教官は鶏でした‐6
「それじゃスミレちゃん。これ、コーカス様とトーカス様のマイスを買うためのお金です。二人とも、すっごく食べるから、これで買えるだけ買って、このバッグの中に入れて帰ってきてもらえるかな?」
ギルドに戻ったシエラは、カウンターに戻ると、机からごそごそと取り出した、銀貨5枚が入った小さな袋と、マジックバッグをスミレに手渡した。
「は、はい!」
(お金もバッグも、なくさないようにしないと!)
緊張で手が震えているスミレに、シエラは苦笑しながら、緊張しなくても大丈夫だよ、と笑った。
「あ、それと、これはスミレちゃんに」
「え?」
シエラはスミレに、銀貨3枚を渡した。
「シエラさん、え??」
「だって、スミレちゃんに、コーカス様とトーカス様のお散歩をしてもらう上に、マイスのお使いまでお願いすることになるんだもの。これは、私からスミレちゃんへの依頼報酬の先払いです」
「そんな、でもこれ、多すぎるよ!」
焦るスミレに、シエラはフルフルと首を振る。
「気にしないの!それに、これは正当な報酬だよ?だって、スミレちゃんのプライベートな時間なのに、お仕事してもらうんだもん」
にっこりと笑うシエラ。
「受け取って」
スミレは手にした銀貨を見つめながら、小さく、ハイ、と頷いた。
「では、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
シエラは手を振りながら、スミレとそのあとに続く二匹を見送った。
「おい、大丈夫か?」
ギルドを出て、街を歩く。だが、今まで持ったことのない(スミレ的)大金を手にしているため、スミレの表情は硬く、少し小走りになっていた。
「おい、スミレ?スミレ?…スミレ、危ないぞ!!」
「え?」
「うぉ!」
前を向いて歩いていたにもかかわらず、緊張で視野が狭くなってしまっていたため、急に路地から出てきたおじさんとぶつかってしまう。
「す、すみません!」
慌てて立ち上がり、スミレがおじさんに謝る。
「いやいや、お嬢ちゃんの方こそ大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
下手な人だと、ここで絡まれることもあるのに、優しい人で良かった、とほっとするスミレ。
「そうか、気を付けて」
「おい、貴様。そのケツに隠したものを今すぐスミレに返せ」
おじさんがそのままその場を去ろうとした時だった。
コーカスが少し低い声で威嚇するように言う。
「…な、なんのことだ?って…あ?鶏が喋った?」
一瞬、どういうことかわからず、呆けた表情になる。次の瞬間、トーカスの飛び蹴りが綺麗に決まった。
「ぐわぁ!」
そのまま倒れ込むおじさん。
すると、ズボンのポケットから、チャリンチャリン、と銀貨が数枚とマジックバッグが地面に落ち、そして、上着からは複数の財布が飛び出した。
「え…え!?あ、マジックバッグ!?」
スミレは慌てて地面を見回してみる。が、シエラから渡されたマジックバッグがどこにもなかった。慌てておじさんが落としたマジックバッグを拾い、中を確認すると、シエラから渡された銀貨が入った小袋と、森に行くために必要最低限必要なものを書いてもらったメモが入っていた。
「こ、これ、私がシエラさんからお借りしてるやつじゃないですか!」
真っ青な顔になって叫ぶスミレに、何事だ?と野次馬が集まってくる。
「…あれ?あの財布…あ、嘘だろ、なくなってる!おい!それ、まさか俺のじゃねーだろうな!」
男が落とした財布を見た野次馬の一人が叫ぶ。
おじさんは小さく舌打ちし、慌てて体を起こして逃げようとした。だが。
「貴様、我を今、鶏なんぞと一緒にしたのか?あぁ?」
コーカスがおじさんの目の前に立ちはだかる。
「人のものを盗んでおいて、何しれっと逃げようとしている。ぶつかったのも大方、スミレの持っていたものが目当てだったんだろうが」
トーカスが背後からまた一蹴りする。バランスを崩して、おじさんはまた、倒れ込んだ。
「こら!なんの騒ぎですか、これは!」
バタバタと騒ぎを聞きつけて、衛兵が駆け付けた。
「あ、ちょうどいいところに!こいつ、スリだよ!」
財布に気づいた野次馬が、衛兵に事情を説明している。
「ふん、あとはあ奴に任せればよいか。スミレ、ちゃんと金とバッグは回収したか?」
コーカスに言われて、呆然としていたスミレはハッと我に返り、はい!と頷いた。
「よし、では行くぞ」
そういって、トーカスが歩き出す。
「あ、トーカス様!そっちじゃないです、こっちですよ!」
スミレは慌てて駆け出した。




