家族ができました-7
「とりあえず…認識票ってまだ、残ってましたっけ…」
テイムした魔獣達の登録業務については、基本的には職業ギルドでの対応になる。門の各入り口には、職業ギルドから派遣された職員が常駐しており、街の中に入る前に、そこで登録などの作業が行われ、認識票を交付される。
ただ、極稀に、冒険者たちが持ち帰った素材(主に卵)が、持ち込まれたのちに孵化し、魔獣や魔物が街中で生まれることがある。その場合、仮登録として、冒険者ギルドで登録・認識票を発行することがある為、各ギルドでも少しではあるが、認識票を持っていたりする。
「ああ、うちでは今まで、認識票の交付はしたことないからな。2つくらいならあるはずだ」
「それじゃ、申し訳ないのですが、認識票の交付処理、お願いできますか?」
本当は、すぐにでもゲートで森に戻ってもらうつもりだったのに、そのお願いをする間もなく、テイムをされてしまったため、シエラはこめかみをぐりぐりと抑えながら、ジェルマに言う。
「仕方ない。本当はゲートで戻ってもらいたかったんだが…」
ジェルマの言葉に、コーカスはコケケ、と鳴いた。
「馬鹿を言うな。報酬がもらえておらぬのに、戻るわけがなかろう」
「それに、もう主従の関係を結んだのだ。今後はここで、世話になるぞ」
「え゛?」
トーカスの言葉に、シエラは思わず顔をしかめた。
「ちょ、ちょっと待ってください。それ、本気で言ってます!?」
「何か不都合でも?」
きょとんとして返すトーカスに、シエラは大ありです!と声を上げる。
「私は自分の食い扶持を稼ぐだけでいっぱいいっぱいなんです!それをコーカス様とトーカス様の分まで稼ぐとか、無理ですよ!?それに、どこで寝泊まりするんですか!うちの寮はペット禁止なんです!」
「ぺ、ペット…だと…!?」
思わず口をついて出た言葉に、シエラはまずい、と口をふさぐ。
「自分の食い扶持程度、稼げないとでも思っているのか!」
が、トーカスの返しに、思わずまた反論する。
「いや、無理でしょうが!どうやってお・か・ね・を!稼ぐって言うんですか!」
外に出れば、魔獣や魔物を狩って、自分たちで食べる分を確保することくらいできるだろうが、街中でそれはできない。シエラは週6日はギルドで働いているし、その間、街の外に出るような暇はない。それに、街中で食べるものを手に入れるためにはお金がいる。そのお金を、魔獣であるトーカスが稼ぐ方法はないのだ。
「素材を持ち込んで、ギルドで売れば金になるだろうが」
「……え?」
トーカスの言葉に、シエラは言葉に詰まった。
(い、いや、そうだけど。
え、何、トーカスが魔物とかを狩ってきて、その狩った獲物をギルドに売るってこと?
てか、なんで魔物がそんなこと知ってんの??)
なんなんだ、この妙に人間臭い鶏は、と思わず心の中で突っ込む。
「いや、まあ、それならお金はできますけど…いや、でも、私は街の外には滅多に出られませんよ?仕事がありますし」
「シエラがついてくる必要はないだろう?足手まといなだけだし」
「いや、そうですけど…え、おひとりで行って、帰ってくるってことですか?」
「何か問題でもあるのか?」
「いやいやいや、大ありでしょう!いくらテイムしてるとは言え、魔獣だけで街中を歩かせられませんから!」
「なら、初心者冒険者の護衛として、連れて行かせればよいだろうが」
トーカスの思わぬ提案に、シエラはこれ以上、反論することができなかった。




