鳥さん、お仕事の時間です-8
「雑魚がいくら集まろうと、あの程度、さして問題もないが…散らばられると面倒だな」
砦がはっきりと目視できるところまで来たところで、トーカスは足を止め、砦の方を向いて言う。
「いっそ、砦ごと潰してしまうか」
「え?」
何を言っているのか、と、シエラがトーカスの方を見ると、すでにトサカの色が金色に変わっていた。
「な、なにを…?」
「シエラ、こっちにきておれ」
コーカスに服の裾をつままれ、そのまま少し離れた場所に移動させられる。
「砦ごとって…ま、まさか…」
金色に変わったトサカがバチバチっと音を立てて放電し始めた。
パチパチ、と、肌にかすかな静電気の痛みを感じ、気づけばシエラの髪の毛もふわふわと逆立ち始めていた。
「ふむ、時間がかかってはいるが、中々だな。雷との相性は悪くないようだ」
嬉しそうに呟くコーカス。シエラは、これから何が起こるのか、なんとなく想像はついている。だが、本当にそんなことが起こるのか、起こせるのか、と、緊張と興奮に、心臓がバクバクと大きく音をたて、どんどんとその鼓動が早くなっていくのを感じていた。
「唸れ、雷」
トーカスの言葉とともに、一瞬、あたりがまるで昼間のような明るさを取り戻す。その直後、特大の雷が、轟音と共に砦に落ちた。砦は瞬く間に崩れ落ちてゆき、そして、雷によって火の手が上がる。あたりは一瞬にして、火の海と化した。
「こ、こんなことって…」
災害級の事象が目の前で起き、シエラは唖然とする。
だが。
「…真打ち登場だな」
トーカスは大きく雄叫びを上げると、力強く地面を蹴り上げ、砦へと猛スピードでかけていった。
「え?」
砦の方を見ると、そこには、崩れた砦からは、トーカスの倍はあるのではないかという巨体の持ち主が、瓦礫を吹き飛ばし、現れた。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大きく叫ぶそれは、猛スピードで突っ込んできたトーカスの脚をつかみ上げ、そのままトーカスを地面へと叩きつけた。
「トーカス!!」
叫ぶシエラに、コーカスは心配いらん、と、肩に翼を置いてきた。
「大丈夫だ。トーカスは我の息子だ。心配はいらん」
え、なに、その理由、と思わず力が抜ける。
「ほれ、見ろ」
くいっと嘴で促され、シエラは砦の方へと視線を戻す。
すると、地面に叩きつけられていたはずのトーカスが、上空から思いきり突っ込んでいく姿が見えた。
「なるほど、ゴブリンキングか。なかなかレア者だな。滅多にお目にかかれるものではないぞ」
コーカスの言葉に、シエラはごくりと唾をのんだ。
(…危なかった。今集まってる冒険者じゃ、太刀打ちできない。どころか、簡単に全滅してた)
視線をトーカスに戻すと、トーカスは楽しそうに甲高い声でコケー!と笑いながら、キングと戦っていた。
「あ、あはは…私たちなんかで、どうにかできるレベルじゃなかった…」
今日、まさかあのまま連行され、討伐に出向くことになるとは思ってはいなかったが。コーカス達が動いていたのが明日だったら?コーカス達より先に、冒険者たちがゴブリンの砦に到着していたら?私たちが動く前に、キングが他のゴブリンを従えて、街に向かっていたら?
そんなことを考えると、背筋が凍った。




