鳥さん、お仕事の時間です‐2
「ふむ、そろそろ頃合いか?」
「何のですか?」
コーカスの言葉に、シエラは首を傾げた。
「トーカスが、前座のゴブリンどもを駆逐しているころだろう。そろそろ、他の種が出てきている頃合いかと思ってな。見に行くぞ」
そういうと、コーカスはシエラの襟首をまた嘴でつまみ、ひょいっと持ち上げる。
「うわわ!ちょ、え!?」
「行くぞ」
そういうと、コーカスは地面を蹴って、森を駆け出した。
「…………!!!!」
猛スピードでの移動、さらに、服をつまみ上げられ、宙に浮いた不安定な状態。最初にトーカスに乗って移動していた時に比べたら、スピードは落ちているが(落としてくれているのか?)、それでも馬に乗って駆ける以上のスピードが出ているのは間違いない。
(…お父さん、お母さん。先立つ不孝を、お許しください)
これは死んだな。
そう思い、心の中で両親に謝るシエラ。
思えば儚い人生だったなぁ、と、机に隠してあるお菓子は、カビが生える前に見つけてもらえたらいいな、とか、スミレちゃんがパーティーを組めるようになったらいいな、とか、ルーに貸してた本、そういえばまだ返してもらってないな、とか、全然今、関係のないことが頭の中に浮かんでは消えていく。
「…い、おい、…エラ、…シエラ!」
名前を呼ばれ、それと同時に頭に強い衝撃が走る。
「痛い!!…あれ?コーカス様?」
ズキズキと痛む頭をさすりながら、我に返ったシエラ。どうやら、途中で気を失っていたようだ。
「まったく。あぁ、人という生き物が脆弱なつくりであることを忘れておったわ…お前が死ぬと、マイスが食えなくなるからな。仕方がない」
コーカスのトサカが光ると、シエラの手の甲に一瞬、ビリっと静電気のようなものが走った。
「いった!」
急に何が起こったのかと、さする。
「これで、多少のことでは死なんだろう」
「え?」
コーカスの言葉の意味が分からず、首をかしげたが、さすっていた手の甲を見て、シエラは気づく。
「こ、これ!」
手の甲に、うっすらと模様が浮かんでいた。
「我の加護を与えた。このままでは、トーカスの元にシエラを連れていけぬからな」
「トーカスの…元…?」
恐る恐るシエラが聞くと、コーカスは行くぞ、と言ってすたすたと歩きだした。
「あ、ちょ、待ってください!」
コーカスの言葉の意味をそのまま受け取るのであれば、ここはもう、ゴブリンの集落目前なのだろう。それが正しければ、こんなところに一人取り残されては、冒険者ではない自分など、すぐに殺されてしまう。いや、殺されたほうがましだったと思うような状況になる可能性すらある。
シエラは慌てて、コーカスの後を追った。




