鳥さん、お仕事の時間です‐1
コーカスとトーカスの雄叫びに、森にいた小鳥たちがバサバサっと飛んで逃げていく音がした。
それと同時に、トーカスはドン!と地面を蹴って走り出す。器用に木々を避け、あっという間に、その姿は見えなくなった。
「クク…この森ではトーカスの狩りの練習にもならんと思い、今後どうするか考えていたが。なかなかどうして、素晴らしい森ではないか」
鳥の表情なんて、わかるわけない、と思っていたシエラだったが、明らかに、今のコーカスは悪い顔をして笑っているのがわかった。
「そういえば、コーカス様とトーカス様以外のコッカトリスさんたちの姿が見えませんでしたが。どこかに狩りに出かけられてるのですか?」
シエラが聞くと、あぁ、とコーカスが答える。
「この辺りでめぼしい狩りの対象がもういなくなったからな。他に良い場所がないか、偵察に出しているところだ。移動することも検討していたしな」
「そうなんですか」
コッカトリスの討伐に関して、現在ギルドで推奨しているランクは、単体であればCランク、群れで複数の目撃情報がある場合はBランクとなっていて、脅威度としてはそこまで高くはない。だが、コッカトリスが通常状態である場合に限っての話であり、卵泥棒事件の時のように、激昂状態になっているコッカトリスの場合、彼ら自身の身体能力含め、すべてが上昇するため、推奨ランクは単体でもAランクまで跳ね上がる。特に、コーカスやトーカスのように通常個体と異なり、体毛に色がついている個体は、もともとの能力が通常個体と比べ物にならないくらい高いことが多く、そうなってくると、推奨ランクのAランカーでも、相手をするのが厳しくなる可能性があるのだ。
「では、他の方たちが戻られたら、移動されるのですか?」
ゴブリンの集落を壊滅は難しくても、ここでトーカスが大幅に戦力を削いでくれれば、街で集めた冒険者たちでも、後始末くらいなんとかできるだろう(というかしてもらえないと困る)。さらに、コッカトリス達が森から移動していなくなれば、さらに脅威が減り、ギルドへの依頼内容も難度が下がる可能性が高くなる。
(…めっちゃいい!これなら、私の夢の定時上りも…)
希望に満ちた眼差しを向けながらシエラが聞くと、コーカスは首を傾げた。
「何を言っているのだ?ゴブリンが集落を作れるほどの森だぞ?わざわざ移動する必要はあるまい?それに、移動先でマイスが見つかるとも限らんからな」
「え?マイス?」
シエラが言うと、コーカスは頷く。
「あれはなかなか良いものだ。ここを離れてしまったら、マイスが食べられなくなる可能性がでてくるではないか」
「いやいや、マイスなんてどこででも」
入手できる、と言いかけて、シエラは気づく。
(待って、マイスを普通に入手できるのは私たちの話であって、魔獣であるコッカトリスが、マイスを入手するには、マイス畑を荒らすしか…ない!?)
コーカスが言葉を話せるとはいえ、普通に考えて、まず、魔獣に遭遇した時に、相手と会話を試みることは滅多にない。そうなると、一番手っ取り早いのは、マイスを育てている農家の畑から奪う方法。しかしそうすると、農家は被害を被り、ギルドへも討伐依頼が来てしまう。
「そうそう森に来ることはないと、あの時限りと諦めていたのだが。こうしてちょくちょく来るのであれば、わざわざ移動する必要もないだろう?」
コーカスの言葉に、シエラは絶望の表情を浮かべた。
「や、やらかしたー!!!」
あの時の自分の判断は間違っていない。あの時はあれが最善だった。
それは今思い返しても同じだし、たぶん、これから何度考えても、結論は変わらないだろう。
だが。
このやってしまった感が拭えないのもまた、事実だった。




