緊急クエスト‐3
「すみません、お加減はいかがですか?」
病院の受付で、腹ペコ冒険者たちのいる部屋を聞き、シエラは彼らのいる大部屋の中に入り、声をかけた。
「あぁ、シエラちゃん。俺たちは大丈夫、念のため、見てもらってるだけだし、明日にはまた、いつも通りだよ」
そういったのは、腹ペコ冒険者のリーダー、ヤマトだった。
他のメンバーも目立った外傷はなさそうだったので、シエラはほっと胸をなでおろした。
「大きなけががなくてよかったです。早速で申し訳ないのですが、昨日の偵察の件のお話を、もう一度伺ってもいいですか?」
昨日、アースファイアのメンバーを連れて戻ってきたときに、軽く聞き取りは行っていると、ルーから聞いていたのだが、念のため、もう一度、内容に相違がないか、忘れていたことはないかの確認のため、情報確認を行った。
「…ありがとうございます。では、私はこれで」
一通り聞き終えたシエラは地図とメモをパラパラと確認していきながら、立ち上がると、腹ペコ冒険者たちに頭を下げた。
「明日にはいつも通り、ということでしたので、緊急依頼の受注、よろしくお願いしますね」
にっこりと笑うシエラに、腹ペコ冒険者のメンバーたちは苦笑いする。
「人使い荒いよなー、シエラちゃんは」
「一応、けが人だぜ?俺たち」
「それだけ軽口が言えるなら大丈夫ですよ。戦力として期待してますから」
シエラが言うと、彼らは苦笑いを浮かべながら、わかったよ、と頷いた。
ギルドに戻ってきたシエラは、集まった情報をまとめ、地図の内容も最新のものへと更新する。最新版の地図をいくつか作成し終えたところで、ちょうど14時が来たので、戻ってきた3組の冒険者たちを会議室に招き入れ、彼らに最終チェックをしてもらった。
「では、地図の内容は、これで大丈夫ですね。あとは、ここから推測される、集落の規模なんですが」
シエラが言うと3組ともみんな、渋い顔をする。
「正直なところ、かなりの大規模なものだと思う」
「あぁ、俺らも同意見だ。腹ペコの奴らが遭遇したゴブリン達のことを考えても、正直、斥候役にメイジまで出張ってきてる時点で異常だろ」
「そうね、普通はスカウトとゴブリン数体程度のはずなのに、ホブもいて、メイジまでってなったら、相当な規模である可能性が高いと思うし、たぶん、最終チェック段階だったって可能性も高いと思うわ」
通常、周囲の偵察として現れるのは、ゴブリンスカウトと呼ばれる斥候が得意なタイプがほとんどで、彼らはゴブリン数体と一緒に行動をしていることが多い。稀に、集落が大きく、ゴブリン達に余裕がある場合は、ホブゴブリンと呼ばれる、ゴブリンの上位種が一緒に偵察を行っていることもあるのだが、今回のように、魔法の使えるゴブリンメイジや、弓を使って遠距離攻撃・牽制を行う、ゴブリンアーチャーまで偵察に出てくるというのは、今まで聞いたことがなかった。
「相当、面倒臭いってことですよね」
シエラの言葉に、冒険者たちは苦笑いする。
「とりあえず、ギルドマスターが戻り次第、考えられる対抗策と、集落の候補地点、それから、抜け道の可能性がある場所と、潰すべき場所と確認すべき場所を検討して、またご連絡させていただきますね。明日から大変になると思いますので、今日はゆっくり体を休めて下さい。皆様、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げ、感謝の言葉を告げる。3組のパーティーを見送ったのち、シエラはゴブリン達への殺意を必死で抑えながら、地図とメモの内容を検討しつつ、ジェルマの戻りを待った。




