今日も安定の残業です-6
仕方がない、とため息交じりに、シエラはパンと手を叩いた。
「剛腕のメンバーは、とりあえず今日はもうお帰りください。ジャイアントボアの討伐の報酬は、明日、朝一でお渡しします」
「で、でも」
「コッカトリスの卵の対応は一刻を争います。ここでグダグダ言い合ってる暇はないんです」
コッカトリスは凶暴な魔獣ではあるが、基本的に人が彼らの領域を犯すことをしなければ、向こうから襲ってくることは滅多にない。
だが、彼らの卵を盗んだりして怒りを買うと、その怒りが収まるまで、どこまでも追いかけてきて、攻撃をし続ける。そして厄介なのは、その怒りが消えるまで、怒りの対象は、彼ら以外のすべてに向けられる、ということだ。過去にはそれで、町が一つ、消えてなくなった、とすら言われている。
「ルー、申し訳ないんだけど、ギルドの施錠をお願いしていい?ギルドマスター、逃げようとしないでください。ほら、お仕事です、行きますよ」
逃亡を図ろうとするジェルマの首根っこを捕まえて、シエラは裏へと引っ込んでいった。
制服から作業着に着替えたシエラは、卵が割れてしまわないように、布でくるんで体の前でしっかりと固定する。卵が割れてしまったら、それこそ、激昂状態のコッカトリスを落ち着かせる術が完全になくなってしまう。
「卵だけは絶対に、何があっても割るんじゃないぞ」
「わかってますよ。私だってまだ、死にたくないですからね…」
ブツブツと二人で文句を言いながらも、ジェルマの執務室にあるゲートの前に立つ。
「はぁ…しかしあいつら、今年の査定、覚えとけよ」
「全くです…」
ジェルマがゲートに魔力を注ぐ。同時に、ゲートが起動し、白い光があふれる。
「さて、行きますか」
「気は進まねーがな…」
「しょうがないですよ、これもお仕事ですから」
二人は項垂れながら、ゲートをくぐった。