今日も安定の残業です-7
ゲートをくぐると、そこにはうっそうとした森が広がっていた。
「さてと、んじゃまずは居場所を探すとしますか」
ジェルマがそういって目をつむる。
と、同時に、ドスン!と大きな音とともに、目の前に全長2メートルはあるんじゃないかという大きさの、金のトサカを持った巨大な鶏モドキ、コッカトリスさんが現れた。
「おっと、索敵する必要もなかったか」
ジェルマが乾いた笑いを漏らす。
「…言葉は通じますか?」
シエラが話しかけると、コッカトリスはちらり、と胸に抱いている卵を見て、大きく、コケー!っと鳴いた。
「あ…こりゃまずい」
ジェルマが呟くと同時に、周囲に見えるだけで、5・6体ほどのコッカトリスが姿を現せた。どの個体もトサカが金色になっており、二人をぎろりと睨みつけている。
「私たちは、卵をお返しに来ました」
こういう時に、怯んではいけない。
シエラは後退りそうになるのをこらえて、最初に現れた個体に話しかける。
「コケーココ、コケー!」
大きく両翼を広げてなおも威嚇してくるコッカトリス。だが、シエラはじっと、そのコッカトリスを見つめ続けた。
「…貴様、盗んだ奴らとは違うな?巣にあった気配と異なる」
不意に、声がした。シエラでも、ジェルマでもない声が。
「だが、その卵は確かに我の卵だ。返しに来れば、我の気が済むとでも思っているのか?」
威嚇していたコッカトリスがすっと下がり、後ろから、白銀色をした、明らかに、この群れの長だと思われる個体が現れた。
「申し訳ないと思っております。盗んだ者は、コッカトリスさんの卵だとは知らなかったもので。…まぁ、そんなことは言い訳にもなりませんが」
シエラが頭を下げると、白銀の個体は、ふむ、と二人をみやった。
「孵化間近の卵だというのに、本当に、申し訳ございませんでした」
そう言って、固定していた布を外し、卵を取り出す。小さく、ドクン、ドクン、と脈打っているのがわかる。
「まぁよい、孵る前に返しにきた貴様らに免じて、今回は許してやろう。ただし、卵を盗みおった不届き者は、暫くの間、森に入れるな。入ってきたのに気づいたときは、奴らだけではなく、他の者にも容赦はせん。いいな?」
「かしこまりました。寛大なご対応に、感謝いたします」
コッカトリスはちらりとジェルマの方を見る。今一つ表情からは何を考えているのかが読み取れないが、明らかに抑えられているその殺気からは、かなりの手練れであることが見て取れた。目の前の少女に戦闘能力はないのはわかっていたが、この男を相手にするのは、いつ生まれるかわからない卵のことを考えると、得策ではない、とコッカトリスは判断したのだ。
「どうぞ。この度は、本当に申し訳ございませんでした」
卵をコッカトリスに手渡し、深々と二人は頭を下げる。
顔を上げると、コッカトリスの集団はいなくなっており、シエラ達は、何とか収まったのだと、安堵の息をついた。