教官は鶏でした-12
「ふむ、スミレは今、12歳なのか」
「はい。もうそろそろで13歳になります。15歳になったら、教会を出て、一人で生活をしていかないといけないので、一日も早く、冒険者として自立できるようになりたいんです」
「偉いな。そんな小さなうちから」
森に向かう道すがら、コーカスとトーカスは、スミレの身の上話をあれこれ聞いていた。
森まで大人の脚で大体1時間程度、子供の足でだと、その倍程度かかるが、スミレはコーカス達と一緒に、トレーニングの一環として、森まで軽くランニングしながら向かっていた。
「しかし、息も乱れず、会話もしながらこの距離を進めるとは、中々やるではないか」
コーカスが言うと、スミレは少し照れくさそうに、ありがとうございます、と答えた。
「私、ラビット族なので、普通の人族の子供に比べれば、体力はあるから」
「いや、それにしても、これだけの時間、走り続けて息も上がってねーじゃん。同じくらいの年の奴らに比べたら、見込みあるって」
トーカスに言われて、スミレは顔を赤くする。
「いつか、森に行く日のためにって、毎日走り込みとか、トレーニングは自己流ですが頑張ってたんです。その甲斐があったのかな」
「うむ。努力が必ず報われる、などとは言わんが、努力をしなければ、そもそも、スタートラインにすら立つことができぬからな」
「今後も、続けろよ」
「はい」
スミレが頷くと、コーカスがペースを落とした。
「ふむ、森が見えてきたな」
木々が生い茂る森。入り口のあたりはまだましだが、奥の方は光がところどころしか差し込んでいないため、少し薄暗く感じる。
目の前までやってくると、森の木はとても大きく、スミレははぁ、と上の方を見上げた。
(やっと、ここまでこれた)
毎日街から少し外れた場所にある草原で、薬草を採取する日々。その傍の道を通って森へと向かう冒険者たち。彼らを見るたび、羨ましくて、羨ましくて。何度も自分も森に入ってみたくなって、近くまで来たことがあったが、そのたびに、まだ、自分には早い、と言い聞かせ、必死で中に入るのを踏みとどまった。
同じ時期に冒険者になった子達の中でも、もうすでに森に入っている子達もいた。何度か声をかけて、一緒に行きたい、と言ってみたかったが、内気なスミレはその一歩を踏み出す勇気が出せず、結局、彼らを羨望の眼差しで見送っていた。
(目標にしていた、防具を買うお金も貯めれたんだ。
次の目標に。討伐依頼を受けるっていう目標を、今度は達成して見せるんだ!)
ぐっと手を握り締め、目の前の森を見据える。
「準備はいいか?」
「はい!」
スミレは気合を入れ、腰に掛けている短剣に手をかけ、ふぅ、と息をつくと、森へと歩を進めた。




