緊急クエスト‐1
「休み明けって、なんでこんなに仕事があるの…?」
朝一の受付業務を終えた後、休みの間に代わりに対応をしてくれた業務の引継ぎを受けおえたシエラは、机に突っ伏していた。
ぼそっと呟くシエラに、ルーはにっこりと笑って、書類の束を横にドンと置く。
「仕事してないからじゃない。当たり前でしょ?シエラが休みでも、ギルドは休みじゃないんだから」
「うぅぅ…どうしてギルドにはお休みがないの!?」
「…そんなこと、魔獣や魔物にでも文句言いなさいよ」
もちろん、言ったところで意味はないことはわかっている。わかっているのだが、愚痴らずにはいられなかったのだ。
「はぁ…お休みは欲しいけど、休み明けに仕事量が増えることを考えると、休みたくない。いや、休みはやっぱりほしい。でも仕事忙しくなるのは嫌だし…」
どう考えても堂々巡りである。
諦めるほかない。
「ほら、ちゃちゃっと済ませちゃいなさいよ。下手したら、明日からしばらく忙しくなる可能性もあるんだし」
ルーに言われて、シエラは眉をひそめた。
「え、なに?嫌な予感がするんだけど」
「あれ?まだ聞いてないの?」
「何?何の話?」
体を起こしてルーに聞く。と、横からひょこっとオーリが顔を出してきて答えた。
「姐さん、昨日お休みだからまだ聞いてないんですね。実は、噂されてたゴブリンの群れなんですが、相当大規模な集落を作ってたみたいなんです」
絶句するシエラ。
「ちょっと待って、昨日、確か明けの明星の二人が偵察にちょうど行くところを見送ったけど…まって、早すぎない?」
街から問題の森までは、歩いて半日、馬の脚を借りれば2・3時間という距離ではあるが、群れの場所や規模、どの種類のゴブリンがいるのか等を確認することを考えると、正直、1日で終わるのは難しいはず。
「アースファイア。覚えてる?」
シエラはパーティー名を聞いて、目を丸くする。
「え?アースファイアって、うちで活動停止処分出してたBランクパーティーのアースファイア?」
「そう、そのアースファイアがね、どこで聞いたのか、ゴブリンの集落の探索に、いくつかのパーティーが出てるっていうのを聞きつけて、先回りして集落をつぶそうとしたみたいなのよ」
「は!?」
「明けの明星以外にも声をかけてたから、複数のパーティーが今回の探索に出てたんだけど…たまたま、腹ぺこ冒険者のパーティーが、探索してたら、突然爆発音がしたらしいのよ。で慌てて音のした方に行ってみたら、交戦してるアースファイアがいたらしくて。アースファイアのメンバー4人に対して、ホブが5匹、メイジが2匹、姿は見えなかったらしいんだけど、矢が時々飛んできてたって言ってたから、たぶん、アーチャーもいたんじゃないかな。アースファイアのメンバーはもうボロボロで、とにかく、連れて逃げるので精いっぱいだったって言ってたっけ」
絶句するシエラ。
「で、ただの偵察だったはずが、アースファイアが交戦してしまったせいで、ゴブリン達が敵対行動をとる可能性が高くなっちゃってて。今日にでも、緊急で、ゴブリンの集落の殲滅依頼が出る予定になってるのよ」
シエラはそっと、両手で顔を覆った。




