だから僕らはここにいる
「なぁなぁ、ジェルマ!ちょっと依頼ってやつを受けてきてもいいか!?」
バァン!と大きな音を立ててモルト第一ギルドのギルドマスターの執務室の扉を勢いよく開けて中に入ってきた男の子は目を輝かせながら大きな声で言った。
「……フィーヴ、急になんだ、いきなり」
珍しく執務室できちんと書類仕事をこなしている最中だったジェルマは、小さくため息をついて入ってきた彼を見ながら言う。
「ステータスボードも無事に再発行が終わったし、念のための冒険者登録も終わってるんだ。別にうちとしては、依頼をこなしてくれるってんなら願ったり叶ったりだ。別に構わねーぞ」
フィーヴと知り合ってからの期間自体は短いが、色々と話をしてみて、思いの外、人と暮らす上での常識や必要な知識なんかはある程度持っていて、コミュニケーション等についても十分対応ができていたので、ジェルマとしては、彼の素性はどうあれ、一人で行動することに関しては、シエラときちんと行動に関して制限させていることも考慮すれば、特に問題はないと判断していた。
それに、もう数日前から、ジェルマに暇だのなんだのと文句を垂れてきて、ずっとうるさかった。ここらで息抜きがてら依頼でも受けてれば、少しは静かになるだろう、とジェルマは考えた。
「あ、ほんと!?やったぁ!」
嬉しそうにはしゃぐフィーヴを見て、ジェルマは少し、首を傾げた。
「……まぁ、依頼を受けてくれんのは良いんだが、そんなにお前さんが喜ぶような依頼なんて、あったか……?」
正直なところ、龍種である彼がそんなにはしゃぐほどの楽しい(?)依頼とは、一体どんなものなんだ?と考えても思い浮かばないので、素直に本人に聞いてみる。
「え?あぁ、手紙を届けてほしいって依頼だ!」
「……は?手紙??」
ただ手紙を届けるだけの依頼なのに、何がそんなに嬉しいのかがさっぱりわからず、ジェルマの首はさらに傾いた。
「療養でこっちに母親と二人だけで来てた子がいてさ、体調が良くなったから一度家に帰るって手紙を父親に届けてほしいって依頼だったんだよ」
「……それだけ?」
依頼内容をフィーヴが教えてくれたものの、その内容のどこに、彼がそこまで喜ぶような要素があるというのかわからず、ジェルマは思わず聞き返した。
「それだけだぞ?」
どうかしたか?と言わんばかりの、きょとんとした表情でフィーヴが答えた。
「そ、そうか……まぁ、依頼は依頼だからな」
自分には理解ができないが、彼にとっては喜ばしい何かがあるのだろう、と思い、ジェルマは手元の書類にまた視線を戻した。
「……まぁ、問題ないとは思うが、トラブルやら揉め事やら、起こすなよ?それと、手紙は絶対になくさないようにな?」
ジェルマは書類の内容を確認してサインを書くと、次の書類を手に取り、内容を確認しながら言った。
「わかってるよー。あ、そうだ。ポチも散歩がてら、一緒に連れて行ってもいいか?ポチも一緒に行きたいって言っててさ」
ジェルマはサクサクと書類にサインをしながら、構わねーよ、と答える。
「よかった!ならさっそく、行ってくるかなー。あ、ちゃんとジェルマからも了承もらえたって、ルーの姉ちゃんに伝えなくちゃ」
「……うん?ルーに伝える??」
最後の書類に手を伸ばしたところ、でフィーヴの言葉がひっかかり、ジェルマは顔を上げた。
だが、すでに彼の姿はそこにはなかった。
「はぇーなぁ、おい」
もういなくなってるじゃねーか、と小さくため息をついたジェルマは、再び書類に視線を戻して、黙々と書類作業を行っていく。
漸く、書類作業も折り返しに差し掛かってきたかな、というタイミングで、コンコン、とノックする音が聞こえてきたので、ジェルマはどうぞ、と声をかけた。
「失礼します」
「ルーか。どうした、何か問題でもあったか?」
なんだか少し、落ち着かない様子のルーに、ジェルマは手を止めて問いかける。
「いえ、その、一応了承されているとはいえ、念のため自分でも確認しておいた方がいいかなって思ったんで……」
「確認?一体何のだ?」
いつもなら、シエラと同じくらい、上司だろうが何だろうが気にせずズバズバと言ってくるルーが珍しく歯切れが悪い。どうしたのかと不思議そうな表情を浮かべるジェルマに、ルーは意を決したように、小さく頷くと、あの、と口を開いた。
「フィーヴさんの依頼の受付の件です」
「あぁー……そういえば、なんかさっき、ルーに伝えるとか言ってたな。そうか、ルーが受付の対応したのか」
それが一体どうしたのかと、ジェルマは首を傾げる。
「……………………」
だが、ルーは何も言わない。
「…………………………それで?」
「……………………え?」
ジェルマにさらに問いかけられて、ルーは思わず眉を顰めた。その表情に、今度はジェルマが、眉を顰める。
「い、いや、依頼内容はフィーヴから聞いてるし、俺も確かに了承したが、それを態々確認する為だけに来たわけじゃねーんだろ?」
ジェルマの言葉に、ルーは思いきり頭を抱えた。
「……おいおい、なんだよ」
(フィーヴから聞いた内容では、ただの手紙の配達。態々ルーがその依頼の受付をしたと報告しに来るほどの内容でもないし、彼女が心配するような問題が起こるようなこともさすがにないはずだ。……なのに、なんでこんな頭を抱えて悶えてるんだ?こいつは)
困惑した表情をジェルマが浮かべていると、ルーはガバっと頭を下げて、申し訳ありません、と言い出した。
「……受付業務が立て込んでいて、しかもジェルマさんの身内だからと、フィーヴさん自身に確認に行かせた私の責任です。本当にすみません」
「…………うん?いやいや、どういうことだ?」
ルーの言葉の意味が分からないジェルマ。頭の周りにはてなマークを大量に飛ばしていると、ルーは依頼の詳細内容、聞いてますか?とジェルマに言う。
「詳細?あれだろ、手紙を届けてほしいって依頼なんだろ?確か、療養に来てたが体調がよくなってきたから、一度家に帰るっていう旨の」
「……どこに届ける、とかは聞いてます?」
ルーに言われて、ふと、そう言えばそれは聞いてなかったな、とジェルマはいや、と小さく頭を振った。
「……配達先が王都なんです。ちなみに、依頼料は彼女が頑張って貯めたお小遣いの銅貨50枚。行き帰りの費用は冒険者負担っていう内容で」
「は!?王都!?」
届け先なんて、せいぜい行って隣町程度だと思っていたのに、まさかの王都。
「いやいやいや、だって、ポチも行きたがってたから、散歩がてら連れてくって行ってたぞ?王都なんて、お散歩がてらちょっとそこまで、なんて距離じゃねーじゃねーか!」
「だから、ジェルマさんに確認して、了承を取ってください、と念のためお願いしたんです」
「……あいつ、さては……!!」
あれだけ喜んでいたのは、配達先がシエラのいる王都だからだということに、ジェルマはすぐに気が付いた。
暇だなんだと言っていたのだ。絶対に、シエラと一緒に居たほうがトラブルがあると思ったに違いない。
「…………だぁ!くそっ!」
まんまとしてやられた。
ジェルマは頭をガシガシと掻きながら、通信魔石を探し出すと、中央ギルドのアオへと急いで連絡を入れたのだった。
*****
「と、言うわけで、こっちまできたら、ポチがシエラの匂いに気付いたから来てみたぞ!」
「ワン!!!!」
「「……………………」」
お風呂から上がると、貴族フロアの方から、トーカスがのぼせた為、先に帰っている、という伝言を受け取ったシエラが、頭痛を覚えながらミュシカと一緒にユートピアから出たところで、なぜかそこには見知った人の見た目をした魔物と、彼女の心の癒しがいて、彼女に気付くと、いきなり飛びついてきて、そう言った。
「な、なんでポチとフィーヴがここに!?」
フィーヴがこっちに向かっている、ということはジェルマから聞いていたが、それは今日のことだったはず。なのに、なぜもうすでに王都にフィーヴがいるのか。しかも、ポチまで連れて。
状況が全く理解できずに混乱していると、フィーヴがここに来た経緯を教えてくれたのだった。
(え……待って待って、何、どうしたらいいの?これ。まず、何からしないといけない……!?)
考えることを拒否する脳みそを何とかフル回転させるシエラ。
「えぇと……まず、依頼の手紙はもう渡してきたの?」
「もちろん!そのために王都まできたんだからな!」
「ワン!」
どやぁ、という表情のフィーヴとポチに、シエラは顔を引きつらせる。
「え、っと……それじゃ、二人はこれから、もうモルトに戻るのかな?」
「え?なんで?」
「わふぅ??」
シエラの言っている意味が分からない、と二人は一緒に首を傾げる。
「せっかく王都まで来たんだから、暫く一緒にいてもいいだろ?」
「ワンワン!!」
「う……」
フィーヴだけならまだしも、心の癒しにまで、縋るような目で見つめられて、シエラはガクッと膝をついた。
「……わ、わかった。とりあえず、まずはアオさんに連絡しないと……」
「大丈夫です。私の方から連絡を入れておいたところ、そのままボルトン卿の家まで連れて戻るように、ということでした」
流石は仕事のできる女!とシエラは感動を覚えつつ、お手間をかけてすみません、と謝った。
「それじゃ、とりあえず一緒に公爵様の家に行こう」
「おう!」
「ワン!」
暢気なその返事に、若干の殺意を覚えたシエラだが、足にポチがすり寄ってきたので、すぐにその感情はどこかへと流れ出て行ったのだった。
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