学園で先生のお手伝いをしようー1
学園長室を後にしたシエラは、エディに教えてもらったルートで生徒会室を目指して移動を開始した。
出てすぐ左にある階段を二階分上ったところで、左手にある教室の前で困ったようにオロオロとしている女性が目に入り、シエラは足を止めた。
「どうしたのだ、シエラ?」
「え?いや、あそこの人、なんかオーリを大人っぽくした感じだなーって思って」
シエラの視線の先に居る女性を見るコーカス。
困ったときにぺたんと猫耳が垂れるところは、オーリに似ているな、と、コーカスも呟いた。
「でしょでしょ?……オーリ、頑張ってるかなぁ」
モルトのギルドのことをふと思い出し、みんな元気にしてるかなぁ、なんて思っていたところ。
「あ、あの!すみません、助けてください!」
「…………へ?」
コーカスとそんなことを言っていると、突然彼女がシエラの所へやってきてシエラに懇願してきた。一体どうしたのかと、シエラが首を傾げていると、少女は目を潤ませながら、両手を合わせて、拝むようにお願いします、と頭を下げて事情を説明してきた。
「実は、これから調合のテストがあるのですが、その試験の監督を一緒にしてくれる予定だった教諭が、体調不良でお休みしてしまって……。代わりの人を探してたんですが、結局誰も空いてなくて、もうテストの時間が来てしまったので困っていたところで……」
そう言って、彼女はちらりとシエラの着ている制服を見た。
「見たところ、ギルドの職員さん、ですよね……?」
言われてシエラは、なるほど、と頷いた。
「結構人数が多いんですか?」
シエラが聞くと、彼女は頭を縦に振った。
「はい……実は今回、2クラス合同での試験になっていて、生徒が合計で50名ほどなんです」
「あー……それは確かに、一人で監督するのはちょっと大変ですね」
シエラはそう言うと、そう言えば自分も似たような境遇に陥った時に困ったよなー、と、昔の出来事を思い出しながら小さく頷いた。
「私でよければ、お手伝いしますよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
助かった、と女性が喜んでいると、コーカスがシエラの肩に乗ってきて、ひそひそと小さい声で聞いてきた。
「よいのか?生徒会室で待機しておかなくて」
「んー、まぁいいんじゃない?だってお昼くらいまでどうせエディ様達は授業なわけだし。生徒会室でボーっとしてるよりは、困ってる人を助けてあげてる方が有意義じゃない」
それに、そんなに難しいことをするわけじゃないし、とシエラは笑った。
「あ、あの、私は調合の担当教師のリオネッタ・ヴェイルといいます。どうぞリオと呼んでください」
「リオ先生ですね。私は、ギルド職員のシエラといいます」
「シエラさん!ほんとに、引き受けて下さってありがとうございます!」
リオはウルウルと瞳潤ませながら、シエラの手を引いて教室の中へと入った。
それまでざわざわとしていた教室が、リオの登場で一瞬で静かになる。
が、その後ろに見慣れない服を着た少女が一緒に部屋に入ってきたので、また、教室内がざわざわとし始めた。
「皆さん、静かに」
教壇に立って、リオがパン、と手を叩くと、また、教室内が静かになる。
「前回お伝えしていた通り、調合に関する筆記試験を行います。本日は私の他にこちらにいるギルド職員のシエラさんが、試験監督を行います」
リオに紹介されて、シエラはぺこりと頭を下げた。
「何か質問はありますか?」
リオが言うと、一人の男子生徒がおずおずと手を挙げた。
どうぞ、とリオが言うと、彼はちらりとコーカスを見てから口を開いた。
「……そこに居るのは職員さんの従魔、ですか……?」
彼の質問に、シエラはそうです、と答えた。
(そう言えば、もうすっかりコーカスを連れているのが当たり前になっちゃってたけど、よく考えたら、そもそも従魔なんて連れてる人は少ないから、気になるよね)
「ちゃんと従魔契約を結んでいますので、試験の邪魔をしたりはしませんのでご安心ください」
そう伝えると、シエラは安心してもらおうと、にっこりと笑った。
「それでは、他に質問がなければ試験を始めたいと思います。必要なもの以外はすべて、自分のロッカーに片づけていますね?もちろん、魔道具の持ち込みも禁止ですが、皆さん持ち込んでいませんよね?」
『はい』
リオの言葉に、全員が頷いた時だった。
「あの、リオ先生。質問してもいいですか?」
シエラが小さくはい、と手を挙げてリオに聞くと、どうしましたか?と彼女は首を傾げた。
「魔道具の持ち込み禁止ということでしたが、もし、試験開始後に所持が発覚した場合はどうなりますか?ギルドで行う試験などでは、基本的に持ち込みが発覚した時点で受験資格が剥奪されて、そのまま退室となりますが……」
「あぁ、そこは同じルールですね。発覚した段階で、テストの点数は0点になりますし、そのまま退室してもらいます。もちろん、追試の措置もありません」
リスクの方が高いので、そんなことをする生徒は滅多にいませんけどね、とリオが笑って言うと、シエラは分かりました、と頷いた。
「では、1分だけ待ちますので、魔道具を所持している方はすぐに片づけてきて下さい」
「え?」
シエラがにっこりと笑って言うと、教室内が一斉にざわざわし始めた。
「し、シエラさん?」
突然の言葉に、リオがオロオロとしていると、シエラは小さく肩を竦めて続ける。
「ギルドの試験でも、ちょこちょこいらっしゃるんですよね、魔道具を持ち込んでカンニングしようとする方。ちなみに、今このタイミングで自分で魔道具を片付けに行かなかった場合、開始直後すぐに確認に入りますので、そのつもりでいてくださいね」
そう言って、シエラはにぃっと悪い笑みを浮かべる。
「魔道具なんて魔石が含まれてるんですから、持ち込んでたらすぐにバレますよ?あぁ、もちろん、ただのハッタリだと思うのであればそれでも結構ですが、今のところ、少なくとも、三人ほど持ち込んでいるのは分かっていますので」
次の瞬間、ガタガタっと3人の生徒が慌てて机の中や下に隠してあった魔道具を取り外して、後ろのロッカーへと片付けに行った。
「……よくわかりましたね」
リオが驚いたように言うと、シエラは冒険者の方もよくやるので、と笑った。
(ギルドの試験でも、冒険者の人たちが同じように魔道具を使ってカンニングしようとするから、開始前に探索をかけるのが癖になってるんだよねー。魔道具に使用されてる魔石なんて探索すれば一発で見つかるからねー)
ちなみに、ギルドで行われる試験については、カンニングが試験監督に気付かれなかった場合は、隠しとおせたことも実力の内として不問となる。ただし、見つかった場合はペナルティとして、一年間の試験受験禁止処分と次回の受験料の割り増し(通常料金の倍)が課されるので、よっぽどバレない自信があるのでなければ、カンニングを行う人はほとんどいない。
3人が席に戻ったのを確認すると、リオは試験用紙を全員に配っていった。
「それでは、今から試験を始めます。開始」
リオがパチン、と手を叩くと、生徒たちはいっせいに問題を解き始めた。




