今日も安定の残業です-4
スミレを見送った後、事後の事務処理を行いながら、シエラはちらりと壁に掛けられた時計に目をやった。
「…今日はいつも以上に遅いなぁ」
はぁ、とため息をつきながら、机に常備してあるヒマルの種をポリポリと食べる。
時刻はもうすぐ21時になろうとしていた。
「依頼の期日が今日までだから、今日には戻ってくるはずだし」
うーん、とシエラは唸っていると、バン!と大きな音で、ギルドの入り口のドアが開けられた。
「ごめーん、シエラちゃん!遅くなったぜ!」
入ってきたのは、シエラが待っていた、冒険者パーティーの3人組。おせぇ、とぼそりと呟くシエラの顔には、スマイルが張り付けられていた。
「いやー、今回は大物だったから大変だったぜ!」
「大物だから大変だったのもあるけど、そもそもアンタが道を間違えたせいで時間食ったんでしょうが!」
「まぁ、ロイを先行させてしまった僕たちも悪いですよ、ミシェーラ…」
「いいじゃねーか!おかげで獲物もちゃんと見つけたし、他にだって…」
「はいはい、わかったわよ!とにかく、シエラちゃんがこわーい顔してるから、早く報告済ませてきてよ!」
ギャーギャーと騒いでいる3人をジト目で見ているのに気付いたミシェーラが、ロイに促す。
「おぉっとごめんな!ついでに獲物の買取もお願いしたいんだが」
ロイの言葉に、シエラは内心、この時間に買取ですって!?と残業延長確定に心の中で号泣するが、ではこちらに、と、買取カウンターへを促した。
「今日の依頼はジャイアントボアの群れの討伐だったかと思いますが、もしかして…」
嫌な予感がする、と思いながら聞く。
「あ、ジャイアントボアに関しては数が多すぎて持ち帰れなかったからな、回収は別で手配してある。これ、証明部位の牙な」
そういって、カウンターに牙が20本置かれた。
「20頭もいたんですか…ちょっと想定以上に多いですね」
眉を顰めるシエラに、ロイが、数が多くて面倒だった、とけらけらと笑う。
「買取はそっちじゃなくて…こいつだ!」
カウンターにドン、と出したのは大人の男性の顔くらいのサイズの卵だった。
「ま、まさか…」
その卵に、シエラは顔がひくついた。
「おう!ビッグ・ドードーの巣を偶然見つけてな!持って帰ってきた!」
「あほー!!!!」
シエラの大声がギルド内にこだました。
「ちょ、ちょっとシエラ、何ごと!?」
帰り支度を済ませたルーが、慌てて裏から出てきた。
「ルー!今すぐジェルマさん呼んできて!早く!」
顔面蒼白になりながら叫ぶシエラに、ただ事ではないと悟ったルーは、慌ててわかった!と走り去る。
「え?どうしたの、シエラちゃん」
「どうしたもこうしたもないですよ!なんてものとってきてるんですか!!」
キッとロイを睨みつけるシエラに、ミシェーラが首を傾げた。
「…一体、どうしたの?」
何もわかっていない3人に、シエラは泣きそうになりながら答えた。
「この卵は、ビッグ・ドードーの卵じゃありません!これは、コッカトリスの卵です!」
シエラの叫び声に、2人の顔から、血の気が引いた。