現地調査ー2
森の入り口あたりまで来たところで馬車を降りたシエラ達は、各自に荷物を持って、森の中へと足を踏み入れた。
「森、っていうから、もっとこう、薄暗い感じだと思ってたわ」
「そうだね、割と木と木の間隔も広めだから、しっかりと光が差し込んできてるから、これなら昼間でも視界が悪くなることはなさそうだし、安心かな」
きちんと陽の光も所々で差し込んでおり、松明などを用意しなくても、十分視界が確保できていることを確認すると、持っていた紙に書き込みながら、シエラは先へと進んで行く。
「もう少し歩いたところに沢があって、その近くに野営が出来そうな広めのスペースがあったはずだから、まずはそこを目指そう」
そう言って、先導するハルの後を、シエラ達はついて歩く。
道中で何度か魔物に遭遇はしたが、いたのはラージマウスやフォレストスパイダーといった、どこにでもよくいる魔物だけで、それらはコーカス達に瞬殺され、危なげなく目的の場所へと到着した。
「沢は……幅はあるけど、深さ足首より少し上くらいの深さだから、危険は少なそうかな。魚もいるみたいだし、水も綺麗で飲んでも問題なさそう」
沢の水をすくい上げて鑑定をかけ、念のため自分でも一口ごくんと飲んでみる。
「野営予定の場所からもそう離れてないし、ここもオッケーっと」
そう言ってグイっと口を拭うと、また、紙に書き込んでいく。
「野営スペースも、広さ的には十分だね。エディ様、参加人数は結局、最終的に何人になる予定でしたっけ」
シエラが聞くと、荷物を下ろして一休みしているエディが、少し考えて答える。
「確か今回は36名だ。生徒が35名と教師が1名だな」
「……確か、生徒は5人1班に分かれるんでしたよね?」
「あぁ、そうだ」
「ということは、ギルドからは監督官を7名用意する必要があるってことですね」
そう言って、シエラは頭の中で計算する。
(私とフィーヴ、それと、中央ギルドから職員派遣が2名、残り3名は他に冒険者を募集してもらって、これで合計7名ちょうどになるな)
「学園側で36名、ギルド側で7名、コーカス達を含めても、ここの野営スペースなら、後まだ十数人くらいなら問題なさそうだし、大丈夫そうかな」
そう言って、頷きながらシエラはまた書類に書き込んでいく。
「んで?今からさっそく、森の様子を確認するのか?」
「うん、そうだね。ただ、範囲が広いから、手分けしないと」
そう言ってシエラは、エディ達の方をちらりと見る。
「もちろん、僕たちもやりますよ」
にっこりと笑って答えるハルに、シエラはありがとうございます、と言って頭を下げた。
「それでは、ここから西側の方の探索をお願いできますか?確認項目はこの書類に書かれている内容をお願いします」
シエラは1枚の紙を渡しながら言う。
「遭遇した魔物の種類ももちろんなんですが、そのほかに、危なそうな植物が生えていないかどうか、地形が地図と異なっていたり、危険な箇所がないかどうか、その辺りも確認項目に含まれているので、お願いします。あと、お手数ですが、チェックした時間なんかの記載もお願いします。時間経過で変化がないかどうかも確認するためです」
「はい、了解です」
ハルはそれを受け取ると、ニュークと一緒にどう回るのかを話あっていた。
「俺はどこを回ればいい?東側か?」
目を輝かせながら聞いてくる彼に、シエラは心の中で少しため息をつきながら、フルフルと頭を横に振った。
「いえ、エディ様は、今日はここの野営スペースで野営準備と荷物番をお願いします」
「えぇ!?なんで!?みんなでやった方が早いなら、俺もやった方がいいんじゃないか!?」
ぷぅっと頬を膨らませて、思いきりブーブーと不満を漏らす。
「野営スペースでの調査も必要なんですよ」
「え??」
シエラに言われて、エディは首を傾げた。
「そもそも、野営スペースって言うのは、休むことができる程度に整った場所のことを指しているだけで、魔物が出てこないとか、襲われない、という場所ではないんです」
「あぁ、ダンジョンのセーフルームとは違うってことか」
トーカスの言葉に、シエラは頷いた。
「そもそも、ダンジョンにあるセーフルーム自体、いまだになんでそこには魔物が出現しない、入ってこないのか、理由はわかってないからね。でも、そういうセーフルームみたいな場所は、ダンジョンの外ではもちろん、聞いたことがない。だから、現地調査をする場合、初日は野営スペースで1日を過ごしてみて、翌日以降に周辺の調査に移るんだけど、今回は人手があるから、周辺調査と野営スペースの調査とを、一緒に進めようと思ってる」
「だから俺は、ここで荷物番ってことなのか?」
聞かれてシエラは頷いた。
「はい。ただし、荷物番とは言いましたが、もちろん野営の準備と野営スペースのチェック等々、やることはそれなりにありますから、もちろん、エディ様にも働いていただくことになります」
シエラの言葉を聞いて、エディは少し満足げな表情になった。
「なるほどな。それなら仕方がない。俺はここで、仕事をしながら皆の荷物を守ってやる」
「はい、お願いします。あ、トーカス、トーカスはエディ様の護衛も兼ねて、一緒にここに残っててね」
「え!?なんでだよ、俺はシエラの騎士だぞ!?」
シエラに言われて、今度はトーカスが不満を言う。
「私の方は、コーカスがいるから大丈夫。というか、エディ様に何かあったら、私の首が物理的に吹っ飛ぶから、信頼できるトーカスに頼みたいのよ」
シエラがこそっとトーカスに言う。
「……それならしょうがないな」
まんざらでもなさそうな表情を浮かべながら、トーカスはエディと一緒に、どこにテントを設置するかを決めに移動していった。
「……大丈夫かしら、あの二人。ちょろすぎなんだけど」
上手く言いくるめられたと胸を撫でおろすも、こんなに簡単に丸め込まれて、二人とも将来大丈夫なんだろうか、と少し心配になるシエラ。
「まぁ、トーカスは何かあっても、力でねじ伏せられるから大丈夫だろう」
「エディ様も、相手がシエラちゃんだから、あんなに素直に言われたことを受け入れてるだけだから、心配はいらないよ」
「うわぁ!」
ボソリと呟いた独り言に、いきなり返事が来たので驚くシエラ。
「流石に、学園の関係者や貴族たちが相手だったら、今みたいに言われたことを額面通りに受け取ったりはしないよ」
「まぁ、そうですよね、流石に」
(うっかりよく忘れそうになるが)公爵家の長男という彼の立場を考えれば、そんな純粋ではいられないよな、とシエラは彼を見ながら思う。
「トーカスはそもそも人じゃないし、良く考えたら、嫌だと思ったら、暴れて問題解決って手もあるもんね」
自分がテイムしていることになっているとはいえ、そもそも彼は人間ではないのだ。
ぶっちゃけ、暴れられて困るのはシエラであって、彼が困ることはない。
「トーカスもエディ様も、なんかうっかり、そういうの忘れちゃうから気をつけないと」
はぁ、とため息をつきながら、シエラはごそごそと食料をマジックバックに移していく。
「それでは、西側の調査をお願いします。私たちは東側を調査してきます。日没までには、ここに戻ってくるようにしましょう」
シエラが言うと、ハルとニュークはわかった、と頷いて、二人は森の中へと消えていった。
「では、我等も行くか」
「うん、行こう、コーカス。エディ様、トーカス、行ってくるので、ここ、よろしくお願いしますね!」
シエラが少し離れたところにいる二人に声をかけると、彼らは「気を付けて」と彼女たちを見送った。




