家族ができました‐5
緊急クエスト(と言っても、もう、討伐する対象がいないので、ただの後処理クエストと化してしまっているのだが)に出ていく冒険者たちを見送ったあと、通常通りギルドを開け、緊急クエストを受注できない初心者冒険者たちの受付業務をこなしたシエラは、ちょっと席外すね、と言って、休憩中の札を立てると、仮眠室へと足早に向かった。
「…起きてらっしゃいましたか」
ドアを開けて中に入ると、トーカスがととと、と歩いてきて、シエラの肩にぽん、と乗っかった。
「とりあえず、時間があまりないので…ちょっと一緒に来ていただけますか?」
そういうと、シエラはコーカスを抱きかかえて部屋を出る。
「どこに行くのだ?報酬か?」
うきうきした声で聞いてくるコーカスに、シエラはいいえ、と頭を振った。
「違います。まずはギルドマスターに報告しないとなんで」
そういうと、ギルドマスターの執務室のドアをノックし、シエラです、と中にいる人物に声をかけた。
「入れ」
小さく了承の声が聞こえたので、失礼します、とシエラは中に入った。
「………おま、それ…」
顔を上げてシエラを見た瞬間、ジェルマは手に持っていた書類を床に落とした。
「……昨日、ゲートで戻ってきたときに、一緒に来てたみたいです」
「!?」
昨日のことを必死に思い出すジェルマ、よく考えてみれば、シエラが戻ってきた後、すぐにゲートを閉じていなかったことを思い出す。その後、シエラからの情報をもとに、今日のスケジュールの組みなおしや、後処理のための人員の配置等々を練り直していて…。
シエラのほかに、一緒にゲートをくぐってきたものの存在全く気付いていなかったという事実に、やってしまった、と頭を抱えた。
「他のメンバーには?」
聞かれて、シエラはまだ、と小さく答えた。
「…なぜ、こちらに?」
ちらりとコーカス達を見て聞くジェルマ。
「トーカスがついて行ってしまったのでな、我もついてきただけだ」
コーカスが言うと、トーカスが今度は口を開いた。
「報酬の野菜をじかに見たかったのでな」
こともなげに言う2匹に、ジェルマは、そんな理由で、とがっくりと項垂れた。
「あー、ええとですね、大変申し訳ないのですが、ここは街の中ですので、テイムされていない魔獣や魔物は基本的に、入れられないんですよ。見つかったら大事になります」
大きな街では、人々が安心して暮らせるように、門番を置き、外壁で囲って外の魔物や魔獣たちが簡単に侵入できないようにしている。一部、テイマーと呼ばれる、魔物や魔獣と契約・使役する人たちが存在するが、そういう人たちの連れている魔獣たちには、使役していることがわかるよう、見えるところに認識票が取り付けが義務付けられており、この認識票がないと、たとえテイムしている魔獣であっても、街の中には入ることができない。
もし、それを破って街中に連れて入っていることが分かった場合、即座に捕まり、魔獣もその場で処分されることが、法で決まっていた。




