緊急クエスト-8
「よし、では行くぞ」
「…え゛?」
ホッとするのもつかの間、コーカスの言葉に、まさか、とシエラは冷や汗を垂らす。
「シエラ、トーカスに乗れ」
そう言って、ひょいっとシエラの襟をくちばしでつまみ、そのままトーカスの背中に乗せる。
「ちょちょ、ま、待って…いやぁーーー!!!!」
シエラには一切の拒否権はなかった。
トーカスは、シエラを背中に乗せると、コーカスとともに、地面を思いきりけって、空高く飛び、森を移動し始めた。
(し、しぬ、死ぬ、死ぬぅー!!!)
落ちれば確実に死ぬ。死ねる。
シエラは必至でトーカスにしがみつく。
そもそも、コッカトリスは大型とはいえ、姿かたちは巨大な鶏で、騎乗ができるような体型ではない。しかも、馬などのようにもちろん、騎乗するための鞍なんかも当然ついていない。そんな不安定な獣に、己の力だけで振り落とされないようにするしかないとか、どんな拷問だよ!とシエラは思いつつも、意識が飛んで、手が離れないようにすることだけに必死で集中した。
「よし、この辺りでいいだろう」
コーカスが止まると、トーカスもピタッと止まる。反動でシエラはとうとう地面に落ちた。
「い、痛たたたた…」
勢いが殺された状態だったのが救いだった。しりもちを思いきりついて、お尻がじんじんと痛むだけで済んだ。
「よかった…生きてたよ…うぅ……」
安堵の息を漏らすシエラ。
だが、コーカスはそんなシエラを見て、軟弱な、とぼそりと呟いた。
「コッカトリスと一緒にしないで下さい!私は、冒険者でも何でもない、ただのギルドのいち受付嬢なんです!平々凡々の、ただの一般市民なんですから!あんな超スピード、酔わなかった(吐かなかった)だけでも、えらいと思って下さい!」
ぷんすかと怒るシエラに、何をそんなに怒ることがあるのか、とコーカスは首を傾げた。
「とりあえず…ここ、どこ?」
辺りを見回してみる。随分と猛スピードでの移動だったので、たぶん、ゲートで到着した場所からはかなり離れていることだけはわかったのだが、自分の今いる場所がどこなのか、見当がつかなかった。
「気にするな。ゴブリンどもの巣の近くまで来ただけだ」
「…………え?」
一気に青ざめるシエラ。
「トーカス。これはお前の狩りの訓練だ。行ってくるがよい!」
コーカスはそういうと、コケー!と大きく鳴いた。
そして、トーカスも、それにこたえるように、ケケー!!と大きく鳴いた。




