教官は鶏でした-8
「お、お嬢ちゃん、お使いかい?今日はルジーヌが新鮮で安いよ!どうだい!」
「今日はポーブンがおすすめだよー!一籠どうだい!」
防具と武器を無事に購入できたスミレは、コーカス達とともに、夕方まで開いている市場へとやってきていた。
「コーカス様とトーカス様は、マイスがご希望でしたよね?」
スミレが聞くと、コケ、とコーカスが頷いた。
「それじゃぁ…教会の買い出しでいつも行くお店がここにあるので、まずはそこを見に行ってみてもいいですか?」
うーん、と少し考えた後に聞いてみる。コーカスはまた、コケ、と頷いた。
(急に喋らなくなっちゃったけど…どうしたんだろう?)
コケコケと鳴くコーカスを不思議に思いながら、スミレが歩いていると、急に、ふっと大きな影がスミレを覆った。
「?」
振り返ると、そこには大柄な男が2人立っていて、ニヤニヤと笑いながら、スミレの方を見ていた。
(これは、逃げたほうがいいやつだ…!)
嫌な予感がしたので、そのままさっと前を向いて走り去ろうとしたが、一人がそれを阻むように、スミレの前に立つ。
「お嬢ちゃん。珍しいの連れてるじゃねーか」
「お嬢ちゃんにはちょっと勿体ねーんじゃねーか?俺が代わりに飼ってやるから、ちょっとよこせよ」
目の前の男が、コーカスに手を伸ばす。
「だ、ダメです!」
とっさにコーカスをかばうように立つスミレ。
「あぁ?」
小さな少女ならば、少し脅せば簡単に
あきらめるだろうと踏んでいた男たちは、スミレの行動に眉をひそめた。
「おいおい、お嬢ちゃんよ。たかが鶏のために、痛い目見たいってのか?あ?」
苛立ちを隠そうともしない男たちに、スミレは震えながらも、じっと男を見つめて、渡せません、と答えた。
「あははははは!渡せねーってよ。でも、お前の許可なんて求めてねーんだよっと!」
そういって、男がスミレの手をつかもうとした時だった。
「ぎゃぁ!」
コーカスが男の腕を思いきり蹴飛ばし、その勢いで男はそのままぐりんとバランスを崩し、倒れ込む。
「な、なんだ!?」
相方が急に視界から消えたことに驚くもう一人の男。
「てめぇら…さっきから鶏、鶏と…俺様の正体もわからねぇ三下は引っ込んどけや!」
今度はトーカスがバサッと飛び上がり、立っていた男の顔面にけりを入れた。
「ふぎゃ!!」
倒れ込む男に、スミレは目を丸くする。
「スミレ、我等をかばおうとしたその勇気、なかなかよかったぞ?」
「震えてたけどなー」
「トーカス!からかうでない!」
「へーい」
「え、と。あの」
状況が若干飲み込めないスミレに、コーカスは笑いながら言う。
「お主も一人前の冒険者なのだろう?あのような手合いもこれから増えるだろう。その時、どういう対応をするのかを見たかったのでな、少し、最初に静観させてもらった」
「まぁ、弱っちいのに頑張って俺らを守ろうとしたことは褒めてやるぜ」
「トーカス!まぁ…我等だけでも全く問題はないのだがな。はなからこちらを頼るようでは、森に入ることなぞできんからな」
「あ…」
言われてそこで、コーカス達がすごい魔物であることを思い出した。
「そういえば、コーカス様もトーカス様も、コッカトリスさんでしたね…」
スミレの一言に、なんだ、忘れてたのか、と、トーカスが笑う。
「でも、あの、ありがとうございました」
スミレがお礼を言うと、コーカスとトーカスは、気にするな、と笑った。
補足
ルジーヌ:茄子っぽい野菜
ポーブン:ピーマンっぽい野菜
です。




