがつきっきりで育てることなんてできねーだろ?俺や父上を信用しろよ」
「あはは、トーカス様の言う通りだね。うん、そうだね、そうさせてもらいます」
冒険者は自己責任。
ならば私は。
受付嬢として、彼らが日々を生き抜くことができるよう、精いっぱいサポートをしよう。
「あー、なんか柄にもないことで悩んだせいでおなかすいちゃった。さっさと食べて、早く寝ようっと。明日も早いし」
シエラはパンパン、と顔を軽くたたくと、残っていた串焼き肉を一気に頬張り、喉を詰まらせかけて、コーカス達に笑われた。




