学園で先生のお手伝いをしようー2
みなさま、新年あけましておめでとうございます。
今年も何卒よろしくおねがいいたします。
試験が開始されて数十分ほどが経過したころだった。
コンコン、と誰かがドアをノックしたかと思うと、入り口のドアを小さくあけて、男性教師が顔をのぞかせてきた。
「あ、いた。リオ先生、ちょっといいですか?」
リオを見つけると、彼はそう言ってリオを呼びつけ、彼女に何かを言うと、そのままぺこりと頭を下げてその場を去っていった。
(何かあったのかな?)
不思議そうにシエラが首を傾げていると、リオはシエラのところにやってきて、すみません、と頭を下げた。
「ちょっと急ぎで確認をしないといけないことができてしまって、少しだけ席を外しても大丈夫でしょうか?」
彼女に聞かれて、シエラは少し戸惑った。
「えっと……すぐに戻ってこられますか?」
ここがギルドであれば、二つ返事で承諾するところなのだが、残念なことにここは学園であり、学園のルールやらをシエラは知らないので、あまり長時間、彼女が離れるのはよくない気がしていたのだ。
「はい、ちょっと職員室で確認したらすぐに戻ってこられると思いますので、それまでの間、試験の監督をお願いしてもいいですか?」
すぐに戻ってくるのであれば問題ないか、と思い、シエラはわかりました、と頷いた。
「皆さん、ちょっと急用で少しだけ席を外します。すぐに戻りますのでそのまま試験は続けていてください」
そう言って、彼女は少し申し訳なさそうにシエラに頭を小さく下げて、パタパタと教室を出て行った。
「…………」
リオを見送ったシエラは、ギルドで対応するのと同じように、不正をしている人がいないかチェックしながら、ゆっくりと教室の中を歩いてまわる。
流石に試験開始前に魔道具の持ち込みを見破ったのを目の当たりにしたからか、あからさまに怪しいカンニング行為をしている生徒はおらず、答案用紙に生徒たちが答えを書き込んでいく音だけが教室内に響いていた。
(すぐに戻ってくるって言ってたけど、時間かかってるなぁ)
テストが開始してから30分以上が経過したが、まだリオが戻ってくる様子がない。
正直なところ、学園の試験に関して、試験監督官が部外者のみと言うのは大丈夫なのだろうか、とシエラは少し不安に思っていた。
「……なあ」
とにかく、無事に何事もなく試験が終わってくれればいい、と思っていたところ、一人の男子生徒が声を上げた。
「あのさ、ちょっとトイレ行きたいんだけど」
「え?」
基本的に、ギルドで何か試験を行う場合、その途中で席を立つことは許されない。もし、どうしても席を立つ場合は、その時点で試験終了扱いとなる。
だが。
「ちょっと腹の調子が朝から悪くってさ。トイレ行きたいんだけど」
「……ギルドで試験を行う場合は、途中退席は認められないため、その時点で試験終了扱いになるんだけど」
学園のルールを知らないため、どうしたらいいかわからないシエラは、ギルドの試験のルールを口にして、相手の反応を見てみることにした。
「え、きっびし!学園では別にトイレ行っても問題ないけど。なぁ?」
彼の言葉に、他の生徒たちは試験の手を止めて、少し困惑した様子を見せた。
(この反応は、どっちか判断し辛いな……)
正直なところ、一旦席を外すということは、やろうと思えば外で答えを調べるなりなんなりできてしまう為、基本的に中座=試験終了の扱いとしている。
シエラが学生時代に通っていた学校でも、もちろん同じルールだったので、このルールは一般的なものだと思っている。
だが、ここは自分が通っていた学校でもないし、もしかしたら、この学園ではそこまでルールが厳しいわけでもないのかもしれない。
それに。
「なぁ、ちょっと、腹痛いからトイレ行きたいんだけど!」
大きな声を上げる彼に、他の試験中の生徒の邪魔になってしまう、と困ったシエラは、仕方がない、と頷いた。
「リオ先生が戻ってきたら、君が一度中座したことを伝えますが構いませんね?」
「ああ、かまわねーよ」
シエラの言葉に、彼はにやりと笑って答える。
「あと、念のため、うちの従魔が君が不正しないようについて行くから」
「え?」
シエラが言うと、トトトトとコーカスが彼の足元へとやってきて、右翼をヨッと挨拶するように上げた。
「はい、皆さんはそのまま試験を続けてください」
そう言ってシエラが教室内を巡回していると、彼は小さく肩を竦めながら、教室をでて行った。
もちろん、その後ろにはコーカスがついて行く。
(まぁ、コーカスが見てれば大丈夫かな)
教室内にまた、ペンを走らせる音が響き始めて少しした時だった。
「ぎゃー!!!!」
突然、廊下から聞き覚えのある大きな鳴き声と、それに匹敵する大きな悲鳴が上がった。
何事かと慌ててシエラが教室のドアを開けてみると、そこには先ほどトイレに出て行ったはずの男子生徒が、腰を抜かしたのか、廊下にへたり込んでおり、なぜかコーカスが人と同じくらいのサイズの大きさまで戻っている状態だった。
「え??な、なにこれ、どういう状況??」
意味が分からずコーカスの方を見ると、彼はふん、と小さく鼻を鳴らした。
「こ、殺される……!」
そう言って、へたり込んでいた彼が手を前にかざし、魔法の呪文を唱える。
「あ、マズ、だめ!」
「ケケ―!!!」
慌ててシエラが彼を止めようとしたところ、同時にコーカスが大きく雄叫びを上げて彼を威嚇した。
その威嚇に耐え切れず、彼はそのまま白目をむいて失神し、廊下にぱたりと倒れ込んだ。
「ちょ、え!?ねぇ、大丈夫!?!?」
慌てて彼の元へと駆け寄って、容体を確認するシエラ。特にけがは無いようだったので、ほっと胸を撫でおろす。
「コーカス!一体何があったの!?」
シエラが聞くと、彼はするすると小さいサイズへと戻り、とことこと彼女の元へとやってきた。
「いや、何と言われてもな。何やらごそごそとそこを漁っておったので、何をしているのかと声をかけただけだが」
「え?それだけ?ほんとに?」
シエラが聞くと、コーカスはそうだが、とこくんと頷いた。
「いやでも、それならなんであんな大きくなってたのよ」
「ふん、奴が我に攻撃しようとしてきたのでな、威嚇の意味で少し元のサイズに戻っただけだ」
「えぇ、攻撃?何でそんなことになるの?」
(声かけただけで攻撃って何がどうなってそんなことになるわけ?)
訳が分からずに頭を捻っている時だった。
「あの、シエラさん……?そんなところで一体、何をしているんですか?」
「え?」
振り返るとそこには、リオと彼女を呼びに来ていた男性教諭の姿があり、彼女たちの登場と同時に、授業終了のチャイムが学園内に鳴り響いた。




