鳥さん、お仕事の時間です‐3
「うぅ…やっぱり、すごい数がいたみたいですね」
シエラは鼻をつまみながら、コーカスの傍をぴったりとくっついて歩く。そこら中にゴブリンの死体が転がっており、血の臭いが充満している。鼻をつまんだ程度で、その臭いはもちろん止められないが、つまんでいないよりはまし、と、さっきからぎゅっと必死で鼻をつまみ続けているシエラは、必死でこみ上げる吐き気と戦っていた。周囲の死体は原形をとどめていないものも少なくなく、正直、一瞬でも気を抜けば、軽く一吐きできるレベルであった。
「ふむ、中々の数がいたようだな。トーカスの敵ではないだろうが、これはこれで、よい訓練になっただろう」
そんなシエラとは裏腹に、嬉しそうに頷きながら歩くコーカス。シエラはそうですか、とため息をついた。
「ところで、なんで私までここに連れてこられたんでしょうか?」
置いてきてくれれば、今頃、ジェルマに連絡をして、ゲートで街に戻っていたのに、と思ったところで、ふと、ジェルマに連絡を入れていないことに気づいた。
「やっば!すいません、ちょっとだけ、上司に連絡を入れさせてください!」
シエラは立ち止まり、持っていたマジックバッグをごそごそと漁る。急に立ち止まったシエラの方を向いた瞬間、コーカスのトサカが金色に変わる。
「伏せろ!」
「ぎゃぶ!!」
コーカスは叫ぶと同時に、シエラを自身の右翼で地面に叩きつけた。
死んだ、と思えるほどの衝撃が体に走った気がしたが、幸い、顔面を強く打ちはしたが、ケガはないようで、どこからも血などは出ておらず、軽くこけた時くらいの痛みがあるだけだった。
「ケケー!!!」
コーカスの叫び声に、思わず伏せたまま両耳をふさぐ。
すると、自身の上を何かが飛んで行った。
「え?」
顔を上げると、ドカっという音とともに、こん棒のようなものが少し先の地面に落ちたのが見えた。顔をそのまま後ろに向けると、そこには石化したゴブリンが3体ほどあった。
「まさか…」
ちらりとコーカスを見ると、コーカスはふむ、と周囲を見回し、警戒を解く。トサカの色が、金色から赤色に戻った。
「討ち漏らしか、あるいは別の所から戻ってきた奴らか。なんにせよ、もう、周囲にはおらぬようだから大丈夫だ」
コーカスの言葉に、シエラはぶるっと身震いした。
「あ、ありがとうございました…」
コーカスがいなければ、たぶん、あのこん棒は自分を直撃しただろう。正直、もう少し優しく助けてほしいとも思ったが、それは贅沢だな、と頭を振り、お礼を言う。
「気にするな。正直なところ、人に加護を与えたのは初めてだからな。どこまでの効果があるのかがわからん以上、できる限りの危機は排除してやる」
コーカスの言葉に、なんかかっこいい!とシエラは少しときめきを覚える。
「行くぞ」
「はい」
歩き出したコーカスについて、シエラは一緒にまた歩き出した。
ジェルマに連絡をしなければ、と思い出したことを、再びまた、忘れて。




