教官は鶏でした‐1
認識票の交付をしたり、その他ギルド内での契約、および登録など、諸々の書類業務を行い、いつものように、定時の鐘をききながら、通常の依頼を受けて戻ってきた冒険者たちの報告を聞いていた。
「…ね、眠い……」
ほとんど寝ていない状態のシエラの眠気は、さすがにピークに達していた。
「シエラさん、大丈夫?」
ハッとなり、頭を振って、眠気を必死で追いやる。
「ご、ごめんね、スミレちゃん。大丈夫!仕事の報告かな?」
(いかんいかん。いくら眠くても今は仕事中。
昨日、ゴブ共の駆逐に付き合って徹夜したとか、スミレちゃんには関係ないこと!)
少しまだ心配そうな表情だが、スミレはこくんと頷くと、カウンターに取ってきた薬草類を置いた。
「それじゃ、確認していきますね。今日は、と…おぉ!スミレちゃん、朝露草見つけたの!?」
薬草に交じって、薄水色をした小さな花をつけたものが2本。
朝露草と呼ばれるそれは、様々な状態異常回復薬のベースとして必要になる薬草の1種なのだが、花がついていないと役に立たず、スミレが普段、薬草を探している平原では、中々見つからないものだった。
「それじゃ、今回の買取は…薬草が10束に、セリナズ草が5束、朝露草が2本だから合計で銀貨2枚と、銅貨35枚です!すごいね、スミレちゃん!」
はい、とそれぞれの硬貨をカウンターに置くと、スミレは嬉しそうにはにかんだ。
「これで、ようやく森に入れるかな」
小さな声で呟くスミレに、シエラは、もしかして、と聞く。
「うん、お金がこれで貯まったから。防具と武器が買えるんだ」
へへ、と笑うスミレに、シエラは頭を優しく撫でた。
「頑張ったね、スミレちゃん!これでまた、凄腕冒険者になる夢に、一歩近づいたね!」
「うん!」
シエラは、それなら、と、スミレに1枚の紙を手渡した。
「森に入るってことは、装備を整える気もあるし、もちろん、討伐依頼もこれからは受ける気があるってことだよね?それなら、装備を整えたら、一度、この討伐講座っていうのを、受けるのをお勧めします」
「討伐講座?」
スミレは受け取った紙を見つめながら、首を傾げる。
「うん。討伐依頼を受ける・受けないにかかわらずなんだけど、森に入るってことは、魔獣や魔物と遭遇する可能性があるってことだから、そうなったときの対処方法とか、武器を扱ったことのない初めての人には、簡単な武器の扱い方なんかも教えてくれるし、討伐した時の解体の仕方とか、諸々、必要になりそうな知識を教えてもらえる講習で、特典として、その講習の内容をまとめた冊子もプレゼントしてるんだ。講習料も、銅貨30枚で、そこまで高くないから、おすすめだよ」
「…はい、受けます!」
少し悩んだあと、スミレは大きく頷いた。
「はい、わかりました。それじゃ、いつ受けますか?」
聞くと、スミレはううーん、としばらく悩み、明日で!とお願いした。
その後、残っていた仕事を必死で終わらせ、日付が変わるギリギリ前に何とか仕事を上がったシエラは、コーカスとトーカスを連れて、こっそりとギルドの職員寮へと帰ると、部屋に入ってドアにカギをかけるなり、そのままベッドへと倒れこんだ。
「…何とか、無事、帰れた…長かったよぉぅ…あ、とりあえず、コーカス様もトーカス様も、おなかすきましたよね。でも、仕事が忙しくて、お野菜の買い出しに行けなかったので、申し訳ないのですが、今日はこれで我慢してください」
そういって、マジックバッグから昨日購入した、豆類と穀物類をすべてテーブルの上に出した。
「もう、本当に今日は限界なんです…文句は明日聞きますので、とりあえず、それ、食べて…」
そう言って力尽きたシエラは、ぐぅ、と小さくいびきをかきながら眠りについた。
一応、この世界のお金の価値ですが
銅貨1枚…約10円
銀貨1枚…約1,000円(=銅貨100枚)
中銀貨1枚…約10,000円(=銀貨10枚)
大銀貨1枚…約100,000円(=銀貨100枚)
金貨1枚…約1,000,000円(=銀貨1,000枚)
なイメージです。




