緊急クエスト‐6
自分の席に戻ると、急いでマジックバッグの数を確認し、貸し出し手続きをする。
「ルー、ごめん、ちょっと私、急ぎの仕事が入ったから、少し出てくる」
「え?ちょ、シエラ!?」
使えるマジックバッグは小さめのサイズのものが2つだけ。
正直これだけでどうにかできるのか、不安しかなかったが、それでも、手土産なしでは確実に目的が達成できないことはわかっていたので、急いでまだ開いている八百屋を探した。
「す、すみません!まだ、買い物できますか!?」
明らかに店じまいをしている最中の八百屋に、シエラは慌てて駆け込み、声をかける。
「お?シエラちゃんじゃねーか。どうした、この時間はまだ仕事だろう?」
片づけていた手を止め、不思議そうに店の主人が聞いてくるので、シエラは、マイスはありますか?と聞く。
「マイス?マイスなら、今日はまだそこに、ほれ」
主人の指さす先には、マイスが積まれたかごが3つほどあった。
「マイスは、これで全部ですか?」
シエラが聞くと、主人は頷いた。
「ちょっと時期が外れてきたからな、売れ残ってはいるが、まだそれでもそれなりに需要はあるからなぁ」
シエラは、他にも何かないかとあたりを見回す。
「…とりあえず、そのマイス、全部ください」
「え!?全部!?」
独身女性が食べきるには多すぎる買い物に、主人は驚く。
「あと、そこにある豆類と穀物系も全部買います!請求は、第1ギルドまでお願いします!」
「えぇ??ぎ、ギルドに請求??」
「おじさん、時間がないの!急いでお金、計算して!これ、全部バッグに詰めるよ!?」
シエラにせかされ、何が何だかよくわからないまま、主人はとりあえず、すべての数を数え、メモをする。
「これ、ギルドで必要なものだから。請求はギルドにお願いしますね!それじゃ!」
「あ、ちょっと!?」
詳細が全く分からないまま、取り残された主人は小さく頭をかいた。
「ジェルマさん!ゲート借りますよ!」
シエラはノックもせずに、執務室に突入する。
と、そこにはジェルマの他にも2人ほど、姿があった。
(げ、やば)
そこにあったのは見覚えのある顔。一人はこの街の領主の側近。もう一人は、近衛騎士だったはずだ。明らかに、平民である自分よりも身分が上の人がいたため、謝ってすまないかもしれない(というか、普通は謝ってすむレベルを明らかに超えている)という事実に固まるシエラ。その様子を見て、ジェルマは頭を抱えた。
「お前…前から言ってるだろうが。部屋に入るときはノックをする、俺の了承が出てから部屋に入る。つーか、人の部屋なんだから、常識だろうが」
シエラは反論ができない。
「す、すみません…次からは…(たぶん)気を付けます」
ごにょごにょと答えるシエラに、ジェルマはやれやれ、といった表情で小さく頭を振った。
「ほら、これ、持っていけ」
「うわわ!ちょっと、急に投げないでください!」
渡されたのは連絡用の通信ができる特殊な魔道具で、リンクの魔法でつながれた魔石同士でのみ、会話ができるという代物だ。
「万が一に備えて、お前が森に行った後、このゲートのリンクを一度切る」
「…ですよね。仕方ありません」
ゲートは事前に仕込んである各所へ、魔力を注げばつながるようになっているが、一度つなぐと、元のゲート側でリンクを切らない限り、つながったままになる。つまり、シエラがゲートを使い、森に行く、ということは、そのままにすれば、森の方からもゲートの入り口を使って、街(ギルドマスターの執務室)に入れてしまうのだ。
そう、森に今溢れていると思われる、ゴブリン達が、ゲートをくぐって、街に来ることが可能になってしまうのだ。
「とりあえず、まずは交渉に行ってこい。戻ってくるときは、その通信魔石で連絡してこい」
「わかりました。それじゃ、行ってきます」
「おう、行ってこい」
「失礼します」
シエラはゲートに魔力を注ぎ、起動させると、頭を下げ、そのままゲートをくぐった。




